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米兵の性暴力、なぜ起訴されない? 横須賀で被害にあった女性、与野党議員に体験語る

2023年04月06日 19:11  弁護士ドットコム

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オーストラリアから来日して35年以上のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが4月6日、参院議員会館で講演した。21年前のこの日、神奈川県横須賀市で、面識のない米兵の男性に強姦された。彼女は「46(シロ)の日」と名付け、「被害者は悪くない」とのメッセージを発信し続けている。


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警察の取り調べに疑問を感じ、県警を相手取る国家賠償請求訴訟を提起したが敗訴。一方で、不起訴となった加害者に対して約300万円の賠償命令を勝ち取ったが、既に米国にいて支払われなかった。彼の居場所を特定し、米国で再度訴えて1ドルの賠償を勝ち取った。



1ドルにしたのは「正義はお金じゃないから。日本のこれからのために勝たなきゃいけないと思った」。海に渡って同じ訴訟で勝った初めての人として注目され、各国で「1ドル勝訴」と報じられた。



「決して黙らない」。この日は、その思いを込めたマネキンアート作品を飾った。左手には1ドル札、チャックの開いた口の上に記したのは「Crime Against Humanity(人道に対する罪)」。2020年にはノーベル平和賞にノミネートされるなど、国内外で表現する彼女が、日本の司法に対して訴えたこととは。



●ジャーナリスト「米兵の性犯罪が葬り去られている」

冒頭、ジェーンさんはこれまでを振り返り、数々の選択をしてきたと切り出した。



見ず知らずの男に蹂躙された直後の絶望ー。自殺するか、生きるか。 警察で下着もないまま取り調べに応じる屈辱ー。祖国に帰るか、日本で闘うか。 裁判で責任を問うたが、加害者は帰国ー。あきらめるか、闘い続けるか。



父親の助けを得ながら、日本に残って闘うことを選んできたのは、同じように米兵による犯罪で苦しめられた仲間がいたこと、沖縄に暮らす息子のことがあった。



日米地位協定16条は「日本国において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動 を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である」と定めている。



しかし、会見に同席したジャーナリスト布施祐仁さんによると、米兵による性犯罪の起訴率は、国内のそれに比べて低い。布施さんが請求して入手した資料では2001~2008年は強姦(現在は強制性交)で26%、国内は62%だった。2021年度も強制性交10件のうち、起訴は2件のみと現在も続いている傾向だという。「特に米兵による性犯罪が葬り去られています」(布施さん)



この背景には1953年の日米密約があるといわれている。「重要な案件以外は裁判権を放棄する」という文書が米公文書館で見つかり、その後、日本政府も認めている。



●ジェーンさん「日本政府はレイプ犯を許しているのと同じ」

「私は(日米地位協定や司法制度の)深い穴に落ちた。自分だけ出られたとしても、穴を塞がなければ、また同じ目に遭う人がいると思ったら、闘うしかなかった。少なくとも16条の法令“尊重”は“順守”にすべきなんです」(ジェーンさん)



2006年、横須賀市で一人の女性が米兵に殺された。ジェーンさんは悔やんだ。「私の時(02年)に日米地位協定が変わって日本できちんと裁かれるようになっていれば、犯罪の抑止力となり、彼女が殺されることはなかったのでは」と。



夫の山崎正則さんと駅前に立って共に活動したが昨年、亡くなった。また、レイプされた直後に電話して一緒に闘うことを約束してくれた父も、2021年にこの世を去った。



「もう私、一人なんです。声を上げ続けるという決意で今日は来ました。男性も含めて多くの日本人が被害を受けている。レイプされて殺されても裁けないならば、日本の政府はずっと許してるということ。米兵が本国に帰るのを、どうぞと言っているのと同じです」



会場に来た与野党議員数人に対して、ジェーンさんは「地位協定を変えられるか、選択肢はあなたたちにある」と訴えかけた。外務省に近く、地位協定見直しを求める書類を提出するという。