2023年03月27日 09:51 弁護士ドットコム
職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知ってほしい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。
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連載の第30回は「フリーランスのトラブル対処法」です。フリーランスと言っても、その実態はさまざま。笠置弁護士は「どのような法律が適用されるかは、働き方の実態に即して解釈・判断するのが裁判所の立場です」と実質労働者と言える場合もあると話します。
フリーランスである場合、フリーランスと言いながら実態は労働者の場合、それぞれについて、トラブル対処法を解説してもらいました。
コロナ禍前は、労働者と比べてのフリーランスの自由な働き方が過剰なまでに賞賛され、政府による副業解禁の動きと相まって、フリーランスによる働き方を推進していく動きがかなり強くあったように思います。
ところがコロナ禍の中で、フリーランスに対する契約解除等のトラブルが相次ぎ、フリーランスの法的保護の弱さが浮き彫りとなり、社会問題にもなっています。
今回は、フリーランスの方々がトラブルに見舞われた場合の対処法について解説したいと思います。
フリーランスと言っても、その実態は様々です。広い裁量を持ち、完全に独立して業務を遂行できる方もいれば、注文者からの厳格な指揮命令を受けており、実態としては労働者と変わらないという方もいます。
どのような法律が適用されるかは、契約の形式(契約書のタイトル等)ではなく、働き方の実態に即して解釈・判断するのが裁判所の立場です。
例えば、フリーランスと言えども、使用者の指揮命令を受けて労働し、かつ賃金を支払われている(労基法上の労働者)と言えるのであれば、その方は労働法令による保護を受けることができます。
この判断に当たっては、以下の要素が考慮されることになります。
・業務の依頼・指示に対する諾否の自由があるかどうか
・業務を進めていく中でどの程度の指揮命令がなされるか
・勤務場所や時間の拘束を受けるか
・他の者が代わりに業務を担っても良いかどうか
・報酬が一定時間労務を提供していることに対する対価を言えるかどうか
これに当たる場合、報酬不払いは賃金不払いということになりますので、当然に決められた賃金を請求することができますし、残業をしたと言える場合には残業代も請求することができます。
ハラスメントを受けた場合には、労働者がハラスメントを受けた場合と同様、職場環境整備義務に違反したということで、加害者や注文者に対し損害賠償請求等を行うことができます。
これに当たるとまでは言えなくとも、広い意味で注文者に経済的に従属して生活している(労組法上の労働者)と言えるのであれば、その方は労働組合法による保護を受けることができます。この点が争われたのが、ウーバージャパン事件です。
ウーバーイーツの配達員の方々は、労働者ではないと契約上定められているのですが、東京都労働委員会は、配達員の方々が労組法上の労働者に該当すると判断し、運営会社に対し、配達員の方々の労働条件等について、配達員の方々の労働組合と交渉しなければならないと命じました。
報酬不払やハラスメント等のトラブルに見舞われた場合に、一人だけで交渉をしても、どうしても非力になってしまうことが多いと思われますが、労働組合を通じた交渉ができれば、大きな交渉力を得ることができます。
労組法上の労働者にもあたらず、純然たる独立事業者としか考えられない場合、労働法の手厚い保護を受けることはできず、対等な当事者間の法律関係を定めた民法にしたがってトラブルに対処していかなければなりません。
きちんと契約書が定められていれば、契約書に定められた報酬が支払われない場合、契約書にしたがって請求することができます。
これがない場合には、民法にしたがい、仕事が完成した場合(請負契約の場合)や委任事務を履行した場合(委任契約の場合)等に報酬を請求できることになります。仕事の完成ができなくなった場合にも、一定の要件を満たせば報酬の請求ができる場合があります。
相手方が大企業である場合などには、下請法による保護を受けられる可能性があります。その場合、公正取引委員会や中小企業庁に対し、被害申告をし、是正を求めることができます。
ハラスメントを受けた場合でも、社会的に見て密接な関係に入ったと言える場合には、加害者や注文者に対し損害賠償請求等を行うことができます。
例えば、フリーランスの方が注文者から悪質なセクハラ被害を受けたことに対し、慰謝料等の損害賠償請求を認めた事例として、アムールほか事件(東京地裁令和4年5月25日判決)があります。
このようなトラブルに遭った際、相手方に不当に有利な解釈を許さないためにも、必ず契約締結時に契約書を取り交わすようにしましょう。また、フリーランスと言いながら実態は労働者であったり、ハラスメント被害に遭ってしまった場合に備え、労働実態を証明できる証拠は確保しておくとよいでしょう。
最新の動きとして、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス保護法)が制定される可能性が出てきました。その中では、注文者に対し契約内容を書面等で明示させる義務や就業環境を整備させる義務が定められています。
国会審議の中でこの法律がどのような内容となり、実効性のあるものとなるかどうかはぜひとも注目するべきでしょう。
(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)
【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/