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ホラー漫画家・洋介犬が語る、恐怖の体験談「作品を描くと現実に同じような事件が起きるのです」

2023年05月09日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ホラー漫画家にインタビューをしていると、「執筆中に様々な怪奇現象に見舞われた」「不吉な出来事が起こった」など、場合によっては漫画以上に恐ろしい体験を聞くことが多い。現在、7本の連載を抱える人気ホラー漫画家の洋介犬もまた、数々の奇妙な現象に遭遇した体験を持っている。


 それはなんと、「漫画に描いたことが現実に起きてしまう」というものだ。漫画の予言といえば、たつき諒の『私が見た未来』が東日本大震災の発生を予言していたと話題になった。もしかすると洋介犬も預言者なのか? それとも――? 数々の体験談に迫り、考察を行ってみた。


『悪魔の論破』を試し読み


事件発生を預言者の如く的中させた!?

――アニメの放映前に似たような事件が起きてしまい、放映延期になった例があります。洋介犬先生も、漫画の内容に酷似する出来事が起こった体験はあるのでしょうか。


洋介犬:ありますし、僕の場合、厄介なことに原稿を入稿してから起こるんですよね。知らず知らずのうちに数週間の先読みをしてしまっているのか、更新の3日前に似た事件が起きることは普通にあります。


――そんな預言者のような出来事が!


洋介犬:例えば、『外れたみんなの頭のネジ』で、主人公の中学生ミサキが拉致される回が更新される3日前、中学生の拉致事件が発生したことがありました。警官による容疑者射殺が起きたときは、『反逆コメンテーターエンドウさん』でもほぼ同じ話を描いていて、ネットでは「洋介犬は預言者だ」と言われたことがありますね。


――あらゆるパターンの事件が起こっていますね。


洋介犬:女性の怪物を出したら、そのあとにデビューした女性VTuberと同じ名前だったり、戦争を過度に恐れる少年の話を杞憂といなす漫画を描いたら、ロシアのウクライナ侵攻で杞憂ではなくなったりと、挙げだすときりがありません。


――漫画の内容が現実になりすぎていて、怖いですね。こういった出来事が実際に起きたら、どうするんですか?


洋介犬:修正が間に合うならセリフを調整しますし、支障がない範囲内で内容を改めることもありますね。例えば、著名人の自殺が起きたとします。キャラクターが自殺するネタだったら失踪のネタに換えるなど、少しずつ調整するんです。


――大変な作業ですね。


洋介犬:でも、幸いなことにホラー漫画家は調整がうまいんですよ。作中で残酷な描写もあるわけですが、少し表現を変えることで規制を回避するというか。そういう時には、直接的な描写がなくても、直接描くより怖い間接的な描写のスキルを駆使できることが役に立ちます。


人の死を描くホラー漫画ゆえの難しさ

――ホラー漫画は、推理漫画以上に人の死を描くことが多いですよね。センシティブな内容であることから、ホラー漫画家は細かな表現にも気を使っていると感じます。


洋介犬:気を使うといえば、ホラー漫画家は自殺のシーンを描く機会が多いんです。現在、自殺は年間2万件ほど起こっていますから、傍にある死といえます。なので、いつニュースになるのかわからない。読者の感情に与える影響も大きいですから、描くときはかなり気を使います。


――なるほど。年間2万件となると、漫画の内容と瓜二つになる可能性も高いわけですね。


洋介犬:『外れたみんなの頭のネジ』で自殺をテーマにした新章を開始し、入稿を終えたら、その直後にある著名人の自殺がニュースになりました。漫画では、主人公の兄が自殺願望を持っているという話でした。これは先ほどお話した自殺を失踪に変更した例ですね。更新の1週間前に修正して、事なきを得ています。


――それって、当初考えていたストーリーと全然別物になってしまうんじゃないですか?


洋介犬:そこはなんとか、失踪願望に変えてから急カーブで内容を調整して、無事に着地させました。漫画アプリでは自殺を幇助する話はなかなか描けないんですよ。だから、テーマに選んだ時点で危ない橋ではあったのですが。


ホラー漫画家は深層心理を先読みする

――新興宗教の団体もホラー漫画にしばし登場しますね。洋介犬先生も『悪魔の論破』でそうした団体を描いていますが、これも今はもっとも扱いが難しいテーマだと思います。


洋介犬:2022年の初めくらいから『悪魔の論破』の連載企画を立ち上げるため、ネーム作業をスタートさせました。主人公はカルト教団のお飾りの神様という設定でしたが、その連載企画の進行中にカルト問題が社会問題化しました。


――正直、カルト問題ってしばらく報じられていなかったニュースですよね。あまりにタイミングがぴったりで、出来すぎなんじゃないかと思うほどです。


洋介犬:さすがにニュースがカルト問題一色になって、これは発表したら確実に「後追いでやっただろう」と言われるなと思いました。ところが、「やわらかスピリッツ」編集部に「これはこのままやっていいんですか?」と聞いたところ、「今こそやるべき内容だ」と言われたんです。掲載を決めてくれた編集部には凄く感謝しています。


――ただ、こうも漫画の内容と実際の出来事が似通ってしまうのはなぜなのでしょうか。洋介犬先生が預言者なのか、それともホラー漫画家特有の何かがあるのでしょうか。


洋介犬:ホラー漫画って、基本的に人の深層心理を先読みして作るんですよ。プロットを考えるときは、夜に道を歩いていてわき道から人が出てきたらどうしよう……とか、シミュレーションをしながら話を練りますからね。だから、社会問題を扱うと、なおさら予言めいた内容になってしまう可能性もあるのです。


――漫画の起源は風刺であり、時事ネタを描くものですが、ホラー漫画は非日常的でありながら風刺の要素が強いですよね。洋介犬先生の『外れたみんなの頭のネジ』は時事ネタがたくさん含まれています。


洋介犬:僕の場合、風刺性を積極的に取り入れていますからね。『エンドウさん』はコメンテーターが主人公ですし。ニュースの先のことを常に考えているので、事件の展開が、漫画の内容と似通ってしまう可能性も高いのかなと考えています。後出しでも、様々な事件と偶然に一致することも多いのですが、とにかく修正をしなければいけないので、まったくありがたくはないんですよね。


ホラー漫画家は冷静だが、しかし――

 筆者はこれまで何人もホラー漫画家にインタビューをしてきて、常に感じることがある。ホラー漫画家は、作風とは似ても似つかないほど真面目で、常識人が多いのだ(失礼)。それはつまり、超常現象や怪奇現象を冷静に見ているし、社会問題についても客観的に捉えている。今回の洋介犬の発言からもよくわかるだろう。


 しかし、洋介犬の体験談のなかにはあまりにできすぎな事態も多く、実は、様々な事情で今回の記事では紹介できない恐ろしい事例もある。本当に偶然の産物なのだろうか? いや、やはり、漫画の内容が何か霊的なものを呼び寄せてしまうのか――? 真相は謎に包まれている。