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BEV専用モデルで後発のレクサスは何で勝負する? 新型「RZ」に試乗

2023年03月20日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
レクサス初の電気自動車(バッテリーEV=BEV)専用モデルとしてまもなくデビューする「RZ」のプロトタイプにサーキットで試乗した。ミドルサイズSUVタイプのBEVは国内外のメーカーが発売していて百花繚乱状態だが、レクサスRZはどんな個性で勝負するのだろうか。


○スピンドルボディの見た目はあり?



レクサスには「UX」をベースとする「UX 300e」というBEVがあるが、BEV専用という意味ではRZが最初のモデルとなる。電動車専用のプラットフォーム「e-TNGA」を土台とするSUVで、実車を見た感想としてはベースモデルとなったトヨタ自動車「bZ4X」とスバル「ソルテラ」の“カッコいいバージョン”といった感じだ。


デザインのテーマは「シームレスイーモーション」。エクステリアは内燃機関を搭載しないBEVらしく、従来のレクサス車の特徴であった「スピンドルグリル」に代えて「スピンドルボディ」を採用した。塊感のある形状とすることで“らしさ”を強調している。



マッシブなスタイルは加速感や躍動感をしっかりと表現。空力性能にも注力していて、bZ4Xにあったツノのような形のリア2分割スポイラーはそのまま継承している。今や高級車の証であるカッパー&ブラックの2トーンなど魅力的なカラーも多く、一目でレクサス車であることがわかる。リアハッチ右下には「RZ450e」と「DIRECT4」のエンブレムが備わっている。


インテリアは人中心の「TAZUNA」コックピットを展開。ドライバーの眼前にはレクサス独自のインストルメントクラスターを採用し、センターには14インチの大型ディスプレイオーディオを配置する。全体的には過度な加飾を抑えたシンプルでクリーンな内装だ。



シートやドアトリムには、サステナブルなバイオ素材のウルトラスエードを採用。ステアリングには高触感合成皮革を使っている。通常の丸ハンドルとは別に、新技術の「ステアバイワイヤ」(SBW)を取り入れた「異形ステアリング」(航空機の操縦桿のようなヨーク型形状のもの)も用意されるはずだ。


○目指す走りは「ザ・ナチュラル」



RZ450eが搭載するパワートレインはフロント150kW(204PS)、リア80kW(109PS)を発生するツインモーター。総合出力は230kW(313PS)だ。車両重量は2,110kgと重めだが、100km/hまでわずか5.3秒で加速させることができる。71.4kWhの水冷式リチウムイオンバッテリーにより、航続距離は494km(J-WLTCモード)を実現している。


まずはサーキットを3周する。80km/h制限の1周目は「ノーマル」モードで車両の素性を確認、2周目は100km/hで「スポーツ」モード、3周目はもう少しスピードを上げてみた。

ダイヤル式のセレクターを「D」に入れてコースインすると、その滑るような走りに圧倒される。超ハイテン材や構造用接着剤を多用した軽量(といってもトータル2トン越えだが)かつ高剛性な低重心ボディが、優れた空力性能と絶妙にマッチしている。



高トルク・高レスポンスの「e-Axle」(BEVの駆動ユニット)の開発では、世界最速の動物「チーター」のブレない視線や体幹のよさからヒントを得たという。これを使ったAWDの「DIRECT4」が、四輪の接地荷重に応じた駆動力配分を行う。コーナー侵入時には75:25~50:50の間でフロント側を優勢にして向きを変え、エイペックスを過ぎて出口に向かい出すと50:50~20:80の間でリアを優勢にし、まったく自然なかたちでコーナーを次々にクリアしていく。さらに加速やブレーキングに応じて駆動配分を変えるので、車体はピッチングが少なく常にフラットな状態を保持し続けるのだ。



レクサスがRZで目指した走りは「ザ・ナチュラル」だそうだが、試乗では自然な走りをしっかりと感じることができた。クセのない所作はあまりにもナチュラルすぎて、もう少し刺激が欲しいというのはぜいたくな要求だろうか。



ちょっとスピードを上げて走った3周目ではRZの「音」に注目。第1コーナーを過ぎた上り坂や、Rのきつい4コーナーを抜けて5、6、7コーナーに向かう際、強めに加速したときに聞こえてきたのは、「ヒューン」という高い音と「ブーン」という低い音が奏でる和音のような音色。音量も走りに応じて変化する。この音、これまでに乗ったBEVの中で最も自然に加速感を伝えてきてくれて、リズム感もつかみやすい。わざわざBEV専用に作り込んだサウンドを発生する他社のBEVよりも、こちらの方がずっといいと思った。


○SBWの“操縦桿”を試す



ステアリングとタイヤを電気信号だけでつなぎ、機械的な接続がないSBWの量産車世界初採用を目指しているRZ。ステアリング形状を操縦桿型にしたのは、新技術を世界に強くアピールする意味もある。操作角度は左右に150度ずつで、合計300度。ということは、回し切っても1回転しない設定(通常モデルの丸ハンドルは3回転程度)なのだ。異形ステアリングのメリットとしては、前方視界とメーターの視認性向上、ハンドルの持ち替え不要といった要素が挙げられる。



SBW搭載車の試乗では、スラロームとクランクを20km/h以下で通過する低速の特設コースと、80km/h程度でサーキットを1周する高速コースの2パターンを体験した。結論からいうと、SBWの完成度はあとちょっとという感じだ。



サーキットのコーナーをある程度のスピードでクリアする際は、少ない舵角で思った通りのラインが狙えるし、操作にもすぐに慣れるので全く問題なし。しかも、100km/h前後では通常のハンドルよりピッチがスローになるらしい。



一方で、低速で狭い直角のクランクを通過するときには、思ったよりも切れすぎることで内輪差に気を使ったし、バックで90度の車庫入れを行おうとすると、ステアリングを握る手の位置が気になったり、クルマの向きが大きくずれてしまったりした。


担当者に話を聞くと、低速域での切り始めの違和感を潰すため、今も詰めの開発を行っている最中であるとのこと。操舵の角度までも変わる可能性があるらしい。



すでにたくさんのBEVが市場に登場している中、後発でBEVを発売するブランドは他社との差別化を図るため、新しいアイデアをどんどん投入する必要がある。今回のSBW技術もそのひとつ。新しい挑戦は大歓迎だ。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)