2023年04月05日 10:01 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第23回は「会社に不倫がバレたらどうなる?」です。中村弁護士によると、不貞行為をしてしまった人の中には「勤務先に発覚する」ことを極端に恐れる人がいるそうです。不貞行為が勤務先にバレたら、処分を受けるかもしれないと危惧している人もいるでしょう。
ただ、中村弁護士は「実は勤務先に不貞行為が発覚しても、受ける不利益はさほど大きくありません」と話します。一体どういうことなのか、解説してもらいました。
私は、今まで多数不貞案件をやってきましたが、そもそも、勤務先に不貞行為が発覚するケースということ自体が相当少ないです。感覚的には、全体の5%未満といったところでしょうか。
理由は単純で、後に述べるとおり、「相手方(自分の配偶者や不貞行為の相手)が不貞行為を勤務先に伝えても、何もダメージを与えられないから」ということと「かえって勤務先に伝えることが違法行為などと言われて自分がダメージを受ける可能性があるから」ということです。
このような理由から、普通の人は、勤務先に不貞行為を通報するなどということはしません。
もちろん、それでも嫌がらせとしてやってくる相手方はいますが、それはレアケースであって、不貞行為が勤務先に発覚するケースは少ないということを頭に置いておいてもいいと思います。
勤務先に不貞行為が発覚するケースは様々ありますが、よくあるのは以下の通りです。
(1)自分の配偶者から勤務先に連絡が行く
(2)配偶者の親族や親友などから勤務先に連絡が行く
(3)いわゆるダブル不倫の場合に、相手の配偶者から勤務先に連絡が行く
(4)不貞相手と揉めたときに、不貞相手から勤務先に連絡が行く
(5)弁護士などの代理人から連絡が行く
(6)裁判所などから書面が届く
(5)や(6)のように、必要があってなされるケースもありますが、多くの場合は、半ば嫌がらせのような形でおこなわれることが多いと思います。
なお、訴訟を提起する場合、原告側は、送達場所として、原則被告の自宅住所を記載することになりますが、被告の自宅住所がわからない場合、勤務先(就業場所)に送達することが法的に認められています(民事訴訟法103条2項)。
そのため、相手方が自分の自宅住所を知らない場合、訴状一式が勤務先に送付されてくる可能性があります。
もし、提訴されそうなときに、勤務先に送達してほしくないということであれば、あらかじめ相手方に自宅住所を伝えておくということもありえます(自宅住所も知られたくないという方は、勤務先に送達されることとどちらを避けたいかを検討することになります)。
対立相手(自分の配偶者や揉めた不貞相手、不貞相手の配偶者など)から、半ば嫌がらせのような形で「勤務先に不貞行為のことを言うぞ」と言われることがあります。実際に勤務先に連絡が行ってしまった場合、どうなるのでしょうか。
・解雇される?
勤務先に発覚してしまうことを恐れる人には、「解雇されてしまうのではないか」と考える人がいます。
しかし、会社が従業員を適法に解雇するためには、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること」が必要です(労働契約法16条)。これを満たさない解雇は無効となります。
そして、不貞行為は、通常は業務とは関係のない私的なことですから、これにより解雇が有効となるケースは滅多にありません。
不貞相手が会社の同僚で、不貞相手と一緒に会社のお金を横領した、不貞相手が顧客ないし取引先などで、不貞相手に便宜を図ることにより会社に損害を与えたなどのケースであれば別ですが、そのようなケースでもない限り、不貞行為が会社に発覚したことによってクビになることはまずありません。
もちろん、仮に訴訟で無効とされるような解雇であったとしても、そのような解雇をおこなう会社もありますから、解雇されることが絶対にないとは言い切れませんが、私が経験している限り、会社としても不貞行為はプライベートなこととして特に問題視せず、割り切っているケースが多いように感じます。
・懲戒処分を受ける?
また、解雇までは至らなくても、減給、出勤停止などの懲戒処分を受けることはあるのでしょうか。
会社が従業員を適法に懲戒処分をする場合でも、客観的合理的な理由と、社会通念上相当と認められることが必要です(労働契約法15条)。これを満たさない懲戒処分は、やはり無効となります。
そして、上記同様、不貞行為は、通常は業務とは関係のない私的なことですから、これにより懲戒処分が有効となるケースは滅多にありません。
不貞相手が会社の同僚、取引先、顧客などで、不貞行為により、業務に支障が生じた場合などの場合は、戒告などの軽い処分を受ける可能性はあるかもしれませんが、仕事に全く関係ない相手であれば、懲戒処分を受ける可能性はほとんどないと思います。
・左遷される?
私は、比較的大手の企業にお勤めの方で、勤務先に不貞行為が発覚してしまったというケースも見てきましたが、左遷されたというケースもほとんど聞いたことがありません。
もちろん、絶対にないとは言えませんが、可能性としては相当低いと考えていいと思います。昭和の時代はわかりませんが、最近は、会社も「不貞行為は私的なこと」と考えて、業務に支障が生じない限りは、不問にしているケースが多いと思います。
ただし、もし、不貞相手が会社の同僚で、同じ部署にいるようなケースでは、一方が異動させられるということはありえます。今後のトラブルの芽を摘むためです。また、さらに、不貞相手が顧客や取引先だった場合は、担当を外される可能性はあると思います。
・噂になる?
また、過去、私のご依頼者様が経験したケースでは、「会社内で噂になって悪い評判がたってしまった」ということがありました。それで居づらくなってしまって、自ら退職したという方もいます。
しかし、そのようなケースは珍しく、実際上は、周囲の人も大人ですから、基本的に「気にしない」人が多いと思います。内心どう思っているかはさておき、少なくとも、本人に対しては何も言わないし、変な噂を立てて嫌がらせをしてくるような人もあまり多くはないと思います。
逆に、勤務先に通報した人は、通報自体が違法行為になる可能性があります。
すなわち、必要もないのに、単なる嫌がらせ目的で、勤務先に電話、手紙などを送り付けた場合は、名誉毀損やプライバシー侵害になりえます。名誉毀損は、伝えている内容が真実であったとしても成立しえます。
悪質な場合は、こちらから相手に対して、名誉毀損による損害賠償請求がありうるため、不貞行為の慰謝料と相殺して、最悪の場合、慰謝料額が減る可能性があります。
また、弁護士であったとしても、必要もなく勤務先に突然通知書を送り付けたら、懲戒処分を受ける可能性があります(実際に懲戒処分となった事例もあります)。そのため、弁護士としても基本的には相当慎重になります。逆に、相手の弁護士がそのようなことをやってきたら、懲戒請求を検討してもいいと思います。
私も、不貞相手の勤務先に通知書を送付したことはありますが、それは、相手方の自宅住所がわからず、勤務先しかわからない場合であり(職場内不倫だとそのようなことはよくあります)、勤務先に送付する必要性がありました。
また、送付する場合であっても、周囲に発覚しないように相当注意しています。具体的には、外から見て法律事務所からの通知書だとわからないようにするために、封筒は、普段用いている事務所名が記載されている封筒ではなく、市販の茶封筒などを用いますし、差出人氏名も、「弁護士」という肩書はつけずに、自分の個人名だけを記します。
その上で、「親展」にして本人以外が開けないようにし、内容証明郵便などのように目立つ送付方法ではなく、普通郵便で送るなどしています。弁護士として送付する場合でも、これくらいは注意して送ります。
私が担当したケースで、実際に勤務先に発覚してしまったケースが何回かあります。具体的には、相手の親族から勤務先に手紙が送られたケース、相手の関係者から勤務先に電話があったケース、裁判書類が勤務先に届いたケースなどがありました。
しかし、それで本人が何か不利益を受けたかというと、ほとんどの場合は何も起きていません。多少、上司から呼び出されて軽く話をされたり、少しの間、噂話がされている状況になったりしたことはあるようですが、それ以上には特に何も起きていません。
思ったより周囲の批判の声が強くなってしまって、会社に居づらくなって退職に至ったケースもないではありませんが、そのようなケースは例外的です。
上記のとおり、そもそも勤務先に発覚するケースは少なく、発覚したとしても受ける不利益はそれほどないのですが、もちろん皆無ではないので、勤務先に発覚することを非常に恐れている相談者はたまにいらっしゃいます。そのように恐れている場合、どうなってしまうのでしょうか。
この場合、相手方から「勤務先に言うぞ。嫌ならこの合意書にサインしろ」と過度な条件を突き付けられることになります。
たとえば、本来であれば、150万円の慰謝料で済んだのに、300万円の慰謝料を支払う旨の合意書を交わしてしまう、財産分与で全て渡す合意書を交わしてしまう、婚姻費用や養育費で、算定表で認められる額を大幅に超える金額で合意書を交わしてしまう、などです。
このような合意書を、後から覆すことは容易ではありません。たとえ、「勤務先に言うぞと脅されたから」と主張したとしても、強迫(民法96条)などで取り消したり、無効と認められたりするケースは極めて限られます。
上記のとおり、勤務先に不貞行為が発覚しても、受ける不利益はさほど大きくないのに、一度合意書を交わしてしまうと、それにより受ける不利益はかなり大きいです。
しかも、合意書を交わしたとしても、相手が今後「勤務先に言わない」という約束を守ってくれるとは限りません。たとえ、相手の要求に応じて、150万円で済んだ慰謝料のところを300万円払ったとしても、再度、「勤務先に言うぞ。言われてほしくないなら、養育費もこの額で合意しろ」と迫られることもあります。
相手方の脅しに屈してしまったら、相手方に成功体験を与えてしまうことになるため、繰り返し相手方は脅してくる可能性が高いと思います。そうなってしまっては、終わりが見えません。
このように、相手方の脅しに屈してしまうことによる不利益は甚大です。そのため、最初の段階で、「勤務先に発覚することを恐れない」という心づもりをしておくことが重要だと思います。
もし、相手方が「勤務先に言うぞ」と言ってきたり、勤務先に連絡してきそうな雰囲気を感じ取ったりしたときには、どのように対処すればよいのでしょうか。
まず、上記のとおり、相手方の脅しに屈するようなことはいけません。その上で、場合によっては、必要もないのに勤務先に連絡することは、違法となる可能性があることを伝えてもいいでしょう。ただし、不貞行為をしてしまった点については、こちらに非があるので、必ずしもそこまで強気に行けるとは限りません。
加えて、事前に勤務先の上司などに伝えておくこともできます。事前に知らせておくことで、ショックを和らげ、事前に伝えた上司以外の人に話が広まってしまうことを防ぐためです。
いかがでしたでしょうか。不貞行為をしてしまった方のご相談で、心配されている方が多い「勤務先に発覚した場合」について解説しました。基本的に、勤務先に発覚することを過度に恐れる必要はなく、弁護士に相談の上、妥当な解決を図ることをお勧めします。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/