2023年03月18日 08:41 弁護士ドットコム
「スシロー」や「くら寿司」で客が迷惑動画を拡散する「客テロ」が相次いだ。なぜ回転ずしチェーンが狙われたのか。回転ずし評論家の米川伸生さんは、「効率化を追求し省人化を徹底した店舗が、結果として若者がいたずらをする格好の場になった」と指摘する。米川さんに大手回転ずしチェーン特有の経営課題と、客テロ対策、回転ずし市場の展望を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
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米川さんによると、昔の回転ずし店は郊外が中心で、高校生などの若者だけで利用することは少なかった。それが都心に進出するようになって安く食べられる場所だと知られるようになり、若い客層が増えた。
ファミリーレストランや喫茶チェーンと回転ずし店が違う点は、席や従業員の配置だ。大手回転ずしチェーンは、効率化を追求し、人による監視の目が緩くなった。省人化を加速させたのがコロナ禍だ。運営会社は感染対策として自動精算システムなど入店から退店まで店員と接触しなくてよい「クローズド」な店をつくった。
米川さんは「デジタル化を進めたことで、若者にとって監視の目を逃れやすい『ちゃらい場所』になっていると思います。人の目が届かないことに対策を講じずにゆるく考えていたことが、客テロを招いた一因になったのではないでしょうか」とみる。
これまでにも会計を安く済ませるために皿をテーブルの下に隠すなどのいたずらはあったが、いたずらの矛先が他人の寿司に向いていたことも想定外だったのではないかという。
米川さんが考える客テロを招いたもう1つの要因が、顧客満足度の低下だ。「好きな店には客は敬意を払います。リスペクトは人に対してするものなので、省人化で人がいなくなると顧客満足度が下がってしまう。今回の客テロと無関係ではないように思います」(米川さん)
迷惑行為を防ぐ対策はないのか。人による監視の目を強めれば、客テロ問題は解決するのではと思うが、米川さんは「人を増やすという選択肢は低価格のすしで儲けを出すために人件費をギリギリまで抑えてきた、大手のビジネスモデルそのものが崩れるため、可能性は低い」と言う。
ならば仕組みを変える必要がある。客の迷惑行為を受け、くら寿司は全店舗でAIカメラを使った新システムを導入すると発表した。ただし米川さんは簡易な対策で、様子見の段階ではとみる。
国内外の回転すし店の中には、客席とレーンに完全な仕切りがあり、客は自分の頼んだ寿司しか取り出せない設備を導入している店もある。これぐらい徹底した対策をとることも可能だということだ。
対策を徹底すれば、客数増も見込めるが「数百店舗を展開する大手回転ずしチェーンでは、莫大な費用がかかるため、躊躇しているように見えます」(米川さん)。
値上げも一案だが、軒並み値上げを続けてきた大手はこれ以上の値上げは難しい。そもそも大手回転ずしチェーンは相次ぐ値上げが要因で客離れが深刻だった。「昔は家族4人で5000円出せばお腹いっぱい食べることができましたが、今は7500~8000円ぐらいに上がり、焼肉とほぼ変わらなくなりました」(米川さん)
ところが、くら寿司、スシローともに「客テロ」が起きた後の2月の全店売上高が、前年同月比で増えた。米川さんは「皮肉にも客テロによって客足が上向いた形です。過去の回転ずしの歴史から見ると、一度客足が戻るとブームはしばらく続きます」と説明する。
米川さんは「日本国民の8割がスシローやくら寿司など大手回転ずし店しかないと思っています」と指摘する。
地方に行けば大手とは一線を画した地場の回転ずし店がある。「グルメ回転ずし」と呼ばれる業態の店はレーンの内側で職人がすしを握っている。人がいるため、客はいたずらしようとする心理が働かない。今回の客テロでは大手回転ずしチェーンばかりが目立つ。
客による迷惑行為は収束するのか。一連の迷惑行為では、逮捕者も出た。米川さんは「面白いという承認欲求を満たすことと引き換えに逮捕されたいと思う人はいないでしょう。迷惑客は今後は減っていくと思います」と話す。
回転ずしチェーンの「すし銚子丸」が、「回らない回転ずし」に移行することで話題になっているが、米川さんは今後、大手チェーンでもレーンが回る寿司店、回らない寿司店など、より細分化していくと予想する。
「回転ずしはもともと寿司から派生して、さらに、100円回転ずしとグルメ回転ずしに分かれて、細胞分裂のように発展してきました。これからもその流れが続くのではないでしょうか」
オペレーションの簡略化、省人化を追求した末に若者のいたずらの標的にされてしまった大手回転ずしチェーン。米川さんは「客テロ効果による客数増で喜んでいる企業はないと思います。これから大手がどんな対策を打ち出すのか、人のいない店舗でどう顧客満足度を上げるのか注目しています」と締めくくった。