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木村拓哉主演『教場』、嘘みたいな「ダイイングメッセージ」話題…元検事が大まじめに考察

2023年04月17日 17:11  弁護士ドットコム

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警察を舞台とした木村拓哉さん主演の月9ドラマ『風間公親ー教場0ー』が4月からスタートした。殺人事件を扱った第1話の視聴率は12%を超えるなど上々の滑り出しとなったが、被害者の残したダイイングメッセージをめぐり、ネット上で「ギャグか」と話題になり、放送当時ツイッターのトレンドに入った。


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その内容は後述するが、あまりに斬新な「証拠」にもかかわらず、これを理由に「犯人」は自供を始めたという。実際の刑事事件において、木村さん演じる警察官が見つけたダイイングメッセージは有力な「証拠」となりえるのか。元東京地検検事の弁護士は「警察が無断で犯人を逮捕してきたら、担当検事は相当怒るかもしれません」と困惑しつつ、大真面目に考察した。



●どんなストーリー?(ここからネタバレを含むので注意!)

『教場』第1話では、ホストクラブオーナーの男性がタクシーの乗車中に刺殺されるという事件が発生する。途中で降車した同乗者の女性が容疑者とみられるが、防犯カメラはなく、運転手も女性の顔など一切わかっていない。



捜査線上に浮上したのは、オーナーと交際関係があったとされる女性「日中弓」さんだ。御曹司との結婚を控える中、オーナーから性行為の様子を撮影されており、殺害の動機は十分だった。



「被害者がのこしたダイイングメッセージ」を刑事(木村さん)が見つけ、それを突きつけると、田中さんは罪を自供する。



被害者の男性は、自分が殺されることを薄々予想しており、運転手に不自然な遠回りをさせていた。そのルートがタブレットに残っており、なんと一筆書きで「日中弓」の名前が浮かび上がるのだった。



ドラマはあくまでシリアスなトーンで進行するが、「どうしても笑ってしまう」とSNSは大いに盛り上がった。



「目的地までのルートをたどると犯人の名前になるというダイイングメッセージ、そんなことやる暇あったら、殺されないようにもっと頭使えよw」



「この教場の被害者、複雑なダイイングメッセージ残してる間に生き残る方法探せたんじゃ…?」



「ナスカの地上絵のよう」



ドラマでは、日中さんは犯行を認めて自供してくれたが、もしも、実際の事件でこのダイイングメッセージしか「証拠」がなく、被疑者が犯行を否認した場合、起訴や有罪となるのだろうか。東京地検の元検事・西山晴基弁護士に聞いた。



●元検事の視点「走行ルートを指示したことまでは推認できる」

——GPSによる走行ルート(経路履歴)が「日中弓」を描いたことは、日中さんを殺害の犯人とする証拠になりえますか



刑事裁判では、各証拠からどのような事実が「認定」できるのか、各事実からどのような事実まで「推認」できるのか、厳密な検討が必要です。



GPSの経路履歴から認定できる事実は「被害者がタクシー運転主に『日中弓』となる走行ルートを指示したこと」に限られます。



偶然このようなルートになるとは考えがたいため、「被害者が意図的に『日中弓』の名前が経路履歴に残るように走行ルートを指示したこと」は推認できますが、それが限界です。



要は、被害者が当該走行ルートを指示した「理由」までは立証できないのです。



●「GPSの経路履歴だけでは立証困難」

一般的にダイイングメッセージとは、致命傷を受けた被害者が、死の間際に犯人を示すメッセージとして残すものです。



「被害者が『死ぬ間際』のわずかな時間にわざわざ残す名前とすれば、犯人の名前だろう」ということが経験則上、推認できるため、意味があるわけです。



GPSの経路履歴は、殺害行為の前、つまり「死ぬ間際」よりもっと前の記録であり、このような通常の推論も成り立ちにくいのです。



ですので、結論として、GPSの経路履歴だけでは、タクシーに同乗していたのが日中弓であることすら立証困難です。殺人犯という立証がさらに難しいのは言うまでもありません。



被害者が普段からタクシーの運転手に、同乗者の名前のルートを指示していたといった「特殊な事情」でもあれば話は別ですが…。



●自白しても、すぐ否認に転じるはず…刑事は「秘密の暴露」を獲得せよ

——日中弓さんを殺人犯と立証するためには、どのような証拠を用意する必要がありますか



同乗者が日中弓だと立証できたとしても、さらに「犯人は同乗者のほかに考えられないこと」、解剖結果などから「自殺ではなく、他殺であること」といった立証も必要となってきます。



また、捜査段階で日中弓が「一筆書き」を理由に殺害を自白しても、その後、再び捜査段階で否認に転じてしまえば、この自白は公判ではほとんど意味をなしません。ほかに証拠がないことに気づくのは容易ですので、担当弁護人がつけば、ほぼ間違いなく否認させたまま無罪を主張する方針をとるでしょう。



なので、防犯カメラ映像、タクシーに遺留された髪の毛、日中弓と被害者との事件前の連絡状況等の他の証拠がなければ、公判の維持は極めて困難です。



他方で、捜査段階で自白し続けている場合であっても、公判段階で否認に転じる可能性があるため、自白の裏付け捜査が重要になります。特に、「秘密の暴露」がほしいところ。



秘密の暴露とは、捜査機関が知り得なかった事実の供述で、捜査の結果、客観証拠と一致したものです。これは、犯人しか語り得ない事実であることから、信用性が高いと評価されます。昨今報道されている「十数年前、知人を殺害し庭に埋めた」との自供から白骨化遺体が発見された千葉県木更津の事件はこの典型例でしょう。



——西山弁護士が検事の立場であれば、警察が日中さんを逮捕してきたらどう思いますか



もし検事への事件相談もなく、GPSの経路履歴だけを証拠として、警察が日中弓を逮捕してきたら、担当検事は相当怒るかもしれません。



捜査段階で日中が自白を維持していたとしても、相当頭を悩まされる事案でしょう。現実には、逮捕したとしても、起訴できない事件はざらにあるんです。




【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/