2023年04月08日 09:31 弁護士ドットコム
スーパーのフードコートで、誰かがこぼしたラーメンの汁で滑って転倒し、手術と1カ月の入院を余儀なくされたーー。弁護士ドットコムに、補償を求めたいという客からの相談が寄せられた。
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相談者によると、フードコートの事業者からは、手術費や入院費などを支払ってもらえることになったという。しかし、入院中の休業補償や損害賠償などについては何も決まっておらず、不安もあるようだ。
このようなフードコートで起きた転倒事故で、事業者側に損害賠償を求めることができるのだろうか。島田直行弁護士に聞いた。
島田弁護士は、損害賠償制度は「損害のてん補または損害の公平な分担を目的としたもの」だと説明する。「公平な分担」を考える際には、「誰が責任を負担するべきか」という視点と「いかなる範囲で賠償責任を負担するべきか」について、区別して議論するべきだという。
フードコートの事業者の責任について、島田弁護士は次のように語る。
「転倒事故については、不法行為責任に基づき損害賠償を請求されることが多いでしょう。ここで問題となるのが、フードコートの事業者が負担する義務の内容です。
飲食店では、誰もが安心して食事を楽しみたいはずです。『もしかしたら、ケガをするかもしれない』とおびえながら食事をとりたい人はいません。そのため店には、一般的に安全に食事をとることができる環境を提供する義務があるといえるでしょう。
実際に『顧客が歩行する床に水濡れが放置されることのないよう配慮し、顧客に対して適切な注意喚起を行うべき義務』があると判断した裁判例もあります。
特にフードコートは、不特定多数の人が歩行することを想定した施設です。子どもや高齢者などの転倒しやすい人もいます。事業者としては、よりいっそう転倒事故防止に向けた対応をする義務があるといえます。今回のケースについても、滑りやすい状態を放置していたとなれば、事業者の責任が認められる可能性が高いでしょう」
もし、事業者の責任が認められたとしても、負担する賠償責任の範囲については、別途検討が必要になる。
「転倒事故の被害者は、事故と相当因果関係のある損害について、賠償を請求することができます。治療費や慰謝料はもちろんのこと、休業を余儀なくされた場合には、休業損害についても請求できます。
被害者にも『前方をよく見ていなかった』など、なんらかの過失が認められるときがあります。その場合には、被害者の過失を考慮することで、当事者間における損害の公平な分担を模索することになります。
主に検討されるものとしては『過失相殺』があります。過失相殺とは、端的にいえば、被害者の過失を考慮して賠償額が減額されるというものです。たとえば、被害者に100万円の損害が発生したとしても、2割の過失があるならば、80万円の範囲でしか賠償請求が認められないというものです。
こういった損害賠償については、当事者間の協議で解決するとは限りません。事業者の責任の有無あるいは負担するべき賠償責任の範囲で認識の相違が生じることもあります。その場合には、訴訟を含めた司法的判断を仰いで、損害の公平な分担を実現していくことになります」
【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/