2023年04月25日 16:01 弁護士ドットコム
親の持ち家の管理について近隣住民から苦情が寄せられ、その責任を問われているという相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。
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相談者は役所から「親と連絡がつかないため、子のあなたに管理責任を問う」という旨の手紙を受け取ったといいます。しかし、数年前に親と縁を切っており、家についても相続放棄をして「人生を親にこれ以上邪魔されたくない」と訴えます。
空き家などの処分には多額の費用がかかり、対応に悩む方が全国にいます。例えば、所在不明となった親名義のゴミ屋敷の管理責任は、相続放棄しても、子が負わなければならないのでしょうか。寄井真二郎弁護士に聞きました。
ーー相談者には管理責任があるのでしょうか? 相続放棄の有無でどう変わりますか?
親が「所在不明」というだけであれば、子である相談者は管理責任を負うことはありません。ただし、親の所在を調査した結果、親が死亡していた場合には、子は相続によりゴミ屋敷の所有権を取得することになり、所有者として管理責任を負うことになります。
相続放棄をすれば、民法第939条により、初めから相続人とならなかったものとみなされます。ゴミ屋敷の所有権を取得することはないので管理責任を負わないといえそうですが、実はこのように考えて良いのか疑問もあり、相続放棄者が負う管理責任の有無及び内容等は最近まで明らかではありませんでした。
ーー今年の4月1日からの改正民法で財産管理制度が見直されたとのことです。具体的にどのような点が変わったのでしょうか?
改正民法では、相続放棄者の相続財産の管理責任の内容を「保存義務」として、その発生要件及び終期等を整理した規律が設けられました(民法第940条)。
つまり、相続放棄者は
①その放棄の時に相続財産に属するゴミ屋敷を現に占有しているときは、 ②相続人又は相続財産の清算人に対してその財産を引き渡すまでの間、 ③自己の財産におけるのと同一の注意をもって、
その財産を保存しなければならないとされました。
ご相談の方は数年前に親と縁を切っていたといいますので、相続放棄をすれば、ゴミ屋敷の管理責任は負わないことになります。
ーー相続放棄はどのようにすれば良いでしょうか?
財産一切が要らないのであれば、家庭裁判所に期間内に相続放棄の申述をしましょう。ただ、ゴミ屋敷などマイナスの財産だけでなく、多数のプラスの財産を有している場合にも権利を失うことになります。十分に財産の調査を行った上で判断してください。
一言で「ゴミ屋敷」といっても、土地に十分な経済的な価値がある場合には、相続放棄をしていいのかどうかをよく考えた方がいいでしょう。もしかしたら、ゴミ屋敷の中から宝物が出てくる可能性もあるかもしれません。
なお、財産の調査に時間がかかる場合には、家庭裁判所の許可を得て相続放棄の申述の熟慮期間を延長することも可能です。
ーー役所にはどんな書類を用意し、どのように伝えるべきですか?
相続放棄の受理証明書を用意して、相談者がゴミ屋敷を現に占有しているのでなければ、その旨を役所の担当者に伝えるべきでしょう。
相続放棄をしている人がゴミ屋敷に居住されているような場合には、管理責任(保存義務)を負います。もっとも、管理責任は、相続人又は相続財産清算人に引き渡したら終了します。
他の相続人がゴミ屋敷の管理を引き受けてくれればいいのですが、その方も相続放棄をしてしまった場合には、相続財産清算人の申立てをしなければ管理責任を免れません。相続財産清算人の申立てには相当程度の予納金が必要になります。
ーー2020年の国交省調査によると、所有者不明土地の割合は24%で、その原因は相続登記の未了が63%、住所変更登記の未了が33%となっています。処分等について考えあぐねている読者の方に、親族の集まる時に話し合っておくべきことがあれば教えてください。
都会の不動産であれば、関係者が把握されていることが大半だろうと思います。所有者不明の土地等は、山林や原野、農地が多い地方に多く発生しているように感じます。
特に地方出身の方が都会で長い間生活をされ、両親や祖父母からも不動産について詳しいことを聞かされておらず、両親らが死亡した後も、不動産の名義や表示が放置されてしまっているものと考えています。
役場を訪ねて、両親や祖父母名義の固定資産台帳を閲覧し、不動産を把握します。まだ連絡がとれる親族がいるうちに、不動産の管理や処分等について話し合っていた方がよいでしょう。
【取材協力弁護士】
寄井 真二郎(よりい・しんじろう)弁護士
離婚・相続等の家族関係事案のみならず、金融・企業法務、交通事故等幅広く業務を行っている。地元自治体や銀行、造船、タオルメーカー、病院等の法律顧問の他、株式会社フジ(東証プライム)、国立大学法人愛媛大学等の役員にも就任している。「家庭弁護士の訟廷日誌」、「田舎弁護士の訟廷日誌」、「交通事故弁護士の訟廷日誌」等というブログも執筆中。
事務所名:弁護士法人しまなみ法律事務所
事務所URL:http://shimanami-law.jp/