2023年03月19日 10:01 弁護士ドットコム
「精神しっかんの人に会ったら『がんばって』じゃなくて『無理しないでね』と言おうと思います」「もしかしたら私もなっているかもしれないと思った」
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東京都西部にある日野市では互いに個性を尊重する町を目指す取り組みとして、日野第五小学校4年生129人が2022(令和4)年度、障害者やLGBTなど当事者の話を聞く学習をおこなった。
躁うつ症状がある双極性障害を抱える隆史さん(仮名、43歳)は11月、一生のうち5人に1人は心の疾患で通院したことがあるというデータを示し「特別な病ではない」と訴えた。
「競泳の萩野公介さんやサッカーの権田修一さんも心の不調に悩まされたといいます。精神とは脳や全身の神経も含めた心身の総称。気持ちの問題だと誤解されがちですが、自分の力ではどうにもできない。理由もなく落ち込み、寝たきりのようになることもあります」
授業を企画した日野市社会福祉協議会の宮崎雅也さんは「当事者の声」にこだわったという。「精神疾患にかかるのは就職活動でつまずくなど20歳前後が多い。子どもたちが精神障害の存在を知ることで、自分や周りが発症した時に気付ける。偏見や差別をなくす一歩になると思います」と強調した。
隆史さんは大卒後にマスコミに入社して営業を担当していたが、心身の不調で退職。人に会って話をすることが好きな一方で、日によっては障害の影響で起き上がれないことがある。
障害者枠の雇用では事務や清掃の業務ばかりで人と接する営業の仕事はほぼなかった。また、体調面から朝から週5日の勤務も厳しい。そのため、今は塾講師のアルバイトと障害者年金で暮らしている。
3年前、共に励ましあいながら働いていた統合失調症の兄が自死した。葬儀で20年来の友人にも障害を隠していたことを知った。自身は甲状腺がんを患い、今は生きづらさを抱えた人の「居場所づくり」に奔走している。
「いっぷく」と名付けた公民館で開く交流会には、20~70代の自死遺族や引きこもり状態の人が訪れる。2022(令和4)年9月から10回開催し、延べ100人に会った。
話を聞くたびに、行政の支援にうまくアクセスできない実態や、周囲の理解が進まない状況が見えてきた。例えば50代で引きこもりからやっと抜け出した男性からは、周りのスピードについていけない「申し訳なさ」から半年間で退職してしまった話を聞いたという。
「心療内科や精神科は増えましたが、抵抗感のある人もいる。引きこもっていて病院に行けない人も。兄は障害を周囲に知られることを極度に恐れていました。精神障害は特別じゃないということを伝えたい」(隆史さん)
日野第五小学校は、日野市の障害者差別解消推進条例を受けた福祉教育のパートナー校となっている。「知って、考えて、行動する」をコンセプトにした1年間の学びの成果をスライドにまとめ、2月に隆史さんらを招いて発表した。
日野市社協の宮崎さんは「隆史さんの話を聞くまで、児童のほぼ100%が精神障害を知りませんでした。これまで精神分野では、当事者家族が語る場合が多かった。今回、目に見えない生きづらさを抱えている人の話を直接聞いて、その存在を知った子どもが家族にも共有してほしい。10年後を見据えた時に、社会を変えてくれるのは今の子どもたちです」と話す。
発表会で障害者のヘルパー不足について調べたグループの児童はこう締めくくった。
「障害者にとって介助ヘルパーはよき理解者でもありますが、他人とかかわるのがつらい人にとっては圧迫感を与える場合もあります。毎日ひとりで過ごすのは大変です。協力が必要な時に手を貸す。僕たちが障害者の方に寄り添えば、住みやすい町になると思います」