りんたろう監督「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」のワールドプレミア上映が、去る3月20日に「第1回新潟国際アニメーション映画祭」内で行われた。上映後にはりん監督、企画のスタジオM2・丸山正雄、弁士の声を務めた小山茉美らに加え、キャラクターデザイン担当の大友克洋がサプライズで登壇した。
【大きな画像をもっと見る】「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」はりん監督にとって14年ぶりの新作アニメーション。28歳の若さで夭折した映画監督・山中貞雄の「鼠小僧次郎吉 江戸の巻」を題材にしている。りん監督は「久しぶりにアニメの現場を感じたときに、完璧に日本のアニメーションが変わったなと思ったんですよ。作り方とかすべてが」と思いを述べる。「それで自分なりにどうするか丸山と相談して、僕らに『鬼滅の刃』の続編は作れないけど、自分たちのスタイルでやろう、日本の映画の大元に戻ろうと。そして山中貞雄でどうか?という話になって、手探り状態で始めたのがこの作品です。僕的にも満足のいく形ができました」と振り返った。
山中貞雄を題材に選んだことについて、丸山は「山中貞雄はハートウォーミングで、小市民を丁寧に優しく描いている。この人のすごさを残していきたい。アニメーションで何ができるか、何を残せるかを考えると、僕やりんたろうがやるしかないという発想がありました」と語る。「今僕らが山中貞雄をやらないと、ずっとできないかもしれない。無理してでもやろうと、これまででも一番大変な、血の出るような思いの中で、やっとできあがった映画です。山中貞雄を日本文化の大事なものとして、僕らの心の中でちゃんと残していきたいという思いを、皆さんにわかっていただけるといいなと思います」と並々ならぬ思い入れを露わにした。
小山は「無声映画(の弁士役)ですから、普通の芝居とは違うので悩みました」と告白。「普通はセリフを録った後に音楽や効果音をつけるんですが、今回は本多俊之さんに先に音楽を作っていただいて、それとの掛け合いでセリフを録るという初めての経験をしました。江戸弁のニュアンスが一番難しかったのですが、監督が送ってくださった(古今亭)志ん生の落語のテープで勉強しました」と裏話を語った。
そして「りんさんなんで、やるしかないんですよ」と参加の経緯を語った大友は、「“山中貞雄を描いてくれ”なんて(機会)ないですから。楽しかったです」と笑顔を見せる。もともと「江戸ものは好き」だそうで、「夜寝る前は『半七捕物帳』を読んでます。(江戸ものを)やってみたいなと思ってるんですけど、難しいんですよ。当時の感じがわからない。昔の無声映画の頃のセットは、当時の美術の人間が江戸時代を知っているんですよ。なので、それを観ると『江戸ってこんな感じだったんだろうな』っていうのがわかるんですよね。(山中の)『人情紙風船』もすごく江戸っぽいですよね。今ああいう江戸は作れない」と、山中貞雄作品の魅力にも触れた。さらに大友は自身の全集のステッカーを手ずから配り、集まった観客を沸かせた。
今年初開催となる「新潟国際アニメーション映画祭」は、国内外の長編アニメーションにスポットを当てた映画祭。10作品が参加する長編コンペティションを中心に、多数の監督らを招いての上映イベントが行われ、本日3月22日に閉幕した。「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」は今後、フランスでの上映が決定している。