トップへ

警察の「巡回連絡カード」ってなに? 突然の訪問に「個人情報」の悪用うたがう声も

2023年04月16日 10:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

みなさんは、「巡回連絡カード」を知っていますか。警察官が家庭や会社を訪問し、住所や氏名、家族構成や緊急連絡先などを記載するものです。


【関連記事:「こんなおばちゃんをどうするの」70代女性に性暴力 出所3カ月後に事件、40代男性の常習性】



災害時や外出先で家族が事故にあったときなど、非常時の連絡に役立てるもので、これまで書いたことがあるという人もいるかもしれません。



ただ、ネット上では「巡回連絡カード」の訪問を受け、「もしかして詐欺につかわれるやつだったのかな?と不安になった」「急に来たので疑ってしまった」など、悪用や偽物を疑う声もあがっています。



そもそも、何のためのもの? 偽物を見分ける方法はあるの? 元警察官でライターの鷹橋公宣さんに聞きました。



●4月が多い理由「異動直後は巡回連絡に力を入れる」

——「巡回連絡カード」を集めるのは、4月が多いのでしょうか?



警察は年に一度、都市部では年に二度の「異動」があり、4月はちょうど異動の時期にあたります。



異動を前に3月あたりは急ピッチで未巡回の世帯を訪問したり、異動直後の4月は新たに担当するエリアを知る目的を兼ねて訪問したりするので、巡回連絡が盛んになります。



警察署の方針として、異動直後は巡回連絡に力を入れるところも多いので、3~4月はまさに巡回連絡の繁忙期といえるでしょう。



——どんな警察官が巡回連絡を担当するのでしょうか?



巡回連絡は、警察署の中の「地域課」に所属している警察官が担当します。簡単にいうと、制服を着て交番で勤務したり、白黒のパトカーで市中をパトロールしたりといった活動をする、いわゆる「おまわりさん」です。



警察学校を卒業すると、かならず最初は警察署の地域課に配置されるので、巡回連絡で訪問してくる警察官も自然と新人が多くなります。



とはいえ、巡査部長に昇任したばかりのエースや、刑事一筋30年で退職を控えた元刑事が地域課に配置されて巡回連絡に来ることもあるので、気になることがあったらドシドシ質問してみてください。新人とは違った、面白い話が聞けるかもしれません。



●全戸を訪問するわけではないの?

——ツイッターでは、初めて「巡回連絡カード」の記入を依頼されたという人も多く見られました。「巡回連絡カード」は、各地域でランダムにおこなわれるのでしょうか?



巡回連絡は、管轄内のエリアをいくつかに細分化した「受持区」を1人の警察官が担当するかたちで進めます。



警察庁の「巡回連絡実施要領」によると、対象は「受持区内のすべての家庭 事業所等の各戸」なので、異動を考慮して1年以内に受持区内の全戸を訪問するのが原則です。



とはいえ、地域警察官の業務は時間ごとに内容が決められています。



交番にとどまって周辺の警戒や地理案内のほか遺失・拾得などの業務をおこなう「立番・見張・在所」、管轄内をパトカーや自転車などで巡回する「警ら」などがあり、しかも交通事故や事件の届出などの急な事案にも対応しなくてはなりません。



巡回連絡は、地域警察官の活動の中でもとくに緊急性が低い活動です。緊急の届出が多いと「予定していた世帯まで巡回できず途中で切り上げた」「今日は巡回連絡ができなかった」といったことになりやすく、1年以内に全戸を訪問できないというエリアも少なくありません。



こういった事情から、異動によって担当警察官が変わっても、未巡回のままになっている世帯が多いというのが現実です。私が在職中に訪問した世帯でも「引っ越しから何年も経っているのに、初めて巡回連絡が来た」と言われたところは少なくありませんでした。



●年に一度は訪問を受けるはず

——「巡回連絡カード」はどのくらいの頻度で記入するものですか?



交番や警察署から近い、自転車や徒歩でも巡回しやすいといったエリアだと、年に一度は訪問を受けて、巡回連絡カードの記入を求められるかもしれません。



警察庁の巡回連絡実施要領にも「作成済カードは、訪問先の住民等の協力を得て、異動事項を補正するものとする」と明記されています。つまり、巡回連絡カードは一度作成したあとも、内容をアップデートしていくものです。



過去に一度記入したことがある人は、子どもが就職・独立して世帯から抜けた、高齢になった親と同居を始めたなど、世帯員の増減の変更があれば伝えて、そういう事情がなければ「変わりはありません」と答えておくだけでいいでしょう。



●巡回連絡カードの記入は任意、だけど…

——「巡回連絡カード」の記入を断っても良いですか?



巡回連絡カードの記入は任意です。警察官の訪問を受けたからといって、かならず記入しなければならないわけではないし、もちろん断っても罰などはありません。



記入を断られた世帯では、担当警察官が表札など公開されている情報だけを記入して巡回連絡カードを作成します。この場合、備考欄には「記入を拒否した」といった記載が残るので、何度も拒否を続けていると訪問頻度は下がるかもしれません。



とはいえ、巡回連絡カードは災害時や事件、事故などに巻き込まれたときや独居の高齢者と連絡が取れないときの安否確認に大いに役立ちます



実際に、巡回連絡カードがあったおかげで、住宅火災が起きたときに家族全員の安否を迅速に確認できた、独居高齢者の親族に連絡を取って鍵を開けてもらい急病で倒れていた高齢者が一命を取りとめた、といったケースもありました。



ライフラインを増やしておくという意味でも、巡回連絡カードの記入はできるだけ協力しておいたほうがいいでしょう。



●悪用の心配は?

——「巡回連絡カード」は悪用されないのでしょうか?



巡回連絡カードは、交番や警察署のキャビネットで厳重に保管されています。



キャビネットはかならず施錠するのが決まりで、交番なら交番所長が、警察署なら地域課長や課長代理が施錠できる机などに鍵を保管する二重ロック体制なので、無断では開けられません。



たとえば、外部からの侵入者があったとしても、キャビネットを無理矢理にでも破壊しなければ巡回連絡カードを見ることは不可能でしょう。



しかも、巡回連絡カードの情報はすべて「紙」ベースで保管されています。電子データではないので、誰が閲覧したのか履歴が残らず、検索に手間がかかるなどのデメリットはあるものの、外部からサイバー攻撃を受けても情報が漏えいする心配はありません。



ただ、過去には、警察官が悪用した事例もありました。



2015年1月には、群馬県警の若手巡査が小学4年の女児を連れ去ろうとする事件が起きました。若手巡査は巡回連絡カードで、女児や父親の名前を把握していました。



こういった実例があるので「巡回連絡カードの記入は拒否したい」という意見があがるのも仕方がありません。



もちろん、不正利用は絶対にあってはならないことであり、警察は深く反省して再発防止に向けた対策を徹底的に講じるべきです。しかし、報道されることはないものの、「巡回連絡カードのおかげで助かった」という事例のほうが多いという事実は忘れないでください。



●偽物の見分け方は?

——訪問を受けたときに偽物の警察官・巡回連絡カードではないか、と思う人も多いようです。



警察手帳はネットで本物そっくりのレプリカが安価で購入できますし、そもそも本物の警察手帳と見比べることもできないので、見破るのは難しいでしょう。



本物の警察官の見分け方として、よく「警察官はペアで行動する」とも言われますが、巡回連絡は各個人の受持区を巡回するので基本的に単独行動です。すると「1人だから怪しい」という選別もできません。



巡回連絡カードも、警察庁がインターネットで公開している通達に本物のデータが添付されているので、偽物と本物を見分けるのはほぼ不可能です。



本物の警察官でも「備品が不足したため交番でとりあえず様式を印刷した」という対応を取ることもありますので、紙質などから偽物・本物を見分けるのはやはり難しいでしょう。



——では、本物かどうか見分ける方法はないのでしょうか?



巡回連絡カードが本物なのか、そもそも目の前にいる警察官を名乗る人物は本物なのかが不安なときの対策は2つあります。



まず1つは、その場からご自身で警察署の代表電話を調べて「いま、〇〇さんというおまわりさんが訪ねてきているのですが本物でしょうか?」と電話で尋ねることです。



このとき、偽物の警察官だとウソの電話番号を教えてくるかもしれないので、かならずご自身でインターネットなどから代表電話の番号を調べてください。この対応で「警察署には電話しないでほしい」などと言い出せば、偽物であったり、本物でも不正な目的で個人情報を聞き出そうとしている可能性が高くなります。



もう1つは、巡回連絡カードを預かったうえで、交番や警察署に持参するという方法です。



巡回連絡カードには、世帯構成や勤務先、子どもが通っている学校など、貴重な個人情報が満載です。郵送するという方法も考えられますが、紛失・盗難の危険があるためおすすめできません。ご自身の都合のいいときに警察を訪ねて渡せば安全です。



警察だからといって情報を渡すことにためらってしまうかもしれませんが、万が一のトラブルに巻き込まれたときにかならず役立つので、安全が確認できたらできる限り協力してください。



【取材協力】 鷹橋公宣(ライター):元警察官。1978年、広島県生まれ。2006年、大分県警察官を拝命し、在職中は刑事として主に詐欺・横領・選挙・贈収賄などの知能犯事件の捜査に従事。退職後はWebライターとして法律事務所のコンテンツ執筆のほか、詐欺被害者を救済するサイトのアドバイザーなども務めている。