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並列2気筒エンジン搭載のバイクが続々と登場する理由

2023年04月19日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
2023年も大阪・東京・名古屋の3大都市で開催されたモーターサイクルショー。何度目かのバイクブームということもあって、各ブランドから多くのニューモデルが登場した。中でも目についたのは、並列2気筒エンジンを積んだ日本ブランドの新型車が多かったこと。なぜ並列2気筒なのかを含めて紹介していくことにしよう。


○多くの新型車が同じエンジン型式、なぜ?



今年のモーターサイクルショーは、2輪車人気によって運転免許取り立てのライダーが増えていることを反映してか、親しみやすさを前面に押し出した多くの新型車がお披露目となった。



ゆえにエンジンで見ると、大排気量の4気筒よりも2気筒や単気筒を積んだモデルが目についた。中でも日本の4ブランドが力を入れていたのが、並列2気筒エンジンだ。



日本初公開の車種に限っても、本田技研工業(ホンダ)は「CL500」と「XL750トランザルプ」、スズキは「GSX-8S」と「Vストローム800DE」、カワサキモータースジャパンは「エリミネーター/エリミネーターSE」を展示していた。



CL500は単気筒の「CL250」とほぼ同時にデビューした車種で、オンロードとオフロードの中間といえるスクランブラースタイルを持つ。クルマでいえばクロスオーバーモデルに近い存在だ。ホンダは1960年代からこのジャンルに数車種を送り出してきていて、新型は約20年ぶりの復活だ。


XL750トランザルプもリバイバルモデルだ。「パリ=ダカール・ラリー」出場マシンをイメージしたアドベンチャーツアラーとして、かつては400~700ccが販売されていた。こちらは約10年ぶりの再登場となる。


GSX-8Sはスズキのストリートスポーツ「GSX-S」シリーズの新顔で、現在はGSX-S1000も販売中だ。Vストロームはスズキのアドベンチャーツアラーのシリーズであり、新登場した800DEのほかにも250/650/1,050ccがある。


エリミネーターはアメリカンなクルーザースタイルのシリーズ名。かつては125ccから1,000ccまで多彩なラインアップを用意していたが、2008年に最後まで残っていた車種が生産終了になっていたので、15年ぶりの再登場ということになる。


つまり、最初に紹介した5車種はすべて、従来からあったシリーズの最新版になる。しかしエンジン形式は従来とは異なる。



CL500と排気量が近いCL400は単気筒、トランザルプはこれまで400~700ccがあったがすべてV型2気筒、GSX-Sで車格が似ていた750ccは並列4気筒、エリミネーターのうち新型と同じ400ccは並列4気筒だったからだ。



つまり、すべての車種がエンジン形式を並列2気筒に変えてきた。なぜなのか。理由としては、軽量コンパクトであることが大きいと思っている。

○実はメリットの多い並列2気筒



4気筒と比べれば並列2気筒の幅の狭さは歴然としていて、車体を軽くスリムに作れる。Vツインとの比較では、幅はやや広がるものの、前後長は大幅に短くなる。ゆえにどのようなジャンルの車体にも、違和感なく搭載できる。



現在のモーターサイクルはクルマ同様、フレームやエンジンの共用化が進んでいる。つまり、同じエンジンを多くの車種に載せる。こうした用途に並列2気筒は向いているのだ。

今回発表された新型車でも、GSX-8SとVストローム800DEのエンジンは基本的に共通だし、CL500はクルーザーの「レブル500」、エリミネーターはスーパースポーツの「ニンジャ400」などでお馴染みだ。



残るヤマハ発動機でも、例えば700ccの並列2気筒はストリートスポーツ「MT-07」、スポーツヘリテージ「XSR 700」、スーパースポーツ「YZF-R7」、アドベンチャーツアラー「テネレ700」の4車種に搭載している。


それだけ並列2気筒は自由度の高いエンジンなのである。



さらにVツインとの比較では、エンジンを前寄りに積めることもメリットになる。これにより前輪荷重を増やせる。その結果、コーナーでの前輪のグリップが安定する。運動性能にも貢献するというわけだ。



デメリットがないわけではない。同じ排気量の4気筒と比べると、ピストンが重く爆発エネルギーが大きいので、振動は大きくなる。しかし、錘をつけたシャフトを回転させることで振動を打ち消す「バランスシャフト」を組み込むことで、ほぼ解消できる。

○ハーレーがV型2気筒にこだわるのは



昔の並列2気筒は、2つのピストンが同じ上下運動をする「360度クランク」という方式が一般的で、高回転が苦手だった。



しかしその後、2つのピストンが交互に動くことで高回転を得意とした「180度クランク」、V型2気筒と同じ爆発間隔とすることで心地よい鼓動感を実現し、エンジンの力を路面に伝えるトラクション能力にも優れる「270度クランク」が登場した。



現在の主流はこの270度クランクで、ヤマハが「パリ=ダカール・ラリー」参戦マシンに投入し、効果が得られたことから市販車に採用すると次第に普及が進み、今回のニューモデルではホンダとスズキの並列2気筒もこの方式を用いている。



270度クランクを採用する動きは、海外のモーターサイクルにもある。第2次世界大戦前から並列2気筒を使い続けている英国トライアンフの代表車種「ボンネビル」は、先代までは空冷360度クランクだったが、現行型は水冷270度クランクに変わっている。


そんな中、他のエンジン型式にこだわるブランドもある。今年創立120周年を迎えた米国のハーレーダビッドソンは代表格で、排気量は975ccから1,900cc(!)まであるものの、すべて伝統のV型2気筒エンジンを積んでいる。


ドイツのBMWも今年がモーターサイクルを作り始めて100周年という記念すべき年。こちらは単気筒から並列6気筒、さらには電動スクーターまで多彩なパワーユニットを持つが、100年前から作り続ける水平対向2気筒も用意している。



彼らが伝統の型式にこだわるのは、モーターサイクルがスクーターやクルマとは違い、エンジンをデザインの一部に取り入れているからだろう。しかも並列2気筒のクランク角度の違いだけでも乗り味が違うわけで、V型や水平対向はさらに独自の世界観を持っている。



ハーレーのあのサウンドは、ハーレー以外ではなかなか出すことができないものだし、水平対向エンジンを積んだBMWの低重心かつ安定した走りも、BMWらしさとして語り継がれている。



とはいえ日本の4つのブランドも、ホンダのV型4気筒やヤマハの並列3気筒など、ブランドアイデンティティを表現するエンジン型式は持っている。



そんな中で並列2気筒を搭載したニューモデルが数多く登場したのはやはり、この国のバイク人気を持続的なものにしたいという作り手の気持ちが、ビギナーでも扱いやすいモデルのリリースにつながったのではないかと思っている。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)