2023年ERCヨーロッパ・ラリー選手権は、5月4~6日に第2戦『ラリー・イソラス・カナリアス』を開催。開幕戦に続きヘイデン・パッドン(ヒョンデi20 Nラリー2)やマッズ・オストベルグ(シトロエンC3ラリー2)、昨季ERC王者のエフレン・ヤレーナ(シュコダ・ファビアRSラリー2)らが集結するハイレベルな1戦を、フランス出身のターマック・マイスター、ヨアン・ボナート(シトロエンC3ラリー2)が完全制覇し、2022年最終戦に続くERC2勝目を飾っている。
記念すべき70周年のERCシーズンも、恒例スペイン領カナリア諸島で2戦目を迎え、風光明媚な島しょ部を巡るSS総距離190.06kmのフルターマック(舗装路)、全13ステージによって争われた。
その最初の予選ステージから、天候不順も含めた週末の波乱を予感させる展開となり、地元出身のホセ・アントニオ・スアレス(シュコダ・ファビアRSラリー2)が驚異的なタイムで首位に立つ一方、同じくスペイン出身の王者ヤレーナは、全長3.09kmと短いステージの2.3km地点を走行中にまさかのコースオフを喫してしまう。
「ときどき、こういうことが起こるんだ」と、苦笑いで状況を振り返ったチームMRFタイヤ所属のヤレーナ。
「ストレートで右前輪を岩にぶつけ、すぐにステアリング機能を失った。幸いなことにクルマにダメージはなく、サスペンションアームが1本やられた。交換修復して確実にラリーのスタート地点に立つことができるはずだ。これがグラベルで起きていたら、確実に終わりだっただろうね……」
そのまま木曜現地午後9時過ぎに始まったラリーのオープニングを飾るSSSは、イベントでも初の試みとなる1.88kmのセクションで、終盤は満員8000人の観衆が詰めかけたグラン・カナリア・アリーナのバスケットボールコートを競技車両が疾走。ここでフィニッシュ直前の“ドーナツ”も華麗に決めた初参戦パッドンが、まずは挨拶代わりの最速タイムを記録してラリーリーダーに立った。
「僕らはとにかくきちんと整理整頓して、観客の目の前でドーナツを決めて盛り上げようとしただけだ」と語った開幕戦勝者パッドン。「実際にはとても楽しいステージで、滑りやすかったが、週末を始めるには良い方法だったね」
最速タイムを記録したBRCレーシングチームのヒョンデに対し、予選最速のスアレスは「ドライブシャフトか何かが壊れてしまい、クルマをうまくターンさせることができなかった」と、大勢の地元ファンを前にドーナツも不発に終わる意気消沈のアタックに。
その一方で「良い走りだった」との手応えを語ったオストベルグも「予選後、自分があまり馴染めなかったから、クルマにいくつかの大きな変更を加えた。正直に言うとステージは本当に楽しかったし、良い気分になれて良かった」としつつ、ステージ9番手タイムに終わる展開となった。
明けた金曜午前から、この日に設定された6本の本格的なステージに挑むと、走り出しからの雨により著しく湿った路面と、すぐさま雨が上がってドライアップする乾き始めの条件など、大きな天候変化に翻弄される。
そのため出走順が後方のドライバーがより良いグリップとより安定した状況から利益を得ることができ、なかでもミシュラン装着のシトロエンに乗る“フライング・フレンチマン”ことボナートがセンセーショナルな走りを見せ、都合4回のステージベストを奪取。2番手パッドンに対し11.0秒のアドバンテージを築いた。
「僕は間違いなく妻を愛しているが、同じようにタイヤとクルマも愛しているんだ(笑)」と上機嫌で答えたボナート。
「本当に完璧な1日だ。クルマもタイヤも完璧で、ドライバーもそれほど悪くはなかった。今朝の最初のステージがウエットコンディションだった以外は良い1日だった。うれしいし、少し驚いているけど、このまま続けなければいけない、それが一番大事なことだよ」
■パッドンは滑りやすい路面で苦戦も、大会初参戦で2位
同じく予選ステージのクラッシュで22番手出走だったチャンピオンも、SS2ではベストを叩き出し3番手に浮上するなど、路面状況改善の恩恵を受けた。
「最初のいくつかのステージでは猛烈にプッシュしたよ」とMRF装着のヤレーナ。「湿ったコンディションで滑りやすかったが、確かに路面は僕らにとって少し乾いていく方向だった。そこで僕らは周囲にいるライバルたちより速かったんだ」と振り返った王者だが、SS3終了時には首位に立ったものの、木曜スーパーSSで「ルート未完走」との判定が下り、10秒が加算されるハプニングも経てのカムバックとなった。
一方、ヤレーナとは対照的にピレリを装着したパッドンのヒョンデは、5番手のスタートポジションから滑りやすい路面に苦戦し「湿ったセクションで追いつかれて大きく自信を失った」とコメント。
サービスでアンダーステア改善の策を施すと、SS7では3番手、SS8では最速タイムを記録したが、このパフォーマンスは「気温が上昇する中での適切なタイヤマネジメントの賜物」だと強調した。
また2023年ERC初優勝を狙うオストベルグだったが、この日のSS3を前に右フロントのドライブシャフト破損により、実質的な挑戦権を失ってしまった。
明けた土曜の最終レグもドライ、ダンプ、フルウエットの各セクションに加え、ところどころ霧が発生する難しい条件になるなか、4本のミディアムコンパウンドを選択したボナートが快走。最終的に全13SS中7つでベストを記録し、2位のパッドンに36.9秒の大差をつけて勝利を飾った。
「ベストを尽くしたが、クルマもタイヤも完璧だったのでとても満足している」と語った勝者ボナート。「最初のループではすべてミディアムコンパウンドを履いたが、このような天候では完璧だった」と語りつつ、SS8ではシトロエンのステージモードを有効にするのを忘れてスタート。すぐにエラーを修正して最速を記録したものの、序盤は数秒を失っていたことも明かした。
「天候次第で何が起きるかわからなかったが、ステージのすべてが濡れているわけでなくダンプな部分があると理解したから、今朝はスペアのハードコンパウンドを1本だけ持っていった。美しいラリーだし、速く走るのは簡単だ。そしてこういうときはラリーを止めたくないし、次の数日間は続けたいと思うんだよね」
そして降雨が続いたSS8をハードコンパウンドで走行することを強いられた王者ヤレーナを抑え、初参戦で2位表彰台を得たパッドンは、当初参戦予定のなかったラリーに急きょ出場を決めたその目論見どおり、初の欧州タイトル獲得を目指して引き続きランク首位の優位を広げることに成功した。
「もっとも難しかったのは、天候が変わりやすいなかでのタイヤの選択だった」と振り返ったパッドン。
「チャンピオン争いに参加していない場合は(タイヤの決断で)リスクを負うこともできるが、あらゆる不測の事態に対応する必要があり、それは妥協を意味した。僕らは安全な選択肢を選び、午前のセカンドステージでは大幅にタイムを失った。正直に言うと、今日はとにかくヨアン(・ボナート)を追うことではなく順位を維持できて満足だった。クルマは完璧だったし最善の結果だよ」
今季も全8戦中有効7戦で争われるERCは、早くも5月19~21日に第3戦『オーレン・第79回ラリー・ポーランド』を開催。ふたたびグラベル(未舗装路)ステージでの勝負が待ち受ける。