2023年05月09日 17:41 弁護士ドットコム
聴覚障がい者用の人工内耳を輸入・販売する「メドエルジャパン」(東京都)の社長らから、仕事を外されるなどのパワハラを受けたとして、女性社員が約990万円の損害賠償などをもとめた訴訟で、東京地裁(福田千恵子裁判長)は複数のパワハラを認定し、約220万円などの賠償を命じた。判決は4月28日付。
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約10年前から不当な扱いを受けていたという原告女性のAさんは、5月9日に都内で記者会見を開いて「大きな社会問題として、国をあげてパワハラの撲滅に取り組む中で、自分がなぜ(会社を)やめなければいけないのかという疑問がありました」と戦い続けた理由を語った。
原告代理人によると、会社で他の従業員から切り離されることが違法と認定されることは珍しいという。
50代のAさんは2010年12月、同社マーケティング部にマネージャーとして入社した。2020年9月に起こした訴訟では、元社長と現社長によるパワハラなどを問題としている。
判決文によると、以下の行為が違法と認定された。
(1)約半年のうちに11回の退職勧奨
(2)マーケティング部から掃除担当への配置転換(2012年12月)
(3)基本給を1年間、半額に賃下げ(約53万円から約26万円に)
(4)約5年間、仕事を与えず、ほかの従業員から切り離し
東京地裁は、退職勧奨を拒否したAさんを退職させる目的の配置転換で、人事権の濫用と指摘した。基本給は弁護士の交渉によって差額がすでに支払われたものの、それが賃下げの違法性を左右しないとしている。
また、2015年以降は担当業務からはずされただけでなく、離れた場所にパーテーションで仕切られた一角に移動させられ、会議の参加や全社従業員の連絡表にAさんが含まれないなどの扱いがあったとして「会社から必要とされていない無力感を与え、社内の人間関係から切り離して疎外感を強いるもの」とし、職場環境配慮義務違反を認めた。
原告代理人の早田由布子弁護士と佐々木亮弁護士によると、賃金の差額が支払い済みであるのに、賃下げが違法と認められたことや、ほかの従業員からの切り離しが違法と認められることは珍しいという。
提訴後、Aさんには経験のない別の部署への配転が命じられた。裁判では、この配転の違法性は認められなかった。
Aさんは「裁判に勝つことができました。会社には判決を受けとめて、現在も続くパワハラをやめていただきたいと切に願っております」と述べた。
現在、同社には30人程度が働いているという。Aさんにとっては、同僚の冷たい態度が一番つらかったという。
「私を応援してくれる人もいたので、私への退職勧奨や掃除係にされても心を強く持ち続けられました。ただ、同僚から見下されて侮辱されるような態度を取られると非常につらかったです。
廊下ですれ違っただけでも、汚いものを見る目で見られ、会社の鼻つまみ者として長年過ごしていました。会議室で、ピザやビールを飲んで打ち上げをするのですが、私は5~6年間、一度も呼ばれませんでした」
パワハラの事実認定にあたっては、Aさんの録音が役立ったが、佐々木弁護士は「一部はAさんのノートが一部の事実認定に使われた」ことを評価する。
「ハラスメントを受けているなら、記録を残すのは大事だと思います。録音がいいけれど、そうそう良いタイミングで録音できません。Aさんはノートを手書きでつけていました」(佐々木弁護士)
佐々木弁護士は、あとから書き換えられるPCの文書作成ソフト(Wordなど)に書いたり、新しい別のノートを用意するのではなく、普段から使っている仕事用の手帳の脇などに書き留めることをすすめた。
メドエルジャパンに判決の受けとめや、控訴の考えについて問い合わせたところ、同社の代理人弁護士から以下の回答があった。
「東京地裁判決については、当社の認識と異なる点もありましたが、現在、原告社員が従事している修理課への配転命令が違法ではないと判断されるなど、当社の主張通り認定された点もあります。
現状においては、上記のような種々の点に鑑み、控訴の是非を検討しております。そのような状況ですので、判決の内容について見解を申し述べることは控えさせていただきます。
なお、貴社の記事において、原告社員が『現在も続くパワハラ』などと発言した旨記載がありますが、東京地裁判決ではそのような認定はなされておりませんし、当社としてもそのような認識はありません。ご理解のほどよろしくお願いいたします」
(※5月9日午後10時50分:会社側のコメントを追記しました)