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「育休取得したら昇給は認めない」闇ルールの妥当性を問うた大学講師 裁判所の見解は

2023年03月21日 07:31  弁護士ドットコム

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日々問題なく働いている人でも、いつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。


【関連記事:先輩の母親と「ママ活」したら、地獄が待っていた…もらった「250万円」は返すべき?】



トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。



今回紹介するケースは、育児休業を取得したことで定期昇給の要件を満たさなかったとして、昇給できなかった大学講師が勤務先の大学を提訴したという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。



●事案の概要

こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
裁判例をザックリ解説します。



大学の男性講師のXさんが育休をとったあと、昇給できなかった事件です。
Xさんは「これは違法だ」と訴訟を提起。



~ 結果 ~



Xさんの勝訴です。
裁判所は
「違法だ。昇給したらもらえてた分の賃金やボーナスを払いな」
と命じました(近畿大学事件:大阪地裁平成31年4月24日判決)。



以下、本質を損なわない程度に事案や裁判所の判断を簡略化して解説します。



●どんな事件か

学校法人で起きた事件です。
Xさんはある学部の講師(男性・育休当時おそらく48歳)。



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▼ 育休をとる
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Xさんは育休をとりました(2015年11月1日~2016年7月31日)。すると...



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▼ 昇給されず...
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法人はXさんの定期昇給を実施しませんでした。
下記の規程に基づき「要件を満たさない」との理由で昇給させず。



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育休規程 第8条
休業の期間は、昇給のための必要な期間に算入しない。昇給は原則として、復職後12ヵ月勤務した直近の4月に実施する。
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●Xさんの主張

Xさんは訴訟を提起。
Xさんの主張は
「育休をとったことを理由に昇給させなかったことは違法だ」
というものです(その他、減年調整も違法だなどの主張をしていますが、以下では昇給の点に絞って解説します)。



●裁判所の判断



裁判所は「昇給させなかったことは違法だ」と判断しました。
理由は【育児介護休業法10条】に違反しているというもの。



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育児介護休業法 第10条
事業主は、労働者が育児休業申出等(中略)をし、若しくは育児休業をしたこと(中略)を理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
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「育児休業をしたXさんを不利益に取り扱ってるよね」
ということで違法と判断。



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▼ 理由
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「不利益取り扱いだ」と認定した理由はザッと以下のとおり。



・給与規程12条は年功序列的な考えを原則としている。在籍年数に応じて一律に給与アップするから。



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給与規程 第12条
1 昇給は、通常毎年4月1日に行う。
2 昇給の資格のある者は、当年4月1日現在在職者で、原則として前年度12ヵ月勤務した者とする。
====



・それなのに一部でも育児休業をした職員に対しては、残りの期間の働きっぷりが良かったとしてもゼッタイに昇給させない運用は定期昇給の趣旨と整合しない。
・この運用だと将来的にも昇給の遅れが継続し不利益が増大する



以上の理由などを挙げて
「育児介護休業法10条の【不利益な取扱い】だ」
と判断しました。



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▼認められた金額
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認められた金額は以下のとおり。



・昇給していればもらえた金額と実際の賃金との差額
  月ごとに1万5700円
・ボーナスの差額
  合計約14万1000円



●ほかの裁判例

育休をとったことを理由とした措置が【不利益取り扱い】と認定されたケースを紹介します。



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▼ 昇給させなかったケース
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医療法人稲門会事件:大阪高裁平成26年7月18日判決



医療法人で起きた事件。原告は男性看護師です。
3ヶ月の育休をとったあと道を閉ざされました。
職能給が昇給せず、昇格試験も受験できず。



〈裁判所の判断〉
公序に反し違法。育児休業の権利行使を実質的に失わせるもの。



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▼ 育休からの復帰を拒否され解雇されたケース
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シュプリンガー・ジャパン事件:東京地裁平成29年7月3日判決



英文の学術書などの販売を行っている会社での事件。
原告(女性)は育休をとったあと、職場復帰を求めたが解雇された。



〈裁判所の判断〉
解雇は無効。
育児休業終了と近接した時期に解雇しており、解雇事由に合理的理由がないことを当然に認識できた。



●慰謝料は?

Xさんは慰謝料50万円を請求してたんですが認められず。
理由は「差額の請求が認められたんだからコレで財産的損害が回復してるよね、今回はそれで十分だと思います」ってことです。
むずかしい言葉で言えば「なお賄いきれない法的保護に値する精神的苦痛が発生したとは認められない」ということです。



Q.
慰謝料はゼッタイに認められないんですか?



A.
いや、認めてくれることもあるんです。上で挙げた事件では慰謝料を認めてくれてます。



■ 15万円の慰謝料が認められたケース
〈理由〉
 昇格試験を受験させなかった(医療法人稲門会事件)



■ 50万円の慰謝料が認められたケース
〈理由〉
 受け入れがたい選択肢(インドへ転勤か給料がめっちゃ下がる部署...)を提示されて退職勧奨を受けた、会社が紛争調整委員会の勧告にも応じていない(シュプリンガー・ジャパン事件)



ここは出たとこ勝負ですね。
裁判官がいろんな事情を脳内に入れてガラガラポン!と金額を弾き出します。



●さいごに

この事件は平成31年のものですが、
現在は急ピッチで「男性にも育休を!」の流れが進んでいます。
2022年10月1日からスタートしている制度は以下のとおりです。



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▼ 産後パパ育休(出生時育児休業)
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出産を終え【瀕死】といっても過言ではないママをサポートするための制度です。



原則、出生後8週間以内の子どもを養育するための育休です。
8週間以内に28日(4週間)まで分割して2回取得できます(育児介護休業法9条の2第1項)。
また、育児休業とは別に取得が可能です。



この時期のサポート、鬼大事ですよね。
ママに満足してもらえなければ、たぶん一生言われます(実体験)。



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▼ 育児休業の分割取得
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原則として、子どもが1歳になるまでは分割して2回取得できます(育児介護休業法5条)。



中小企業のワンマン社長は
「俺の時代はなー!」とツバを吐き散らし育休を拒む可能性があります。
そんなときは都道府県労働局雇用均等室に相談してみましょう。



今回は以上です。
これからも働く人に向けて知恵をお届けします。
またお会いしましょう!



【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1