2023年05月09日 10:41 弁護士ドットコム
東京・六本木の芋洗坂にある居酒屋「魚洋水産」で4月、ある貼り紙がされた。
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「クンシランの花を盗んだ人! お店で20年育てた花です。返して下さい! ケイサツに届けます」
故アントニオ猪木さんや長州力さん、嵐の相葉雅紀さん、プロ野球選手など数々の芸能人や、地域のサラリーマンに愛される店で起きた出来事。30年のれんを守ってきたママ・大場メリさんに話を聞いた。
事件が発覚したのは4月8日午後2時ごろ。前日24時の営業終了まであったはずのクンシランの鉢がこつぜんと姿を消していた。重量にして5キロ以上あるはず。車か自転車で盗んだのではと店関係者は首をかしげる。
「今年はとりわけ多く開花したのです。普段は咲いても5本程度ですが、今年は10本超え。ちょうど株分けしないとと思っていた矢先のことでした」(大場さん)
このクンシランは20年ほど前、ある常連客からもらったもの。港区の還暦記念品だったが、一人暮らしでお世話するには大変だからと託された。お花好きなママにとって嬉しいプレゼントだったという。
さらに4月22日、別の植木が荒らされる被害もあった。お店が終わった後に外に出ると、鉢ごと倒れていたという。すぐに110番し、付近の警戒を強化してもらうよう要請した。交番への出頭などの時間を取れないため、被害届は出さなかった。
防犯カメラや目撃などの証拠がないため、窃盗や器物損壊として立件するのは難しい。また、もし犯人を特定できて賠償請求したとしても、被害額は花の市場価格としての換算になるため、たとえ手塩にかけて育てた歴史があったとしても算定されない可能性が高い。
ママによると、30年間の歴史のなかで警察を呼んだのは初めて。客同士の喧嘩などもない地域に愛される有名店だ。
コロナ下で周辺の閉店が相次ぎ、再開発の動きもある。猪木さんが足繁く通い、長州力さんと「芋洗坂で会おう」という隠語で呼ぶほどだったこの店にも立ち退きの話が出ているという。
店頭を彩ってきた花々は、客や近所の人とを繋ぐものだった。「今年も芽が出てるね」「今年はたくさん花が咲いているね」。築かれる会話はママの宝物だ。だから手元に戻ってくれば、それでいい。もし犯人が分かっても罪に問う気はないという。
「水があげられず手入れされないのが一番かわいそう。(手入れした上で)花が咲く時期が過ぎたら返してくれれば。もし、手入れが難しいならそっと元の場所に置いてほしい」