「タワマン」には、何かと新しくて清潔なイメージがある。新築となれば、なおさらだ。でも、実はそんなタワマンにも容赦なく侵入してくるのがゴキブリやネズミ。都内在住の40代男性は、せっかく手に入れた新築タワマンの自室で、ネズミに遭遇する羽目になってしまったという。(取材・文:広中務)
出てきたのは「漫画のようなネズミ」
男性が、23区内某所でタワマン暮らし(20階)をスタートしたのは、5年ほど前のこと。
「ローンを組んでタワマンを買ったのは、収入も安定してきて、結婚願望はなかったので、今のうちに一生の住居を手に入れようと思ったからです」
最寄り駅からは徒歩数分。商店街やスーパーもそこそこ充実していて暮らしは快適だったという。重視したのは「新築」という点。というのも、男性はきれい好きで、虫などのたぐいがあまり得意ではなかったからだ。
「自分はゴキブリも苦手なので、新築を選びました。新築であればゴキブリがいることもないし、ほかの住人も発生しないように気を遣って生活していると思ったんです」
想像通り、ゴキブリが現れることはなかった。もとからマメな性分だという男性は掃除も頻繁におこなっていたため、どこにも隙はないと思っていた。ところが、ゴキブリを越えた恐怖が忍び寄ってきたのは、住み始めてから2年目のことであった。
「ある晩、枕元をなにか小動物が走る物音で目が覚めたんです。トコトコトコと走る音がした後に、漫画に出てくるみたいなチュウチュウという鳴き声が聞こえて驚きました」
慌てて照明をオンにしたが、なにもいなかった。きっと夢を見たのだと思った男性だが、その後も数回同じようなことが続いた。
「まったく姿は見えません。仕事も繁忙期だったので、精神を病んでいるのではないかと思いました」
しかし、それは妄想ではなく現実だった。ある日、帰宅した男性が目にしたのは、買い置きのカップラーメンのカップの部分が食い破られて散乱している姿だったのだ。
「マンションのほかの部屋にも出没していたようで、管理組合でも問題になりすぐに駆除業者が手配されました」
すっかりトラウマに
これで一安心かと思いきや、男性の気持ちはまったく休まらなかった。
「ほかの住人と顔をあわせると話題はネズミのことばかりです。駆除されて出なくなったという人もいるかと思えば、まだ隠れてるんじゃないかという人もたくさんいます。そんな話を聞いているうちに、次第に怖くなってきました」
この時期男性は「壁の裏には無数のネズミがギラギラと目を輝かせている」ようなことを想像し「自分が食べられる」とまで考えこんでいたという。
「もう、我慢できなくなって自腹で複数のねずみ取りや粘着テープを購入したんです。最初は自分の部屋にセットしていたんですが、それでは駆除できないと思ってドアの前の廊下にもセットしてみたり……」
駆除作業以降、男性の部屋はもちろん、マンションにはまったくネズミが出没していなかったのだが「まだ隠れているに違いない」という恐怖は増すばかりだった。
「管理組合にも、より強固なネズミ対策の強化を提案したりしてみたんですが、たしなめられました。せめてもの対策だと思って、自分の階の廊下に複数のねずみ取りを設置したら、共用部に私物を置かないように注意されたり……」
半年あまり、ネズミに恐怖した男性だが、ある時ふっと考えが変わった。
「自分は、独身で身軽なんだから引っ越せばいいじゃないか……と思ったんです」
幸いにも、マンション価格が値上がりする時期に入っていたこともあり、マンションは購入価格に少しばかりプラスされた金額で売却することができた。
現在、男性は賃貸マンションに暮らしている。今後、再びマンションを購入するかどうかは未定とのことだ。