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『ONE PIECE』ルフィが招いた悲劇……“悪”としての海賊像がついに表面化?

2023年05月12日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

SwitchBoxより(イメージ)

 「 これまで『ONE PIECE』(ワンピース)では、さまざまな海賊たちの生き様が描かれてきた。なかでも主人公のモンキー・D・ルフィに関しては、正義のヒーローというイメージが強かった印象だ。しかし最近の展開から、海賊の“悪”としての一面が浮き彫りになりつつある。


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 ※以下『ONE PIECE』最新話のネタバレを含みます。


 読者たちに衝撃を与えたのは、5月8日発売の「週刊少年ジャンプ」に掲載された第1082話。そこで海軍に所属する“船斬りTボーン”ことTボーン中将の死亡が明らかになった。


 Tボーンの命を奪った犯人は一般市民だったが、事件の背景には複雑な事情が存在する。その市民は家族と共に貧困に苦しんでおり、海兵に懸賞金をかける組織「クロスギルド」からの報酬を当てにしていたという。


 また「クロスギルド」の結成により、Tボーンのみならず、数多くの海兵が報酬を求める人々の犠牲になっている状況だ。治安を守るために働く海兵が標的となったことで、世界は大混乱に陥りつつある。


 問題は、そんな組織に監獄「インペルダウン」からの脱獄者が多数含まれていること。構成員だけでなく、組織の中心人物であるバギーとクロコダイルも元脱獄者だ。


 そして「インペルダウン」で起きた大量脱獄事件は、ルフィがエースを救おうと獄中に潜入したことが1つのきっかけだった。その混乱のなかで解き放たれた海賊たちが、今では海兵狩りを扇動するように……。因果関係を紐解くと、ルフィの行動が間接的に海兵の死を招いたとも言えるだろう。


 しかも今回命を落としたTボーンは、海兵のなかでも一点の曇りもない善人として描かれていた人物だ。「一日百善」をモットーとして、世界が平和でやさしくあることを祈り、エニエス・ロビー編では「罪なき市民の明日は必ず 私が守る」という名言も残していた。


 遠い影響関係とはいえ、そんな愛すべき海兵がルフィの影響によって落命したことで、ショックを受ける読者も多いようだ。


ピースメインを目指さない連載版のルフィ


 Tボーンの一件は、おそらく作中で初めてルフィの起こした行動が犠牲者を生んだエピソードだろう。とはいえ、そもそもルフィは正義の味方を目指していたわけではない。


 ルフィはあくまで海賊であり、過去には明確にヒーローになることを拒否するような言動を見せていた。魚人島編の第634話では、魚人島のヒーローになってほしいと頼むジンベエに対し、ルフィは「いやだ」と反論。


 肉があったとして、それを他人に分け与えるのがヒーローだが、ルフィは自分で食べたいからヒーローにはならないのだと語っていた。あくまで原動力が自分の欲望という点で、たしかに正義の味方とは一線を画す生き方といえるだろう。


 なお、同作のプロトタイプとなった短編『ROMANCE DAWN』では、ルフィを正義の海賊として描こうとする意図が存在した。作中の海賊は悪行を重ねる「モーガニア」と、正義を掲げる「ピースメイン」に分かれており、ルフィは後者を目指していたのだ。


 しかし連載版では、善悪を分ける設定がきれいさっぱり消滅している。そこから考察するに、尾田栄一郎は正義と悪の境界をより複雑なものにすることで、『ONE PIECE』の物語が単純な勧善懲悪に陥ることを避けたかったのではないだろうか。


 といっても、今まではルフィを正義の海賊として姿が多かったのも事実。最終章に差し掛かったことで、今後はついに“悪としての海賊”が描かれる段階がやってきたのかもしれない。


文=キットゥン希美