2023年05月14日 08:51 弁護士ドットコム
「自宅を売却しませんか?」。80代後半の男性が住む家に、不動産業者の社員が訪れた。立て続けのセールストークに押され、1100万円で自宅の売買契約書を締結。本来、自宅の査定額は3倍を超える3400万円だった。男性には認知症の診断があったという。
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高齢者に売却の意思がないにもかかわらず、不動産を相場より低額で買い取る悪質商法が首都圏で多発している。業者が買主となる不動産取引には特定商取引法(訪問購入)や、宅地建物取引業法に基づくクーリングオフの規定は適用されず、被害回復は困難だ。
この問題に取り組む第二東京弁護士会消費者問題対策委員会は、5月15日に電話で被害相談会を行う。今泉将史弁護士は「単身の高齢者が狙われています。家族や地域の人は家に売買契約書がないか、最近来訪者がいなかったかなど確認してほしい」と呼びかけている。
法律の抜け穴を狙ったマイホームの押し買いは、2012年ごろから確認されている。全国の消費生活センターには、こうした不動産売買トラブルに関する高齢者の相談が年600件超と高止まりを続けている。
弁護士らのもとには、査定額3410万円の自宅を半額の1610万円で売ってしまった認知症の80代女性からの相談も寄せられている。
女性の場合、不動産を売却してまとまった金額を得られ、月々の賃料を支払う形で自宅に住み続けられる仕組み「リースバック」の契約も結ばされていた。月額15万円で自宅に住み続けられていたため、被害に気づかなかったという。
リースバックは、住宅政策の一環として国が普及を進めており、近年は業者も増えて利用者が広がっている。住居環境が変わらないため、被害に遭っていても気付かない場合が多い。
今泉弁護士は「国交省が公表しているガイドブックには、消費者が自主的に行動しないと対策できない手段ばかりが書かれています。認知能力が低下している人を救済する制度が欠けているのです」と警鐘を鳴らす。
今泉弁護士によると、被害者が売買の解約をするには、違約金を支払うか手付金を返すかの方法しかないのが現状だ。既に業者が不動産を転売している場合もあり、被害者は家を取り戻せないばかりか金銭的被害も負うことになる。一方で、業者側は解約されたとしても損はなく、利益が得られる形となっている。
業者による虚偽の説明や威迫などが証明できれば、消費者契約法を適用できる余地はあるものの、今泉弁護士は刑事的な責任を問うのは難しいとし、損害賠償を求める訴訟しか手段はないという。
被害救済とともに、新たな被害者を生まないために、まずは事例が多数あることを集約する必要があるため、相談電話を開設することになった。「一人暮らしの親の自宅に不審な契約書があった」「リースバックで契約したものの、不安だ」など幅広い相談を受け付ける。
【高齢者の不動産買取被害110番】
日時:2023年5月15日(月)10時~16時
電話番号:03-3593-6061
※相談料無料・予約不要
※上記電話番号は、5月15日当日以外はご利用いただけませんので、ご注意ください。
【取材協力弁護士】
今泉 将史(いまいずみ・まさし)弁護士
立教大、上智大法科大学院卒。岐阜県での修習経験を機に消費者問題に取り組む。2013年、弁護士登録。東京投資被害弁護士研究会に所属し投資被害をはじめとする消費者問題全般に力を入れている。現在、第二東京弁護士会消費者問題対策委員会の法律相談・消費者法部会部会長。
事務所名:リンク総合法律事務所
事務所URL:http://linklaw.jp/