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小中学生を狙った卑劣なわいせつ事件、罪に問われた男が明かした「自身の性被害」

2023年04月06日 10:01  弁護士ドットコム

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子どもに対する卑劣なわいせつ事件が後を絶たない。小中学生を狙った強制わいせつなどの罪に問われた、ある被告人の男性は裁判で「自身も小学生の時に見知らぬ男性から性被害に遭ったため、同じことをしてやろうという気持ちだった」と供述した。


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呆れた犯行動機に、出廷した被害者の母親は「それが私たちになんの関係が?」と被告人本人に怒りをぶつけた。最初の事件から逮捕に至るまでに6年を要し、起訴された事件は5件にのぼる。(裁判ライター:普通)



●児童らが住むマンションで行われた凶行

被告人は30代の男性。逮捕前は飲食業の仕事に就いていた。前科はない。頭は短く刈り上げ、メガネをかけ、真っ直ぐな姿勢で裁判を受けていた。



2022年6月に大阪地裁にて初回公判が行われ、事件の審理は半年以上行われた。第2回公判からは、検察側の席に遮蔽措置が取られ、被害者の関係者が座り、裁判の様子を見続けていた。



強制わいせつ事件の被害者はいずれも小学生(男子・女子)で、被害児童が住むマンションのエレベーターや階段の踊り場などでいきなり被害児童の背後から抱きつくなどして、接吻し、口の中を舐めまわすなどした。それら行為を動画に収め、見返すこともあったという。犯行に際しては、「動画をネットに流すからな」、「服を脱げ、殺すぞ」などの脅し文句も使っている。



一部の被害者とは示談が成立しているものの、残りの被害者家族からは「お金で解決できる問題ではない」と示談を拒否されている。被害児童の1人は、1年近く1人で外出ができなくなった。事件が大型連休の最中だったこともあり、今でもその時期が近づくと事件を思い出すなど深い傷を残している。



●被告人自身が受けた性被害とは

被告人はいずれの事実も認めている。最初の事件から逮捕に至るまで6年。数年にわたって犯行が繰り返されたとみられるが、自身の生活が充実しているときは行われず、父の介護や、母と開業した飲食店で多忙となり疲労が溜まったときのみの犯行であったと供述した。



児童を狙った犯行の理由として、自身の過去の性被害について語った。小学生低学年のころ、マンションの階段の踊り場で知らない中年男性に頭を掴まれ、口淫され、口内射精をされたという。この被害は家族に言うこともできず、一人で感情を押し殺す中で、「同じくらいの年齢の子に同じ目に遭わせたい」、「嫌がる顔を見たい」という思いに変化した。



検察官からは、「ただ八つ当たりしているだけではないか?」と問われると、そういった感情であったことも認めた。また、自身で似た被害に遭っておきながら、犯行による児童の心の痛みは理解できなかったという。「児童を性の対象として見ていたのか?」という問いも否定はしなかったが、自慰行為をするなど性的興奮の対象としてではないと供述した。



事件現場としてマンションの踊り場が用いられているが、被告人はよくマンションに赴いては階段に座って、上を眺めるなどしていたという。



その理由として、過去のトラウマから「自殺願望として飛び込もうとしたことがある」などと供述したが、裁判官からは「『マンション』と『小さい子』が犯行のトリガーとなっている認識」について指摘をされ、更生のために専門機関への通院など正しい認識を持つことを促された。



情状証人として出廷した被告人の父は、被害者関係席に深くお詫びの礼をしたあと質問に 答えた。被告人が過去の被害当時、学校の成績が落ちたことや、爪をよく噛むようになったなどの変化には気付いていたものの、特に理由を聞くことなどはなかった。その点の後悔から、被告人の出所後の居住型の心のケアを専門とする施設を探し、被告人の更生に目を光らせることを約束した。



●被告人の逮捕以降も癒えない被害者の心の傷

被告人質問を終えた次の公判で、傍聴を続けていた被害者1名の母親の意見陳述の機会があった。



母親は被害を受けて帰宅したときの子どもの泣き顔が、今でも忘れられないという。子どもから被害内容を聞くと、母親は子どもを父親に託し、まだ犯人が近くにいるのではと、家を出て周囲を探し回った。



被告人が「被害者の心の痛みは当時は理解できなかった」と供述したことに対して、この母親は強い憤りを示すとともに、被害後の子どもの変化を次のように語った。



被害を受けるまで明るかった子どもが、被告人が逮捕されるまで、親が一緒でないと不安で外出ができなくなったこと。逮捕によってようやく一人で外出できるようになり、それを嬉しそうに報告してきたこと。それでも玄関ののぞき窓を見てからでないと外出できずにいることーー。



「小さいときに被害に遭ったといいますが、それが私たちに何の関係があるのでしょうか」



「仮に更生したとしても私たち家族にとって、あなたは犯罪者なのです」



時折、下を向きながら意見陳述を聞いていた被告人にこの思いはどこまで届いたか。自身の最終陳述の場で、「被害に遭われた方とその家族に心からお詫びしたい。刑期が終わってもチャラになるわけではない。死ぬまで背負っていく」と述べた。



判決は懲役3年、未決200日算入(求刑、懲役5年)であった。



判決の理由において、被告人自身の反省や、一部示談が成立している点、今後の支援体制が整いつつあることを評価したが、多くの被害者を生んでおり執行猶予は相当でないと判断された。



【筆者プロフィール】裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。