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バニャイアのカムバック。メンタルの厳しさを乗り越えて取り戻した勝利/第4戦スペインGP

2023年05月01日 17:00  AUTOSPORT web

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フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)
 2022年チャンピオン、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)がスペインGPで表彰台の頂点に返り咲いた。バニャイアは開幕戦で優勝を飾ったのち、アルゼンチンGPとアメリカズGPで転倒を喫していた。どちらも優勝または表彰台圏内を走行中のことだ。3戦ぶりに優勝を取り戻したバニャイアは、スペインGPの決勝レースはメンタル面で難しかったと明かした。

 土曜日までのバニャイアは、スペインGPで勢いに乗っていたKTMの影に隠れていた感はあった。だが、スプリントレースでは最終ラップまで2番手のジャック・ミラー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)の背後につけ、6コーナーでミラーがミスをした時にすかさずポジションを奪って2位でゴールした。

 決勝レースでもスプリントレースのようにビンダーとミラーが先行したが、バニャイアもこのふたりに追随していた。5周目の6コーナーでは2番手のミラーのインサイドにマシンをねじ込む。このオーバーテイクはバニャイア自身も無理矢理だったと感じたようで、すぐさま左手でミラーに謝罪のゼスチャーを送っている。

 バニャイアはこのオーバーテイクによってレース中の1ポジションダウンのペナルティを受け、8周目にこれを消化して3番手に後退。しかし15周目に再び2番手に浮上すると、レース中盤の19周目にファステストラップを記録してトップのブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)に迫り、残り5周の最終コーナーでトップを奪った。そして、3戦ぶりとなる優勝を飾ったのだった。

「スタートするとフロントエンドに少し苦しみ、昨年は力強く走れていたコーナーでタイムをかなりロスしていた。だから、本当にチームに感謝したいんだ。また優勝争いをする可能性を僕に与えるという、本当に素晴らしい仕事をしてくれた」

「じつは、バイクに適応するのは楽じゃなかった。金曜日から少し変更をしたからだ。でもとにかく、とてもうれしいよ。タイヤをなんとかうまくマネジメントした。ペース、一貫性、オーバーテイクという点でもっともよかったレースのひとつだと思う」

 バニャイアは会見で、そうレースを振り返った。

「ジャックをオーバーテイクしたあと、フロントのフィーリングが戻るのに1、2周が必要だった。フィーリングが戻ると、攻めてみた。(19周目に)1分37秒9が出たのはびっくりしたけど、ブラッドに追いつきたいと思っていた」

「レース序盤、タイヤをうまくマネジメントできたと思う。昨年もだいたい同じような感じだったからね。でも楽じゃなかった。また後ろについた途端、フロントのフィーリングはストレスがかかった状態になった。だから、また同じ問題が起きないようにすぐにオーバーテイクしたんだ」

 会見場でバニャイアの右隣に座るビンダーは、最終ラップまでバニャイアと優勝を争った。特に6コーナー以降の後半セクションでは、バニャイアのすきをうかがうそぶりを見せたが、バニャイアの守りは硬かった。

 ビンダーは「バックストレートでかなり詰めたけど、そのあとうまくいかなくて、最後の2コーナーでうまくやればいけるかと思った。でも、ペコ(フランセスコ・バニャイア)は最後の2コーナーでのブレーキングが完ぺきだったから、抜くことはできずにゴールすることになった。でも、素晴らしい時間を過ごしたし、楽しいレースだったよ」と苦笑交じりに最終ラップの攻防を説明していた。

 バニャイアにとっては、第2戦アルゼンチンGP、第3戦アメリカズGPの決勝レースで優勝を逃したあとの勝利である。アルゼンチンGPでは2位走行中、アメリカズGPではトップ走行中の転倒だった。だからこそ感慨深い優勝だったのだろうか。パルクフェルメに戻ったバニャイアは、バイクを停めてゼッケン1に指をさし、カメラに向かってアピールしていた。

 そのアクションについて問われると、バニャイアは「僕のエゴだよ」と笑う。そして、「このレースはメンタル面で大変だった。2回のクラッシュのあと、冷静になるのは難しかったからね」と明かした。そういえば、バニャイアはスプリントレース後の会見で、「ここ2戦の決勝レースで転倒に終わっているから、あまりリスクを冒したくなかった」とも述べていたのである。

 決勝レースの会見での質問の回答に戻ると、バニャイアは「チャンスがあるとわかって、また前に出てみようと思った。そして、僕たちがやってきたことのためにも、優勝してチームのモチベーションを上げたいと思ったんだ。ゼッケンナンバー1に恥じないレースができた」と語った。

 転倒を喫した過去2戦が、バニャイアの脳裏にこびりついていたのだろう。だが同時に、そこから低迷を続けることなくスペインGPで優勝を飾ったところに、2022年シーズン後半から垣間見えていたバニャイアの新しい強さが存在しているようにも思う。バニャイアはこの優勝により、チャンピオンシップのランキングトップに浮上した。