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「目的も結果も大義名分も捨てて描いた」横尾忠則の新作展開催

2023年04月20日 18:12  Fashionsnap.com

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東京国立博物館の学芸研究部調査研究課長 松嶋雅人(左)と現代美術家の横尾忠則(右)

Image by: FASHIONSNAP
 東京国立博物館が、横尾忠則の展覧会「横尾忠則 寒山百得」の開催に先駆けて、報道関係者向けに発表会を開催した。展覧会の会期は9月12日から12月3日まで。横尾忠則をはじめ、同館の学芸企画部長を務める浅見龍介と、学芸研究部調査研究課長の松嶋雅人が登壇した。

 同展では、横尾が2021年9月から今年の2月にかけて「寒山拾得」をモチーフに描いた未発表の新作101点を展示。いずれも、作品には制作日の日付がタイトルとして記されており、会場では日付順に展示される予定だという。
 横尾が独自に「寒山拾得」を解釈し再構築した作品群は、寒山拾得の口角が上がった口元や黒い衣といった要素を踏襲しながら、寒山が持つ巻物と拾得が持つ箒を掃除機とトイレットペーパーに置き換えるなど、現代風に変換。寒山拾得が組体操をする様子を描いた作品や、図形を重ねたロボットのような作品に加え、サッカーW杯が開催された昨年11月から12月にかけて描かれた作品では、寒山拾得の足元にサッカーボールのような丸いモチーフが描かれるなど、時系列とともに作品が変容していく様を楽しむことができる。

 発表会では、松嶋と横尾によるトークセッションを開催。開催の経緯について、横尾は「『寒山拾得』は以前から興味の対象で、ある時から本格的に挑戦してみようと考えていました。松嶋さんから今回の企画を依頼された時に、寒山拾得という名前の中に『十』という数字が入っていることに気がついて、そのままではつまらないので『十』を『百』にしてみようと決めて、『百得』という名前をつけました。『寒山百得』と名付けた以上、100点は作らないといけないというプレッシャーを自分に課して挑戦しました」とコメント。
 作品については、「短期間で100点の作品を完成させるためには、アーティストではなくアスリートになろうと決めて制作をスタートしましたが、制作の中で、僕自身が寒山拾得のように多様な人間にならなければいけないということに気がつきました。自分の作品様式を決めずに、目的も結果も大義名分も捨てて、子どものような心で描くことで作品のモチーフにも変化が起きて、寒山拾得をドン・キホーテやロビンソン・クルーソー、女性版のアルセーヌ・ルパンに変装させたりと、自由な作品が生まれました。まさしく寒山拾得が持つ多様性を表現できたのではないかと思います」と話した。

 展覧会の見どころについて「制作を始めた当初は、寒山拾得は子どもの感情をもった人間だと思っていたんですが、描いているうちに感情のないロボットのような人間のようになってしまいました。そのような変化を、最初の1点目から101点目までじっくり見ていただきたいです。作品群が何を意味しているかというと、はっきり言って何も意味していません。作品の前で自分と対峙して、その時に思い浮かぶインスピレーションを感じ取っていただければそれで良いのではないかと思います」と話した。
 最後に、今後も寒山拾得の作品を描き続けるかを問われた横尾は「嫌です。101点も描いたので、飽きました。もう二度と描きたくないです」と答え、笑いを誘った。

 同館の学芸企画部長を務める浅見龍介は、「当館で現代美術の展示を行うことはきわめて稀ですが、当館の展示作品が近現代のアーティストの作品誕生に関わっている例はいくつかみられます。過去の遺物だけでなく、現代の美術を感じていただける貴重な機会になればと思います。ぜひ横尾忠則ワールドに触れて、美術の面白さや楽しさ、充実感を感じていただきたい」と同展の魅力について説明した。
 なお同館では、同展の開催に合わせて、顔輝や周文が描いたとされる「寒山拾得図」を一堂に集めた展覧会と特集「東京国立博物館の寒山拾得図─伝説の風狂僧への憧れ─」も同時に開催する。会期は9月12日から11月5日まで。

■「横尾忠則 寒山百得」展期間:2023年9月12日(火)~12月3日(日)会場:東京国立博物館 表慶館所在地:東京都台東区上野公園13-9開館時間:9:30~17:00 ※入館は16:30まで休館日:月曜日 ※9月18日(月・祝)と10月9日(月・祝)は開館で、9月19日(火)と10月10日(火)は休館