2023年04月11日 20:01 弁護士ドットコム
青森、岩手、秋田の3県の大型家電量販店で、6月1日から正社員の年間の所定休日が最低111日以上になる。4月11日付で加藤勝信厚生労働大臣が決定した。
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ヤマダデンキとデンコードー(ケーズデンキグループ)の労使が結んだ「労働協約」を、労働組合がない企業も含め、同じエリアの大型家電量販店すべてに適用する。「労働協約の地域的拡張適用」という仕組みで10例目。複数の県をまたいでの適用は初めてだ。
代理人を務めた古川景一弁護士は、「今回のルールを守らないと他社はこのエリアに出店できない。労働条件の悪化に歯止めをかけることができる。『労働条件の底』をつくることができた」と意義を語る。
地域的拡張適用は、労働組合法上の仕組みで「(1)一の地域において従業する(2)同種の労働者の大部分が(3)一の労働協約の適用を受けるに至つたとき」(番号は編集部)に適用される。
しかし、日本では大多数が企業別の労働組合。労働組合がない企業もあり、条件を満たすのは容易ではない。事実、2021年9月に茨城県の大型家電量販店で認められるまで、30年以上の空白期間があった。
なぜ歴史の扉が開いたかといえば、現在10社ある大手家電量販店のうち9社に労働組合があり、いずれも産業別労働組合「UAゼンセン」に加盟しているからだ。
UAゼンセン流通部門の波岸孝典事務局長は、「労働組合として組織化されていることと、経営者の理解がないとできない」と胸を張る。
茨城のケースでは、休みが一気に5日増える企業もあった。しかし、今回の東北3県のケースでは、労働協約に加わっていないコジマも所定休日が114日あり、労働者の休みが増えるわけではない。そもそも、ヤマダデンキとデンコードーも現在は所定休日が増えて113日だという。
それでも両社の労働組合は大きな前進だと捉えている。家電量販店は過去に大きな休日減少を経験しているからだ。
その例として、上新電機(ジョーシン)があげられる。同社はかつて年間所定休日が120日あったが、企業間競争の激化で一時106日にまで減少した。人件費割合の高い業界では、企業間競が激化すると休日か賃金を削るしかない。現在、休日日数は増えているものの戻り切ってはいない。
「過去の経緯からすれば、急に日数が減る可能性がある。下限をロックできたことに意義がある」(デンコードーユニオン・三浦聡一執行委員長)
茨城のケースではおよそ30年ぶりという歴史的快挙だったにもかかわらず、積極的なメディア発信はしていなかった。一方、今回については記者会見を開き、多くの報道機関が集まった。UAゼンセンの西尾多聞副書記長は次のように説明する。
「茨城のケースは32年ぶりでしたけど、労働組合が鬼の首をとったように『やりました』という形にしたくなかったんです。労働協約なので、経営者の理解がないとできない。労使の理解によって社会的成果が出せる取り組みだということを説明し、理解してもらう必要がありました」
実際、労働者一人当たりの平均年間所定休日数115.3 日(2021年)なので、今回の111日という日数は決して多くない。労使の相互理解により、少しずつ環境改善を目指していく制度と言えるだろう。それでも、足場を固める役割が期待できる。
「今回、複数の県をまたいで認められたのは大きい。これから色々なパターンが増えてくることが期待されます。そうすれば、組合の培ってきた集団的労使関係の恩恵を受ける労働者も増えてくるんじゃないでしょうか」(西尾副書記長)
地域的拡張適用は、労働協約なので適用期限がある。茨城のケースについても、2023年6月以降にも適用できるよう、すでに労働組合が茨城県知事に申し立てをおこなっている。今回の東北3県についても、2025年5月までの期限のため、定期的に更新していく必要がある。
地域的拡張適用をめぐっては、UAゼンセン以外にも、福岡市の水道検針業務をめぐり、自治労に加盟する非正規労働者らの労働組合が今年2月、最低時給に関する労働協約について、地域的拡張適用を求めて福岡県に申し立てをしている。
約30年間、申し立てすらされてこなかった「幻」の制度だが、一度扉が開いたことで、各労働組合でも利用の仕方が検討されているようだ。