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ジャニーズ性加害問題、週刊文春編集長が指摘する「メディアと事務所の利益共同体」

2023年04月15日 12:51  弁護士ドットコム

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元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが4月12日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見を開き、ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川(享年87)さんによる「性加害」があったと語り、大きな反響を呼んでいる。


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2019年に87歳で亡くなったジャニーさんが事務所の少年たちに性加害を繰り返していたという問題は、1999年10月から14週にわたって『週刊文春』が報道を重ねた。後にジャニーズ事務所などが記事は名誉毀損にあたるとして提訴するが、性加害の事実はあったと認定した判決が2004年、最高裁で確定した。



最初の報道から23年が過ぎた今年(2023年)3月、英放送局BBCによるドキュメンタリー番組が放送されたタイミングで、改めて同誌は追及を始めた。カウアンさんは『週刊文春』に顔出し実名で取材に応じ、12日の記者会見はYouTubeでも配信され、多くのアクセスがあった。



芸能界を揺るがす大問題を当事者が顔出しで語ったこの記者会見は、インターネットメディアのみならず、共同通信、全国紙、そしてNHKやテレビ東京、日本テレビも報じることとなったが、その他の民放テレビ局はこの問題を取り上げておらず黙殺している。各出版社が発行する週刊誌やネット媒体、そして多くのスポーツ紙も、同様に静観の構えを見せている(2023年4月15日8時現在)。



ジャニーズ事務所は今回の記者会見を受け、共同通信などの取材に対してコメントを発表したが、性加害については言及していない。また『週刊文春』の取材に対しても沈黙を続けているという。今回、この問題を改めて日本で報じている同誌の加藤晃彦編集長と、取材チームの松村優子記者に話を聞いた(ライター・高橋ユキ)。



●最初に取り上げた後も、性加害が続いていたことに衝撃

1999年に連続して報じてきたジャニー喜多川さんの性加害を2023年にふたたび取材することに決めたのは、BBCの放送がきっかけだったという。



「やっぱり負けてられないなと正直思いましたし、当事者が顔出しで証言していたことに、ある意味やられたという気持ちもあった。これは世に問うべき話だと再認識し、精鋭の記者を集めて、いま現場は3人の記者で取材しています。自分たちの先輩がスクープしたネタだからというのも当然あるし、これまでの経験からうち以外のメディアはやらないだろうなという確信もあったので、これはもうやるしかないと」(加藤編集長)





加藤編集長になってからの『週刊文春』は、映画監督・榊英雄氏による多数の女優への性加害問題など、芸能界における性加害を幾度も報じてきた。その問題意識の延長線上に、ジャニーさんの性加害もあった。今年3月から同誌は毎号、元ジュニアによる告発を掲載し続けている。4月15日の時点で、すでに8人の元ジュニアがジャニーさんの性加害を同誌に語っており、その1人が、会見を開いたカウアン・オカモトさんだ。



今回、加藤編集長が最も衝撃を受けたのは「1999年に『週刊文春』が報じ、2003年に裁判で性加害が認定されたあとも、ジャニー喜多川氏による性加害が続いていたということ」だという。一連の報道をめぐる名誉毀損訴訟の審理では、ジャニーさん本人や記事で性被害を証言した少年2人も出廷した。



一審判決では少年らの供述の信用性を認めず同社が敗訴したが、2003年の東京高裁では一転し、判決においてジャニーさんによる行為があったことが認められた。当時、一審判決後に同社の敗訴を報じるメディアは多かったというが、二審判決は一部の全国紙が報じたのみだった。



「高齢でもあったし、その後はやっていないんだろうなと思っていたら、元ジュニアの証言によれば、性被害は続いていた。



被害があることを分かっていたにもかかわらず、それを防ぐ努力をしなかったことによって、おそらく何10人、下手すると3桁にのぼる数の少年たちが性被害に遭っている。これに関して一番責任が重いのは当然、ジャニーズ事務所ですが、我々も含めてメディア、日本社会の責任は相当重いと思うんです。



記者会見ではNHKのディレクターも『もし大手(メディア)が報じていたら、ジャニーズ事務所に入所していなかったか?』と、質問していましたが、これはやっぱり我々の罪ですよね、正直言って防げたんです。大きく言えば、我々も、ジャニー喜多川氏の性犯罪の共犯者になってしまったと言えるんじゃないか」(同)



●メディアと事務所は「利益共同体」に

カウアンさんの記者会見では、彼と同世代だというNHK報道局のディレクターが質問の際「当時入所された15歳ころのことを思い返すと、たしかに『文春』で追っていらっしゃったけど、子どもたちの世代にはまったく届くような状況ではなかったと思います」と同誌の報道が広く浸透していなかった当時の状況を語っている。



カウアンさんは入所時、裁判の情報だけでなく、ジャニーさんの行為に関する噂も「知らなかった」という。「もしテレビが当時取り上げていたら大問題になるはずなので、たぶん親も行かせないと思います」と、カウアンさんは会見で答えていた。



当初の同誌による報道は他メディアにいわば“黙殺”され、またインターネットが現在のように発達していない時代でもあったことから、子どもたちを含めて社会には届かなかったようだ。これはメディア各社がジャニーズ事務所と「利益共同体」となり、関係を重んじていることが関係しているのではないかと加藤編集長は言う。



「やはりジャニーズ事務所の影響力は非常に大きい。特にテレビ、そして本来であればテレビがやらないことは週刊誌など雑誌業界の出番なんですけど、所属タレントのカレンダーを発売するなど、きっちり利益共同体ができあがっている。大手出版各社を事務所が押さえていたというのはやっぱり相当強かったんだろうと思います」(同)



今回も、BBCの放送が大きく話題になっても大手メディアが全く取り扱わなかったことから「やっぱりまだ変わってないんだな、というのはまず思いましたね」というが、新たな被害者の告発記事を打ち、カウアンさんの会見が開かれるなかで変化も感じたという。



「カウアンさんが取材に応じてくれた記事は非常に反響が大きかった。その後、記者会見すると決まった時、これでまたどこも報じなかったら日本の大手メディアは終わりだよなと思っていたら、新聞はきっちり報じたので、その意味では前より進んではいるんでしょう。大手メディアにも志を持っている素晴らしい記者は多くいるので、おそらく現場では問題意識の高まりがあり、また彼らの声が通りやすくなっているのではないかと想像しています。



昔に比べてメディアというものが可視化される時代になった。ネット空間では、逆に報じないといって批判に晒されることもある。でも前はそういう批判自体も表に出なかった」(同)



たしかに会見の様子は誰もがYouTubeで視聴でき、NHKによる質問があったことも明らかになっていた。



「現場の勇気が、少しずつ環境を変えていくんじゃないかと思いますよね。組織がそれを止められなくなってくる。会見はYouTubeで可視化されているので、NHKは質問していたのに放送しないんですか、という声もあがるでしょう。それはやっぱり名前を出して質問してくれた人がいたからできたことだと思います。



逆に民放テレビ局はどうするんだろうなと思っています。あの記者会見がチャンスだった。『他の社もやっているから』と、ジャニーズ事務所に言い訳できたと思うんですよ。なのに逃しちゃって、じゃあどのタイミングでやるんだ、ずっとこれでいくのか、と。



FCCJでの会見の様子は、共同がすぐに打った。あれで他のメディアも報じざるを得なくなった。健全かどうかは別にして『他はやってるのにまずい』という効果はやっぱりあったんじゃないですかね。記者会見を開いたカウアンさんの勇気は素晴らしいなと思いました」(同)



●100人、200人という被害者予想は「結構リアルな数字」

そのカウアンさんをはじめ、5人の元ジュニアに取材を行ってきた松村優子記者は「最終的にはジャニーズ事務所がちゃんと調査をして、性加害があったことを認めて、元ジュニアたちに謝罪をしてほしいと思っています」と語る。



「『性加害が一切なかった』という結果にはならないと思います。事務所に近い関係者に当たっていても、被害に遭った方は相当数いることが分かっています。カウアンさんが会見で言っていた『100人、200人』という数は、結構リアルな数字だと思います」(松村記者)



とはいえ、元ジュニアに取材に応じてもらうことは容易ではなかった。これには様々な事情がある。



「皆さんやっぱり『ジャニーズ事務所が怖い』とか、そういう理由で取材を受けてくれる方が本当にいなくって。毎週1人ずつは記事に出てもらえてるような状態なのですが……。『実は僕やられてますけど喋れません』という人たちもいるんです。



喋れない理由としては『もう関わりたくない』とか『思い出したくない』という方が多いです。あとデビューしている子たちが全員被害を受けていると思われるんじゃないかとか、先輩たちにお世話になったから申し訳ないっていうところもあると思います。ジャニーさんにされたことは腹は立つけれど、自分が喋ることによって迷惑かけちゃう、というジレンマがあるようです」(同)



子どもたちが証言しづらい理由の一つが親への配慮だ。



「親に言ってない人がすごく多いんです。そのため、顔出しで証言できないんですね。カウアンさんは、事前に親に言えてたから、今回も顔を出せたのだと思います。親としては、自分が預けた子供が被害に遭っていたことを知ることはショックですし、彼らもそれを心配するようです」(同)



それでも現時点で5人が告発を行っており、今後も取材を続ける方針だ。



「2000年以降、現場はジャニーさんの住んでいた渋谷のマンションに変わりましたが、そこで『襲われる部屋』は主に2部屋だと決まっていました。ジャニーさんが夜にやってきて、肩を揉んで『ユー寝なよ』って言ったら、もう周りも、今日は彼なのか、と察する。



彼らは『やっぱり夜になると怖かった』って言いますね。狙われないベッドをみんなで取り合っていたとか、集団でお風呂入るとか、ベルトを三重に巻いて寝るとかいうことをしていたそうです。『鬼ごっこみたいだった』と言う子もいました」



カウアンさんの会見により声を上げやすくなったという雰囲気も実感している松村記者は「現時点での8人の被害者の告発で終わるにしろ、さらにたくさんの方が声をあげるにしろ、事実としてあったということは変わらない。me too運動のように大きな現象となり、ジャニーズ事務所に対して謝罪なり、補償なりを求めることを考えるというふうにスイッチしてもいいんじゃないかと思います」と期待を込めながら取材を続けている。



●ジャニーズ事務所の責任は?

加藤編集長はジャニーさんの責任について「亡くなっているからと言って免責されるものではない」と指摘する。



「少年への性加害について認めて謝罪していたり、何らかのペナルティを受けていたんだったら、『死者に鞭打つな』という声は理解できますが、ジャニーさんはそれについてペナルティを受けることなくアイドルビジネスを続け、巨万の富を得て、その後も性加害を続けて亡くなったわけで、それについてはきっちり報道する必要はあると思っています」



さらには事務所の責任も重いと語る。



「ジャニーズ事務所という芸能事務所は、男性アイドルを世に出していくというビジネスモデルで巨額の利益をあげている。彼らのデビューと性加害とが極めて密接に結びついている以上、性加害はいわゆる個人犯罪ではないと考えています。それにも関わらず、元所属タレントからの告発について説明しない、できないのは、これだけ大きな社会的影響力を持つ企業としては率直に言って失格だと思います。また、一人の大人として恥ずかしいことだとも思う。



当然ながら、なぜこういう性加害が繰り返されたのかと検証をして公表する社会的義務はあると思いますし、その結果によっては、長年、経営にかかわっていた藤島ジュリー景子社長、ジャニーズ事務所の役員達の責任も問われなければならないでしょう」



今回の同誌による一連の報道に対してジャニーズ事務所からは、現時点でコメントはないという。