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なぜ日本に「ゾンビ企業」が増えてしまったのか 経済的支援をしない方がいい?

2023年04月27日 11:11  弁護士ドットコム

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帝国データバンクの調査によると、2021年度のゾンビ企業率は12.9%で、前年度比1.5ポイント増になっています 。2019年度が9.9%、2020年度が11.4%なので、急激にゾンビ企業が増えています。


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その背景には、新型コロナウイルスによる業績悪化を緩和するために行われた、特別貸付や支援金などの存在があります。



未知のウイルスによる経済的ダメージを救ったという意味では大きな役割を果たした行政による金銭的支援ですが、本来淘汰されるべきである企業がゾンビ化してしまったという負の側面もあります。行政は企業に経済的支援をしない方が良いのでしょうか。(ライター・岩下爽)



●ゾンビ企業とは?

ホラー映画に出てくる死体が動き回るのがゾンビですが、本来なら倒産しているような企業が金融機関や行政の支援で存続し続けていることから「ゾンビ企業」と言われています。学術的な定義として定説はありませんが、帝国データバンクでは、ゾンビ企業を「設立10年以上で、3年連続でインタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回る企業」と定義しています。



インタレスト・カバレッジ・レシオとは、「営業利益、受取利息、受取配当金」の合計を「支払利息、手形割引料」で除した値です。インタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回るというのは、本業での収益より利息等の支払いが多いという状態です。経常利益が赤字となるので、事業の継続が難しい企業と評価されます。



そして、「設立10年以上で、3年連続でインタレスト・カバレッジ・レシオが1を下回る企業数」÷「設立10年以上で、3年連続でインタレスト・カバレッジ・レシオが判明している企業数」がゾンビ企業率になります。



帝国データバンクによる推計では、2021年度のゾンビ企業の数は、18.8万社となっています。収益力に課題がある企業が59.8%、過剰債務に課題がある企業が44.4%。資本力に課題がある企業が36.4%と分析されています 。



●市場原理は万能ではない

「ゾンビ企業」という表現は、非常にネガティブな言葉であることからわかるように、排除すべきものとして捉えられています。資本主義においては、自由競争こそが経済を発展させるものと考えられており、市場原理に従って、事業がうまくいかない企業は市場から撤退させるべきとの考えによります。



ゾンビ企業が多いと、その業界の資源が分散してしまい、生産性が低くなります。また、事業がうまくいっていない企業に追加融資をすれば、金融機関の債権が焦げ付くリスクが高くなり、公的支援では、税金が無駄になる可能性があります。本業で収益が上げられないのであれば、市場から撤退させるべきとの考えは理論的には正しいと言えます。



ただ、市場原理が万能でないことは、経済学でも認識されているところであり、独占や寡占にみられる「市場の失敗」や行動経済学で指摘されている「人は合理的に判断しない」という問題があります。



市場原理に任せていると、GAFAのような寡占化企業に市場が支配されてしまい、必ずしも利用者にとってベストな状態になるとは限りません。そのため、法律による規制や中小企業に対する経済的支援が必要になるわけです。



●企業を倒産させるには大きな負担が生じる

市場を活性化させるためには、稼げない企業には撤退してもらい、新しい企業を作っていくことが重要になります。そのためは、積極的に起業支援などをしていくことが必要です。一方、企業の撤退に関しては、行政が積極的に撤退を推し進めるということは難しいと言えます。



経済の活性化のことだけを考えれば、企業を倒産に追い込むことも政策としてあり得るかもしれませんが、企業の倒産には大きな負担が伴います。企業には、多くの人が働いていて、それぞれに生活があります。



多くの人の雇用が失われれば、雇用保険の給付など公的負担が発生します。米国のように転職市場が発達していない日本では、転職は容易ではなく、長期間就職できなければ、生活保護やホームレスになる可能性もあります。



また、倒産するには多額のコストが掛かります。法的倒産であれば、申立て費用、管財人費用、財産処分費用、解約費用などが発生します。さらに、倒産企業との取引先にも影響が及びます。取引先の売掛金などが回収できなくなれば連鎖倒産になることもあります。



このように、企業を倒産させることにはプラスの面だけでなくマイナスの面もあることから、国としては、生産性の低い会社だからと言って、簡単には倒産させることができないという事情があります。



●公的な支援のあり方

「ゾンビ企業」というと、放漫経営をしているダメな企業をイメージするかもしれませんが、多くの企業は誠実に仕事をしています。もちろん、経営能力がない場合や衰退産業のため業績が落ち込んでいるような場合には経営者の交替や事業の撤退も必要だと思いますが、公的支援を受けることで再生することもあります。カネボウやJALは、一度は破綻しましたが、公的支援により復活しました。



技術力があっても元請に買いたたかれて資金繰りが厳しい下請企業やベンチャー企業で信用がないため資金調達がうまく行かないなど、金銭面で苦しんでいる企業もたくさんあります。このような企業の経営者は、資金繰りに奔走せざるを得ず、雇用を守るのが精一杯で業務が滞るという悪循環に陥っています。



したがって、優良な事業を行っている企業については、法的規制による保護や一定の経済的支援は有効だと考えます。問題は、放漫経営をしている企業や衰退産業の企業をどうやって見抜いて排除していくかです。支援をする際の審査が重要になりますが、コロナのように緊急性がある場合には、審査を厳しくすることはできません。そのような場合には、事後報告の徹底と不正利用に対しては厳しい罰則を課していくことで対処していくしかありません。



新聞社などは、右肩下がりで売上が減少しており、今後も減り続けることが予想されるため衰退産業と言えますが、上場していないところがほとんどなので、財務状況があまりオープンにされていません。大手の新聞社などは資産が潤沢にあるため今のところ倒産の危険性はありませんが、将来的に破綻する可能性はあります。



仮に新聞社が破綻した場合、公的な支援を受けるのでしょうか。公共性が高い企業と考えれば支援は妥当ということになりますが、ジャーナリズムという観点からは支援になじまないような気もします。行政も新聞社も非常に難しい判断が求められます。



●今後も増え続けるのか?

コロナウイルスも第5類への引き下げが決まり、特別の経済的支援は今後減っていくでしょう。また、日銀総裁が替わり、日本でもインフレが発生しているため、今後は、金利が上がる可能性があります。



金利が上がると、借換えなどした場合、利息の負担が増えることになるので、本業での収益が上がらなければ事業を継続することは難しくなります。そのため、いつまでも経常利益を上げられないような企業は自然と淘汰されていくはずです。



特に飲食店は、「コロナバブル」と言われたように、営業をするよりも協力金をもらっていた方が、利益が出るところもあったので、協力金の支給がなくなったことで、閉店に追い込まれるところも出てくるでしょう。



ただ、ゾンビ企業の中には、優れた技術やノウハウを持っている企業もあります。そのような企業を倒産させてしまうことは、日本にとって損失です。このような企業については、M&Aなどによって残していくことが重要です。そのためには、M&Aがしやすい環境を作り、優秀な経営者を育てることが必要になります。