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「耐久レース、キテるな」ピットウォーク超満員のIMSAに感じたスーパーGTとの共通項【WECセブリング取材後記】

2023年04月13日 18:30  AUTOSPORT web

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IMSAの12時間レーススタート前のグリッド(ピット)ウォークの様子。ピットロードが観客で埋まっている。
 LMDh規定の採用により、ポルシェ、キャデラックが新たに加わり、ル・マン・ハイパーカー規定のフェラーリ、ヴァンウォールも参入と、華々しい雰囲気で開幕した2023年のWEC世界耐久選手権。3月の開幕戦・セブリング1000マイルレースには、『auto sport』誌でもおなじみ、ジャーナリストの古賀敬介氏が取材に赴きました。

 果たして“耐久レース新時代”の熱量は、どれほどのものだったのか。イベントの裏側をレポートしてもらおうと依頼したところ、古賀氏の胸を打ったのは併催されているIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権で見た光景だったようです。

■WECのパドックの『残念ポイント』と、対照的なIMSA

 セブリングで快哉を叫んだ──「やっぱり耐久レースは最高に面白い!」と。

 3月に行なわれた通称『スーパーセブリング』は、WECの開幕戦『セブリング1000マイル』と、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権第2戦『セブリング12時間』を、2日連続で見ることができるおトクなレースウイーク。取材の一番の目的はWECで、行く前はIMSAのほうはどちらかというとオマケのような感覚でいた。

 しかし、実際に両レースを見てガラッとイメージが変わった。少なくとも、セブリングに関してはIMSAがメインイベントであると。アメリカでやっているのだから当然といえば当然だけれど、普段WECを取材している自分にとっては、かなり衝撃的な違いと差がそこにはあった。

 フェラーリの初陣ということもあり、WECのパドックにはここ数年感じられなかったような華やかさが漂っていた。ただし、WECにとってはフライアウェイのレースであり、全チームが簡素な仮設テントをパドックとして使わなければならず、そこはかなり残念なポイント。歯に衣着せずに言うと、かなりショボく見ていて気の毒だった。実際、チームからも扱いの悪さにかなり不満が出ていたようだ。

 一方、IMSAのほうもクルマの整備作業を行なうパドックは仮設だが、そこはやはりドメスティックイベント。立派で派手なトレーラーやホスピタリティをズラズラと並べ、ビッグレースの雰囲気に包まれていた。

 驚いたのは、マシンがパドックとピットの決して短くない距離を、自走で行き来していたことだ。WECもIMSAもピットボックスとパドックは離れていて、特にIMSAはかなり距離がある。それでも、スタッフや観客が闊歩し、移動用のゴルフカートが縦横無尽に走るカオスなパドックを、GTPマシンが人々の間を縫うようにしてデロデロ走る光景は、新鮮というかショッキングだった。中には、しゃがんで靴ひもを直している観客が立ち去るのを、辛抱強く待っているクルマもあった。

 観客の数も、IMSAのほうが圧倒的に多かった。正確な数字は分からないけれど、IMSAの決勝日だけサーキット周辺の道はメチャクチャ渋滞していたし、駐車場も満車御礼。そして、もっとも驚いたのはIMSAの決勝前のピットウォークが『ゴールデンウイークのスーパーGT富士』状態だったことだ。

 WECもグリッドウォークはかなり人が多く、特にフェラーリの周りは大盛況。ル・マン24時間にも負けていなかった。しかし、IMSAのピットウォークは朝の通勤電車かと思うくらい人、人、人で溢れ、カメラマンの特権であるピットウォール平均台歩行をしなければ前に進めないほどの混雑ぶりだった。それも、トップカテゴリーのGTPだけでなく、LMP2とLMP3、GTDプロとGTDのマシンの前にも満遍なくファンがいた。その光景を見ただけでも「耐久レース、キテるな」と嬉しくなったが、レースの盛り上がりはさらに凄かった。

■『面白さが長続きするレース』の仕組み

 今年からIMSAは、ハイブリッドのLMDh車両が戦う『GTP』クラスが、トップカテゴリーに据えられた。WECのハイパーカーと違い、シャシーは4メーカーから選ぶ形で、ハイブリッドシステムはシングルメイク。言ってしまえばハイブリッド化されたLMP2のようなパッケージだが、デザインの自由度は充分にあり、各メーカーの個性はかなり出ている。キャデラックとBMWが、どちらも同じダラーラ製シャシーだとは、外からは分からないだろう。

 そういう意味では、スーパーGTのGT500に近いともいえる。比べれば、やはり純ハイパーカーとして開発されたトヨタやフェラーリ、プジョーの方が懲りまくった造形で奥深さを感じるが(グリッケンハウスとヴァンウォールも忘れていませんよ)、LMDhも実際に見ると全然悪くないなと、メカ好きの僕でも素直に思えた。

 性能の均衡化も、LMDhに関してはなかなかうまくいっているようで、出始めということもありまだ信頼性やタイヤのデグラデーションに差はありそうだけれど、絶対的なパフォーマンス差はあまりないように感じた。少なくともレース中のベストラップに大きな差はなく、スタート直後やイエローフラッグあけのリスタートは、かなりの混戦状態がしばらく続く。

 しかも、セブリングは全長約6kmでエントリー台数は54台。クルマが途切れることはほとんどなく、LMP2&3やGTDのダンゴ状態トラフィックをGTPがギリギリでかわしながら走る姿は、スーパーGTと同じかそれ以上の迫力がある。やっぱりGTカーじゃなくて、ペッタンコのプロトタイプカーがえげつない走りをするのは見ていて素直に興奮する。しかも、それを12時間延々と続けているのだから、もう肉汁溢れるハンバーガーを5個くらい食べたかのような満足感を覚える。いや、それはさすがに食べ過ぎだろう!?

 好き嫌いが分かれるのは、IMSAならではの『ウェーブ・バイ』と呼ばれる周回遅れ救済レギュレーションか。トラブルやアクシデントでラップダウンとなったクルマにも、勝負のチャンスを与え続けるこのスタイルは、ある意味プロレスのようだ。ピュアなレースファンは拒絶反応を起こすかもしれない。どんなにいいクルマを作って、ドライバーが頑張って走っても、ガラガラポンで戦況が一気に変わってしまうことが多い。

 実際、今年のセブリング12時間でパフォーマンスも信頼性も低かったBMWが、最終的に2位に入ったのはこのガラガラポンのお陰と、最終盤での上位3台の集団クラッシュがあったからに他ならない。

 それでも、レースが白けたものになるかといえば、そんなことはまったくない。出ているほうも、みんなそれを承知でやっている。格闘技だってガチガチのMMA(総合格闘技)のファンもいれば、ザ・プロレスのWWEのファンもいるように、ショーとしてレベルが高く、人を楽しませることができて、それが多くのファンに支持されるのであれば良いのではないかと、セブリング12時間を見ながら思った。

 少なくとも、IMSAに関してはドライバーもチームもハイレベルで、バトルは最高に楽しめる。やっぱり、同じくらいのパフォーマンスの速いマシンが、延々と集団で戦い続ける光景を見るのは純粋に面白い。そこに、セブリングではウルトラバンピーな路面という要素も加わり、いつ何が起きるか分からないドキドキ感が延々と続く。こんなにも面白さが長続きするレース、なかなかないかもしれない。

■これからのWECのカギは『性能均衡化の塩梅』か

 比べると、WECのセブリング1000マイルはトヨタの2台がレベチで速く、そして強く、正直昨年までとあまり大きくは変わらないようなレース内容だった。それでも、フェラーリはこれからかなり速くなりそうだし、今回散々だったプジョーもコースによってはキャラ変するかもしれない。

 そして、ついにハイパーカーデビューしたポルシェとキャデラックのLMDh勢。正直、トヨタとの差はかなり大きいと感じたが、熟成が進み速さと信頼性を増せばレースの主役になり得る可能性もある。来年にはBMWも出てくるだろうし、クルマとしてのできがかなりいいアキュラがWECに守備範囲を拡げたとしたら、それはさぞかし盛り上がるに違いない。

 それだけに、性能均衡化の塩梅がこれまで以上に重要になってくるだろう。いずれにせよ、LMDhのローンチによってWECの閑散期が過去のものとなることは間違いない。「耐久レース、また始まったな」と、セブリングで確信した。