5月12日、MotoGP第5戦フランスGPの初日セッションで、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は総合12番手だった。クアルタラロは何に苦しんでいるのか。初日の囲み取材で、クアルタラロは「これが今の自分たちのポジションだ」と肩を落とした。
フランス人ライダーのクアルタラロにとって、フランスGPはホームグランプリである。プラクティスでは、クアルタラロがコースインするたびにメインストレート前のグランドスタンドから歓声と拍手が起こり、フランス国旗が揺れていた。
声援を背にしたクアルタラロだが、結果は芳しいものではなかった。午前中のプラクティス1はトップから0.497秒差の11番手、プラクティス2ではトップから0.7秒差の12番手。初日総合としては12番手で、土曜日の予選をQ1から挑むことになった。
2023年シーズン、クアルタラロがQ1からの予選を強いられるのはこれが初めてではなく、第2戦アルゼンチンGP、第4戦スペインGPでもQ2へのダイレクト進出を逃した。さらに決勝レースの結果でも、3位表彰台を獲得した第3戦アメリカズGPを除き、トップ5に入らない苦しい戦いが続いている。
初日後の囲み取材で、クアルタラロは「バイクに乗っている僕でさえ、説明しようがない。バイクに乗っているときのフィーリングがない、ということなんだ」と、現状について説明した。
「バイクはすごくアグレッシブで、いつものように旋回しない。以前は(エンジン)パワーがなくても強みがあったのに、今は持っていたすべての強みを失っているんだ。今は、何かを手に入れても別の何かを失うという感じだ。パワーは上がったみたいだけど、走りの面で、もっと失っているものがある」
ヤマハは2023年型YZR-M1で弱点として指摘され続けてきたトップスピードを向上させた。しかし、エンジンのパワーが上がったことでこれまでの強みである旋回性が失われたという。ハンドリングのヤマハ、とも言われてきたが、今のマシンにその特長は感じられないというのだ。
「エンジンはある程度改善されているけど、ライディングでのバランスなどといったものを崩している気がする。あんなにアグレッシブで曲がらないバイクは初めてだ」
「エンジンのキャラクターが、バイクをすごくアグレッシブにしているのかもしれない。僕たちはパワーを手に入れたけど、どんな形にしろ、それがバイクをすごくアグレッシブにしているんだ。僕はライダーだから、どこで何が欠けている、どこで苦しんでいる、と簡単に言える。でも今は、バイクに乗っているとあまりにもアグレッシブに感じて、バイクがあまりにも暴れていて、何を言っていいのかわからないんだ」
クアルタラロはこの現状に直面しているメンタリティーについて問われると「タフだよ」とため息まじりに苦笑した。
「オースティンでの表彰台はチャンスがあったからだ。ペコ(フランセスコ・バニャイア)がクラッシュして、ジャック(・ミラー)も僕の前で転倒した。でもそれは僕が好む表彰台じゃない。僕が表彰台を獲得したんじゃないんだから」
「表彰台や優勝争いの常連だったのに、今はQ1を通過するかどうかという状況に直面している。Q1に行くことになるだろうと考えることはつらいよ。3レース前、僕は今日みたいなポジションでフィニッシュした。そしてすごく怒った。でも今、このポジションが僕たちのポジションなんだ」
クアルタラロは「ヤマハで戦ってきた中で、今がいちばん厳しい時期だと思う」とも語っていた。沈みがちな表情で語りながらも時折苦笑するクアルタラロに、彼の受け止めざるをえない現状が見えたようだった。