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Ray-Ban『WAYFARER FOLDING CLASSIC』。サングラスは生涯これだけでいいと思える理由

2023年04月24日 11:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
○■マスクを手放せない日本人とサングラスを手放せない欧米人



ある脳科学者が著した本に、人と人とが対面で会話するとき、欧米人の視線は相手の口に集中している一方、日本人の視線は相手の目に集中しているか、いろんなところを見て散乱しているということが書いてあった。


もともと大きな感情表現をよしとする欧米人は、自分の意思でダイナミックにコントロールできる口を重視。

逆に、感情をあまり表に出さない文化で育った日本人は、意思では動かしにくい目元の微妙な変化を見ることで、相手の真意を探ろうとしているらしい。



なるほどなるほど。



“これからはwithコロナだから、もうマスクしなくていいですよー”と言われ、欧米諸国の人があっという間にマスクをしなくなったのは、口が見えないと互いの感情が読みにくく不安だから。

それに対して日本人がなかなかマスクを手放さないのは、目元さえ見えていれば相手とのコミュニケーションに、さほど支障はないと感じているからなのだろう。



サングラスに対する彼我の意識の差も、同じ文脈から読み解くことができる。

目の構造上、欧米人の方が眩しさを感じやすいという生理的な一面もあるが、サングラスの使用頻度は、日本人と比べて欧米人の方がはるかに高い。

日本人がサングラスをつけることを意識的に避ける場、例えば人と対面で話すときや、お葬式や結婚式に参列する際にも、欧米人が平気でサングラスをしているのは、そうした理由によるものだろう。



純ジャパの僕ももちろん、日本人的気質を強く持っている。

50を過ぎたこれまで何本ものサングラスを所有してきたが、どれも使用頻度はそれほど高くなかった。

もちろん海や山へ遊びに行ったり、太陽の光が気になる時間帯に車を運転する際などは、眩しさを防いだり紫外線から眼を守ったりする目的でサングラスをするが、それはあくまで実用本意の使い方だ。


○■サングラスにまつわる強烈な思い出



そういえば、サングラスについて一つ強烈な記憶があることを思い出した。

かつて僕が、若い男性向けファッション誌の編集長をしていた頃のことだ。

表紙に登場してもらうためにブッキングした若手俳優のM氏は、屋外でのロケ撮影時は外していたサングラスを、インタビュー部屋に入るとすぐにかけて席についた。



それは、陽光眩しい屋外では外し、薄暗い屋内ではかけるという、サングラス本来の実用的な使い方とはまるで逆の振る舞いだ。



彼の対面に座ったインタビュー担当の女性ライターは、「すみません、ちょっとお話ししにくいので、サングラスを外していただけませんか」と丁重にお願いした。

するとM氏はやおらブチ切れ、「なんだよ! 外してやるよ! 上等じゃねえか」と、かけていたサングラスをテーブルの上に放り投げ、以降、殺伐とした雰囲気でインタビューが進んだのだ。



かなりヤンチャな生き方をしていることで知られたそのタレントは、いきなり「サングラスを外して目を見せろ」と言われたことを侮辱のように感じたのかもしれない。

あるいは、初対面のスタッフを警戒し、目を隠して本心を悟られぬようにしている、実は小心者な本質を見透かされてギクリとし、いきがって過剰反応してしまったのかもしれない。



ちなみに彼はその後、交際女性に対するDVで逮捕されたりしているので、もともとそういう気質の持ち主だったのは間違いない。



話がそれてしまいました。



俳優M氏とは違い、僕にとってサングラスはあくまで実用本意のアイテム。

オシャレや示威を目的にかけることはなく、真っ当な場面でしか取り出さないので、使用頻度はとても低いのである。

○■Ray-Banの定番中の定番、ウェイファーラーがなんと言っても一番な理由



そんな僕ではあるが、今使っている2本のサングラスはとても気に入っている。



ひとつはRay-Banの折りたたみ式サングラス、『WAYFARER FOLDING CLASSIC』だ。

世の中にサングラスのブランドは星の数ほどあるが、なんだかんだ言って一番は、1937年創業という長い歴史を持つレイバンだと思っている。

ウェイファーラーはそんなレイバン製品の中でも、もっとも高い人気を持ち続ける定番中の定番。

第一号モデルの発売は1952年なので、誕生からすでに70年以上が経過している。

洗練されたクラシックなデザインが、カジュアルからちょっと綺麗めまで、どんな服装にもマッチするのがいいところだ。



1960年代にボブ・ディランが愛用してからというもの、あまたのロックミュージシャンたちが身につけ、自由と個性と反体制のスピリットを表現するアイテムとして世界中の人々を魅了してきたウェイファーラー。

1961年の「ティファニーで朝食を」、1980年の「ブルース・ブラザース」、1983年の「卒業白書」など、現代に語り継がれるハリウッドの名作映画でも、主人公の個性を際立たせる小道具として登場している。



ひとつのアイテムがカルチャーの象徴として多くの人々に受け入れられ、これほどの長い年月にわたり、各時代のトレンドに溶け込むように愛されてきた例はほかにあまり見当たらない。

普段あまりサングラスをかけない僕も、ウェイファーラーだけはやっぱり特別な存在だと思っていて愛用しているというわけだ。



また僕のウェイファーラーは、フォールディングタイプであるということが特筆すべき点。

全体的なデザインはそのままに、小さく折りたためるギミックが施されているので、カバンの中に入れて持ち運ぶのに便利だ。

サングラスを長時間かけるわけではなく、紫外線が気になるような特定の場面でだけ使いたい僕のようなタイプには、コンパクトに収納できるタイプがうってつけなのである。


○■80年代の香りも漂う跳ね上げ式サングラスは、運転中に重宝するサングラス



フォールディングタイプのウェイファーラーに出合って以来、とても気に入って手放せなくなり、サングラスはもうこれ一本で十分だと思っていた。

ところが実は、二年ほど前に新しく買いたしたサングラスがある。

John Lennonというブランドの跳ね上げ式サングラス、『JL-528』だ。


John Lennonは言わずもがな、あのロック界の偉人であるジョン・レノンが愛用したサングラスやメガネを再現し、一部アレンジして甦らせたブランドだ。



強い近視のうえ、体質的にコンタクトレンズが苦手な僕は、普段は常にメガネをかけて過ごしている。

車を運転する際ももちろんメガネ必須であり、太陽の光が眩しいときのみウェイファーラーをかけるようにしていた。



しかし色の濃いサングラスを運転中にかけていると、困ることがある。

トンネルに入ると光量が急に落ちるので、周囲がいきなり見えにくくなるのだ。

ハンドルを握ったままメガネにかけ替えるのも難しく、仕方なくそのまま目が暗さになれるまで待つのだが、少し危ないなと前から思っていた。



そこで僕は一計を案じ、新規購入したJohn Lennon『JL-528』を、車のグローブボックスの中に常備。陽の光が眩しい日の運転中に使うことにした。

色付きのサングラス部を跳ね上げると、度の入った透明レンズ部分が残る構造だから、運転中にはめちゃくちゃ重宝するのである。


僕と同様、目が悪くてメガネや度付きサングラスが手放せず、また車の運転をよくする人には、こうした跳ね上げタイプをマジでおすすめしたい。



また、跳ね上げ式サングラスは、僕が青春時代を過ごした1980年代に少し流行ったことがあるというのもポイントだ。

跳ね上げ式サングラスを見て、バービーボーイズのいまみちともたかやチェッカーズの竹内亨なんかのことを思い出した人は、間違いなく僕と同世代のはずだ。



そんなわけで、そこまで積極的にサングラスを求めていない僕にとっても、Ray-Ban『WAYFARER FOLDING CLASSIC』とJohn Lennon『JL-528』の2本体制は今のところ最強で、ほかのサングラスを欲しいとは思わない。

もしかしたら、ダメになっても同じモデルを買い求め、死ぬまでこの2本を使い続けるかもしれないとさえ思っているのだ。


文・写真/佐藤誠二朗



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。 この著者の記事一覧はこちら(佐藤誠二朗)