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ル・マン王者が歩むセカンドキャリア。DTM初参戦車両は博物館入り「いつかチームでサルトに戻りたい」

2023年04月06日 18:40  AUTOSPORT web

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チーム75ベルンハルトのチームオーナー兼監督を務めるティモ・ベルンハルト
 ポルシェ919ハイブリッドでのル・マン24時間総合優勝、そしてニュルブルクリンク24時間レースではマンタイ・レーシングのポルシェで5回の総合優勝を果たすなど、ポルシェワークスドライバーとして輝かしい活躍を遂げたティモ・ベルンハルト。

 彼は2019年末をもって現役を引退、その後はポルシェのブランドアンバサダーとして世界中のイベントに参加したり、開発テストなどでポルシェファミリーの一員として活動を続けたりする一方で、テレビ技師が本業で、趣味としてレースをしていた父が1975年に立ち上げた『チーム75ベルンハルト』を2019年に受け継ぎ、正式にチームオーナーに就任。2020年からはチーム監督も務めている。

 昨年、チーム75ベルンハルト(DTMでのエントリー名はクース・チーム・ベルンハルト)は、ポルシェとしてもチームとしても初となるDTMドイツツーリングカー選手権への参戦を果たし、ノリスリンクとレッドブルリンクにおいて見事に2勝を挙げ、最終戦のホッケンハイムまでチャンピオンタイトル争いに絡むという健闘を見せた。

 ホッケンハイム戦で起きた多重クラッシュにより激しく損傷を受けたマシンは、チームとポルシェミュージアムが協力し見事に修復。バイザッハのテストコースでベルンハルト自身がロールアウトをし、この度、ポルシェミュージアムへコレクション入りすることとなった。その受け渡しレセプションが行われた会場で、DTMや今後のプランについてベルンハルトに聞いた。

■自らステアリングを握る“走れる監督”スタイルを実践

──DTMに初参戦した昨年は2勝を挙げました。あなたがレーシングドライバーのキャリアの中で得た勝利と、チーム監督及びオーナーという立場での勝利は、気持ち的に違いますか?

ティモ・ベルンハルト:答えるのが難しいが、ドライバーと代表者としてはまったくディメンションが違うと思う。

 ドライバーとしてはレースをすること自体がうれしいし、とても楽しい。ある意味、自分の仕事にだけ集中していればよい。私の経験では、特にワークスドライバーとしてのポジションを持って、ワークスの中でも一番力を入れるナンバー1のマシンをドライブできるというその名誉とそのステータスをもって勝てた時の何とも言えない気持ちの高ぶりと溢れる自信は本当に格別だったが、監督業は裏方のひとりとしてチームのみんなと喜びを分かち合うので、同じ勝利であっても嬉しさの種類はまったく違うと感じた。

 ドライバーだった時とは違い、『チームや戦略がうまく機能した』『結果が出せた』とホッとする意味で、監督としての勝利の喜びを嚙み締めた感じだった。

──今季はあなたの古巣マンタイ・レーシングが、新たにDTMへ参戦しますね。表面的にみれば、マンタイがポルシェワークスチームとしての参戦というポジションを担うように見えます。プライベーターのあなたのチームと差別化されると感じていますか?

ベルンハルト:それは感じていない。今季、DTMへ参戦するポルシェのチームは3つに増えたけれど(チーム75とマンタイ、トクスポートWRT)、ポルシェはこの3チームを平等にカスタマーチームとして扱うと信じている。

 ただ、いまのGT3レースのプロチーム・プロクラスでは、テクニカル以外の部分においてもワークスのサポートなしでは成り立たない。そのあたりは世間が承知しているとおりだし、ワークスサポートなしでDTMのようなレースで勝つことは難しい。

──メルセデスワークスでは、DTMに参戦する全チームがデータの共有をしていますが、ポルシェの3チームもそのようになる予定でしょうか?

ベルンハルト:ポルシェがメルセデスのようにデータを共有するかどうかは聞いていないので、まだ何とも言えない。

 ポルシェの3チームが団結してマニファクチャラー・タイトルを目指すし、3チームがトップ争いに常に絡んでいられるように努力をするのは当然だ。しかし、どのドライバーもチームも自分が頂点に立つことしか考えていないので、自分達たちの大切なデータを他のチームに渡すかというと……。

──新マシン(タイプ992型のポルシェ911 GT3 R)が投入される今季ですが、“ポルシェ側の人”として、あなたは開発にも携わったのでしょうか?

ベルンハルト:昨年、バルセロナで行われた開発テストでは、3日間ひとりで好きなだけ集中して開発車両を走り尽くせたし、私としては2023年のDTM用に購入する車両として見込んでいたので、車両について多くを学ぶことができた。

 ポルシェワークスや私のチームの車両テストをする際に、スケジュールが空いている場合は喜んで自らステアリングを握り、マシンのコンディションをテストしている。現役に復帰するという意味ではなく、元ドライバーとして、また監督としてマシンの状況を理解したい、より多くのデータを収集しなければならない、というだけだ。

──前モデルとの違いは?

ベルンハルト:カスタマーチームにとっては操作方法や仕様が大きく変わってはいないと思うが、全体的には旧モデルよりも、すべてのテクノロジーがひとまわり大きく、先を行っている。私がポルシェのジュニアドライバーだった頃にはまだABSもトラクションコントロールもなく、Hパターンだったので本当に当時からの進化は信じられない程だ。

 ただ、たとえばBMWのようにM6からM4へとベース車両のモデルが抜本的に変わるということはなく、基本的なところは同じで、一からマシンのすべてを学び直さなければならないといことはない。新マシンに装着するタイヤによってセットアップやフィーリングは随分と変わるので、新車のテクノロジーをどう活用するかというよりも、定番だがタイヤとセットアップの組み合わせでマシンの調整を詰めていくことの方が重要だ。

■"お手本”はオラフ・マンタイとロジャー・ペンスキー

──トップドライバーから監督業へ移行した先輩で、あなたがお手本とする方はいますか?

ベルンハルト:マンタイ・レーシングの元代表のオラフ・マンタイだ。現役時代の素晴らしいドライバーの姿も目に焼き付いているが、私が所属していた頃のマンタイ・レーシングは彼が個人経営をする小さなチームで、ほぼ全員が正社員の温かくて素晴らしいチームだったし、レースへの向き合い方や従業員への接し方、経営理念はとてもお手本としているところだ。

 他にもロジャー・ペンスキーとポルシェワークスチームは巨大なチームではあるが、その組織作りや雰囲気は私の目指すところでもある。ただ、全部を導入することは難しいので、現役時代にそれらのチームから学んだことの中からチーム75ベルンハルトに合うメソッドを少しずつ取り入れていければと考えている。

──メーカー問わず、あなたの周りの後輩ドライバーの中で、こいつは本物だ! と思ったドライバーはいますか?

ベルンハルト:レネ・ラスト! 公式戦では彼とライバルとして戦ったことはないが、2018年のレース・オブ・チャンピオンズではドイツチームとして組んだことがあり、親交がある。以前から興味のあったドライバーだが、友人となってからはドライバーとしての彼の姿勢をじっくりと観察していた。

 とても速く、有能なドライバーなのだが、どうすれば勝てるのか、速く走るためには何をどうすべきなのか、自身のドライビング・テクニックはもちろんのこと、マシンの動きやテクニカルな部分を非常に貪欲に自らにインプットし、それを勝負で有効に使えている。

──最後にル・マンについてお尋ねします。来年からGTカテゴリーがGT3車両で争われることから、数多くのメーカーやチームがそのことについて話題にしています。いつの日か自身のチームを率いて再びサルト・サーキットへ挑むというお考えはありますか?

ベルンハルト:ル・マンは私にとってとても特別な場所だ。すでに現役を退いているけれど、自分のチームを率いていつの日かあの特別な場所へ戻りたいし、必ず戻るつもりだ。

 アジアン・ル・マン・シリーズにも事前に参戦して出場権を獲得しなければならないなど、プライベーターとしてはスポンサーやバジェットの確保をして随分前から準備を整えておかないといけないので来年はまだ早いと感じているが、もしもあそこへ戻れるならば、充分に準備を重ねてから挑みたいと思っている。

 私自身は二度の総合優勝をしているが、だからといって優先的に出場権をもらえる訳ではないからね(笑)。でも、必ずいつか叶えたい夢でもあり、気持ち的にはもうその日を迎える準備はできている。自分のチームを率いてあの場へ戻れる日が訪れるとしたら、そんな素晴らしいことはないだろう。