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目が動く? ボンネット内に謎の球体! シトロエン「SM」ってどんなクルマ?

2023年05月03日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
シトロエンには変わったクルマ、面白いクルマが何台もあるが、今回は1971年製の「SM」に出会うことができた。ステアリングに連動して左右に動く角型ヘッドライト、ボンネットの中にある謎の球体など、現代のクルマでは見られない珍しい機構が盛りだくさんの1台だ。


○開発目標が高すぎた?



「AUTOMOBILE COUNCIL 2023」(オートモビルカウンシル2023)というイベントに京都のシトロエン専門店「アウトニーズ」が参考出品していたのが1971年製の「SM」だ。



全長5m近いゴールドカラーの巨体。フロントにはカバーがついたCIBIE製イエローバルブの可動式角形6眼ヘッドライトが輝く。流線型の長いノーズ、キャビンから後方へとなだらかに絞られていくボディライン、地面に張り付くように鎮座しているその姿には圧倒的な存在感がある。


「前輪駆動で200km/hを超える」という、当時は不可能とされた開発目標を達成するため、シトロエンがSMに搭載したパワートレインは、提携関係にあったマセラティ製の高性能な2.7L90度V型6気筒(後期は3.0Lモデルあり)DOHCエンジンだった。最高出力は170PSを発生。5速MT(展示車も搭載)によって前輪を駆動し、1,460kgの車体を超高速域まで引っ張っていったという。設計時には高性能を狙ってロータリーエンジンや星型エンジンを搭載することまで計画されていたというから、シトロエンはやる気満々だったのである。


その高性能エンジンを拝むためボンネットを開くと謎の緑の球体が! これが、ハイドロニューマチックシステムの要となる「スフィア」だ。内部には窒素ガスとLHMという特殊なオイルが密閉されていて、金属スプリングとダンパーの代わりとして4輪の足回りを支えることになる。ブレーキとパワステにもこれを使用していて、全てが1本の油圧ラインで連携しているため、壊れると大変というイメージがつきまとい、同システムを搭載するシトロエンに乗ることに二の足を踏むという方も多いと聞く。しかし、アウトニーズのような経験を積んだ専門店が販売している個体については心配無用だろう。



ちなみに、この個体はオリジナルの欧州仕様なので、ステアリングに連動して角形ヘッドライトが左右に動くシステムとなっている。この動作もハイドロが担っているという。日本に入ってきていたSMは、米国仕様の固定式丸型4灯モデルが多かった。



コンパクトな2+2の室内にあるドライバーズシートはかなり低い位置に取り付けられている。眼前には「DS」のような8時の位置ではなく、真下の6時がセンターになる太い1本スポークスタイルのステアリングが備わっている。


その奥の楕円のスピードメーターは、ぐるりと一周した先に0の代わりの260km/hの数字が刻まれている。横方向にしかゲートが切られていない5速MTのシフトノブ(縦方向はプレート自体がスライドする)、パーキングブレーキレバーの横にあるAM/FMラジオ、踏み代がほとんどない丸いボタンのようなブレーキペダル、極端にクイックな小径ステアリング、シート左下の車高調整レバーなど、オーナーにはSM特有の“作法“に慣れることを要求してくるけれども、今時こんな面白いクルマはなかなか出てきそうにないのも確かだ。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)