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【漫画】林檎の果実が丸ごと入ったボトルに深まる謎……不思議なSNS漫画『減らない林檎酒の話』に感じるロマン

2023年04月18日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

漫画『減らない林檎酒の話』より

 異国の歴史と情緒が感じられる漫画は魅力的だ。4月10日にTwitter上で公開された創作漫画『減らない林檎酒の話』は、不思議な世界観に病みつきになるだけではなく、ヨーロッパの文化が香る、ロマンを感じる作品だ。林檎の果実が丸ごと瓶に収まった、なぜか飲んでも減らないお酒と、それを飲んだ日に現れる夢を巡る物語だ。


(参考:漫画『減らない林檎酒の話』を読む


 ヨーロッパの情緒がにじみ出ているのは、作者のキャリアを聞くと納得がいく。芸術系の大学を卒業後、アニメーションを勉強するためにチェコ共和国に留学。そして、現在はポーランドに渡り、仕事をしながら漫画を制作しているというかんさびさん(@kansabi_kk)だ。独特の感性が発揮された本作を制作した経緯など話を聞いた。(望月悠木)


■作中の林檎酒の製法は存在する


――『減らない林檎酒の話』を制作したキッカケを教えてください。


かんさび:私が現在住んでいるポーランドは林檎の栽培が盛んで、シードルというお酒が有名です。フランスではそのシードルを蒸留してカルヴァドスというお酒が作られているのですが、「いくつかのメーカーでは林檎を瓶の中に入れてそのまま大きくなるまで木にぶら下げて育てる」と聞き、「面白いな」と思って今回漫画にしました。


――酒場から物語が始まりますが、かんさびさん自身も酒場やバーにはによく行きますか?


かんさび:そうですね。カルヴァドスやシードルの話は、ポーランドのバーでフランスの人から教えてもらいました。私はお酒がすごく弱いのですが、お酒の種類や作り方には興味があるので詳しい人に話を聞くのが好きです。


――不思議な世界観でしたが、あえて説明を省いた部分もあったのでしょうか。


かんさび:そうですね。私は「神話や幻想などの非日常・非現実的な出来事をリアリズムとして表現する技法“マジックリアリズム”という芸術表現を作品の主体にしたい」「非現実なことが日常のようにある雰囲気を作りたい」と思っています。そして、主人公目線でストーリーを展開させることで読者に不思議さを体験してもらい、背景や続編を自分で想像して世界を広げてくれるように、あまり理由や説明は入れないようにあえてしています。


■独特なコマの使い方


――林檎がメインとなった内容ですが、改めてストーリーはどのように制作したのですか?


かんさび:「カルヴァドスというお酒の話が面白い」と思って題材にしたのですが、林檎の果樹園の女神はギリシャ神話からヒントを得ています。林檎と聞くと“禁断の果実”という印象がありますが、特にそこは関係ありません。果樹園の女神たちの1人が人間の男性に恋をした、というギリシャ神話にありそうなストーリーを考えて物語の背景にしました。


――勝手に「アダムとイブがもう一度会えた」という印象を持ったのですが…。


かんさび:先述した通り、ギリシャ神話のような女神が人間に恋するというイメージからヒントを得ています。アダムとイブというよりは、「瓶を持ち込んだ青年が女神のご加護を得た」という内容です。それがどういうご加護かは読者さんの想像次第ではあります。


――4コマ漫画のように縦にコマが並ぶわけでもなく、Z字型(左上→右上→左下→右下と視線を動かす読み方)でもなく、独特のコマの配置になっていたことも気になりました。


かんさび:もともと4コマ漫画から漫画制作をスタートさせました。過去に長い漫画も挑戦したのですが、描いていて苦痛になり、「自分の描きたいものを楽しく描くためにはどうしたらいいのか」といろいろと試して今の形になりました。本作は上のコマと下のコマの距離が近く、「どこから読んでいいかわからない」という声もいただいたので、現在は少し離して調整しています。ただ、今後も恐らくこのスタイルで制作していくと思います。


――今後の漫画制作はどう展開していく予定ですか?


かんさび:とりあえず地道にSNSに漫画を投稿していく予定ですが、それ以外はまだあまり予定は立てていません。「とりあえず英訳して海外ユーザーにも見てもらおうか」と思っていますが、そこは模索しながらやっていきたいです。


(取材・文=望月悠木)