2023年05月06日 09:01 弁護士ドットコム
「来てくださるのはありがたいのですが、マナーは守っていただきたいというのが本音です」
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そう話すのは、ある有名な観光地の「道の駅」で働く男性だ。この道の駅には、これまでに改造バイクの集団が何度も訪れ、毎回のように敷地内にゴミや火のついたタバコをポイ捨てしたり、騒音を立てて走ったりするなどの迷惑行為があったという。
こうした行為を繰り返す集団は「旧車會」と呼ばれ、若いころに暴走族だった中年などが、旧型のバイクを暴走族風に改造して集団で走行している。未成年中心の暴走族とは異なり、日中は仕事があることから、週末や連休に行楽地に繰り出すことで知られる。
中には、暴走族のように違法で危険な走行をする旧車會もあり、各地の警察は警戒を強めているという。旧車會の迷惑な実態を取材した。
冒頭に触れた「道の駅」は、週末や連休になれば、特産品を求める大勢の観光客やツーリング客で賑わう。しかし、旧車會が訪れると雰囲気が一変する。
派手に改造されたバイクが次々と訪れ、普段なら観光バスが駐車しているスペースに、車体を見せびらかすように横に広がって駐輪する。
騒音もひどい。会話が聞こえないほどの音量でエンジンを吹かす。あまりの音量に、客からも苦情が相次いだという。
「多いときは、70台ほどでいらっしゃいます。中年の方が多いですね。バイクだけじゃなくて、車も一緒で、中に小学生ぐらいのお子さんがいることもあります。家族連れで遊びにいらっしゃっているのかなと思います」
そう振り返る「道の駅」で働く男性。「ただ訪れて、買い物をしていくだけならいいのですが…」とその「被害」を語り始めた。
「ゴミ箱を設置していますが、その場にゴミを捨てていかれます。タバコのポイ捨ても多いです。うちの敷地内は禁煙なのですが、火のついたタバコを芝生の上に捨てていかれる。火災の危険もあるので本当にやめていただきたいです」
もちろん、その都度注意するが、その場では「はい」と返事してくれるものの、迷惑行為を止めてくれない。
旧車會が去ったあと、清掃担当者と一緒に敷地内をまわり、ゴミやタバコを拾って集めなければならないという。
「中には飲酒しているような様子の方もいました。警察にも通報していますが、パトカーが到着したときにはもう去っていたりして、なかなか取り締まりも難しいようです」と男性は諦めたように話す。
今年の5月連休は、新型コロナウイルスの感染対策も緩和され、「道の駅」は大勢の来客が予想されている。一方で、旧車會がまた訪れるのではないかと、男性は心配している。
そもそも「旧車會」とはどのようなものなのだろうか。令和3年版警察白書では次のように説明されている。
「元暴走族等が中心となって結成された『旧車會』と呼ばれる集団の中には、暴走族風の車両に改造した旧型の自動二輪車等を連ねて、景勝地等に向けた大規模な集団走行を行うなど、迷惑性の高いものもあることから、都道府県警察間での情報共有を図りながら、関係機関と連携して騒音関係違反等に対する指導取締りを行っている」
年々、暴走族よりも旧車會の存在感は増しており、令和2年(2020)に違法行為があったとして把握された暴走族は5714人だったのに比べ、旧車會は5583人とほぼ同数となっている(令和3年版警察白書)。
最近、特に旧車會が注目を集めたのが、神奈川県警が2022年6月に摘発した県内最大規模のグループのリーダーの男性が40代だったという報道だ。従来は未成年が中心だった暴走する集団の高齢化が話題となった。
弁護士ドットコムニュース編集部は、神奈川県警に取材を申し込み、県内の旧車會について聞いた。
「まず人数の点から言うと、複数のグループが集まり、大規模集団で走行を行っており、多いときは100台を超える場合もあります」(神奈川県警広報担当者)
構成員の多くが成人で、20代から30代が半数を占めているという。県内外の行楽地を目指して走るのも特徴だ。
一方で、沿道住民からの通報はその「騒音」に対する苦情がほとんどであるという。神奈川県警広報担当者は、「整備不良や騒音関係違反を重点に取り締まりを強化していきます」と話す。
日本で有数の行楽地といえる千葉県の東京ディズニーリゾート(TDR)。
昨年の5月連休前、千葉県警がその外周道路で旧車會に対する取り締まりを強化しているという報道がされた(千葉日報/2022年4月28日付)。TDRは海沿いにあり、夜景も美しいことから、その周辺で旧車會がしばしば集団暴走をおこなうという。
弁護士ドットコムニュース編集部は、千葉県警にも旧車會の実態について取材した。
「警察では、旧車會を大きく『違法行為を敢行する旧車會』と『従来の旧車會』の2つに分類しています。
いずれのグループも、旧型の自動二輪車等の集団で、景勝地(千葉県内であれば銚子方面、九十九里方面、南房総方面)まで走行することに変わりはありません。
『違法行為を敢行する旧車會』は、 数十台から数百台規模で、週末の夜間や休日の昼間に、暴走族風の車両に改造した二輪車等の集団で走行する危険かつ迷惑性の高いグループ です。
一方、『従来の旧車會』とは、 旧型の自動車等を愛好する者たちで、違法行為をおこなわないグループ いわゆる、一般ライダーのグループと考えていただければと思います。
近年、旧車會が集団走行する際は、主にSNS等を利用して参加者を募っており、年齢層も10代から50代と幅広く、女性の参加者も増加傾向にあります」(千葉県警広報担当者)
旧車會と呼ばれるグループがすべて迷惑行為や違法行為をおこなう集団ではないと説明する。どのように分けているのだろうか。
「 一般的には、『違法行為を敢行する旧車會』も、何ら『暴走族』と変わらない集団と認識されていると思いますが、警察では『暴走族』と『違法行為を敢行する旧車會』の違いを、 共同危険行為等の禁止違反(道路交通法第68条)を敢行するかどうかという点で区分しています」
一般的に「共同危険行為」とは、並走することや、蛇行運転をすることとされる。これ以外に、どのような違反行為があるのだろうか。
「当県で走行している『違法行為を敢行する旧車會』に多く見られる違反は(騒音の原因となる)整備不良や消音器不備、自動車登録番号標等の表示義務違反等が主な違反となります」
また、千葉県警では全国に先駆けて、地上からだけでなく、上空からの採証(証拠を集めること)を実施しているという。
「航空隊のヘリを活用して上空からの採証もおこない違法行為の抑制を図っているほか、運輸支局や道路公団等の関係機関と連携し、官民一体の取組を実施しています」と説明する。
5月連休にも、千葉県警では旧車會対策をおこなっていくという。
「旧車會は、大型連休に限らず、週末や休日に走行する傾向があるので、当県警としても対策を講じる予定です。 詳細な対策内容は、今後の捜査に影響が及ぶおそれがあるので、回答を控えさせていただきます」
最後に千葉県警の広報担当者は、次のようにコメントした。
「近年は、SNSの普及により暴走族等についても、自らの犯罪行為を隠蔽するため、あらゆる手法を講じてきます。そのため、県民からの何気ない情報提供や通報により蓄積された情報が、暴走族等を検挙するために重要な情報となりますので、引き続き暴走族等の撲滅に対する御協力をお願いいたします」