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休日なのに!社用携帯の着信音に発狂寸前 これは「労働」ですか?

2023年04月30日 09:01  弁護士ドットコム

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ゴールデンウィークが始まった。社用携帯を休日も持ち歩くように指示されている人から「落ち着いて楽しめない」などの相談が、弁護士ドットコムに複数寄せられている。


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医療関連職の相談者は「連絡はたびたびあるため、常に対応できる状態にしている。あまり休めている気がしない」と語る。休日に数件かかってくる取引先からの電話に悩まされている別の相談者は、個人情報の扱いが不安だという。「複数の電話番号が登録されていて、休み中になくしたらどうなるのか」



一方で、会社側からすれば、休日とはいえ危機に対応する人が必要なのもうなずける。社用携帯のあり方について、波多野進弁護士に法的観点から聞いてみた。



●対応に要した時間は「労働時間」と評価すべき

ーー休日でも社用携帯の電源をオンにしたまま持ち歩き、電話があれば対応するよう指示すること自体に法的問題はないのでしょうか。



業務命令として、即時に電話に応答したり、職場や取引先などに出向いて対応したりすることを指示するのであれば、対応に要した時間は、賃金が発生する「労働時間」と評価すべきだと思います。



現実的な使用者の対応策として考えられるのは、実際の電話対応の有無にかかわらず、完全に解放されていないことに対する代償として、1日あたり一定金額の「オンコール手当」を支払うことです。



緊急で病棟に出勤して相当時間対応した場合など、オンコール手当で想定されている範囲を上回るといえるときは、その時間分の賃金も支払うべきだと思います。



ーーオンコール状態に置かれた時間は、すべて「労働時間」といえるのでしょうか。



たとえば、病棟で当直勤務をしている医師の場合、呼び出し(オンコール)があったときに即時対応しなければならない待機時間中は、仮眠を取ったり、結果的にまったくコールがなかったりしても「手待時間」として賃金が発生します。



当直中の医師は、睡眠の質が落ちるという研究結果があります。コールがなかったとしても「いつ起こされるか分からない」状況に置かれれば、心身の負荷がかかるのは間違いないでしょう。



ただ、屋外で社用携帯を持たされている場合は、実務の傾向として、すべてが労働時間とはならず、実際に対応した時間のみになる可能性が高いと思われます。



●休日に紛失したら「全責任を労働者に負わせることに疑問」

ーー社用携帯を休日に持ち歩くように指示され、紛失した場合、労働者側が責任を問われることになるのでしょうか。



たとえば、病棟内など職場内で使うことが予定されているであれば、休日に持ち歩く命令がなければ職場外で紛失の可能性はなかったといえるので、責任をすべて労働者の不注意だけに負わせるのは適切ではないといえます。



職場外で持ち歩くことが想定されていた場合は、トラック運転手などの労働者が過失で車を傷つけてしまった場合に損害を負担するのかという問題に似ています。



事故は一定の確率で起こりうるので、利益を得ており、保険などでカバーできると思われる使用者が負担を負うべきであり、労働者に負わせるのは公平ではなく、仮に負わせるにしても全額は行き過ぎだという考え方があります。



業務中は屋外で使用する営業マンでも、本来は休日に社用携帯を持つことはないはずです。休日に持つように指示しているのであれば、業務外で紛失した全責任を労働者に負担させることには疑問があります。したがって、業務中に社用携帯の使用が予定されている場所を問わず、責任は否定されるか軽減されるべきではないかと思います。故意や重過失の場合には、例外的に労働者が負担するなどの規定や取り決めがあることが理想です。




【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com