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子どもの家出や行方不明、警察はどう対応してくれる?

2023年03月18日 08:41  弁護士ドットコム

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未成年の子どもが長期にわたって帰宅しないというトラブルが相次いで報じられました。


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2022年11月には岡山県倉敷市に住む中学3年生の男子が自転車で外出したまま行方がわからなくなっており、4カ月が過ぎた2023年3月現在でもまだ帰宅・発見に至っていません。



2022年12月には静岡県伊豆の国市でも中学3年生の男子が電車に乗ったまま行方がわからなくなり、約1か月後に同市内の施設で発見される事案がありました。



子どもがみずから家出をしたり、なんらかのトラブルに巻き込まれて行方不明になってしまったりしたとき、まず駆け込むのは最寄りの警察署や交番でしょう。家出の届け出を受けた警察はどんな活動で子どもを探してくれるのか、実際のケースではどのくらいの期間で発見されるのかなどに迫っていきます。(元警察官/ライター・鷹橋公宣)



●1日あたり200人以上が行方不明に

Q1.警察では1年間でどのくらいの「家出」の届出を受けているのでしょうか?



みずから自宅を離れて行方をくらませる「家出」を含み、居所がわからなくなった人のことを警察では「行方不明者」と呼んでいます。



国家公安委員会規則である「行方不明者発見活動に関する規則」第2条1項において「生活の本拠を離れ、その行方が明らかでない者」のうち、家族などから行方不明者届が提出された者のことを「行方不明者」と呼ぶと定義されています。



2009年に規則が改正されるまでは「家出人」と呼んでいました。また、現行の行方不明者届も改正前までは「捜索願」と呼んでいたので、今でも警察署の窓口にいくと「家出人の捜索願ですね」と言われることもめずらしくありません。



警察庁が公開している「令和3年における行方不明者の状況」によると、令和3年中に全国の警察が受理した行方不明者の数は7万9218人です。統計のうえでは過去2番目に少ない数字ですが、1日あたり200人以上が行方不明になっているという現実をまず知っておきましょう



●行方不明者「圧倒的に多いのは10代~20代で、全体の約37%」

Q2.行方不明者で多いのはどんな年代ですか? どんな理由で家出をしてしまうのか気になります



令和3年中の行方不明者を年代別にみてみると、多い順に20歳代(1万5714人、19.8%)、10歳代(1万3577人、17.1%)、80歳以上(1万2706人、16.0%)、70歳代(1万242人、12.9%)となります。(「令和3年における行方不明者の状況|警察庁」より)



やはり圧倒的に多いのは10代~20代で、全体の約37%を占めています。事件・事故による行方不明というよりも「家出」という性格のほうが強いかもしれません。



次に多いのが高齢者で、全体の約29%が70歳以上です。



行方不明になった原因・動機は、疾病関係(2万3308人、29・4% ※うち認知症は1万7636人、22.3%)、家庭関係(1万2415人、15.7%)、事業・職業関係(8814人、11.1%)、学業関係(1750人、2.2%)、異性関係(1240人、1.6%)、遊び癖・放浪癖・事件事故など(1万5477人、19.5%)、届出人に思い当たる理由がない(1万5794人、19.9%)となっています。(「令和3年における行方不明者の状況|警察庁」より)



この「原因・動機」の統計は、行方不明者届の提出時点で考えられる理由をピックアップしたものです。



断トツの1位は疾病関係ですが、その大部分が認知症を患っているケースです。



通常、10代~20代の人が認知症のために行方不明になるといった状況はあまり考えられません。すると、若い年代の人が行方不明になる理由は、家庭関係・学業関係の悩みや遊び癖のほか、家族にも心当たりがないといったケースになるでしょう。



子どもが家出してしまったときに「なぜ?」「まったく心当たりがない」といった方も多いのですが、そうすると重大な事件・事故に巻き込まれたのか、それとも自発的な家出なのかの判断が難しくなります。



異変を感じ取るためにも、子どもの趣味・嗜好、行動範囲や交友関係などはできる限り把握しておいたほうがいいでしょう。



●行方不明者の大部分は発見に至っているが……

Q3.年間に8万人弱が行方不明になっている状況というのは驚かされるのですが、警察に届け出れば発見できるものなのでしょうか? どのくらいの人が発見に至っているのか教えてください



警察庁の統計によると、令和3年中に所在を確認できた行方不明者の数は6万5657人でした。



ここでいう「所在確認」とは、警察が発見したケースだけでなく、家族が届け出をしたあとで本人が自発的に帰宅した、あるいは家族が捜索して発見したといったケースも含まれます。前年までに受理した届出もあわせた数字ですが、行方不明者の大部分は発見に至っていると考えていいでしょう。



残念ながら、無事に帰宅することが叶わず死亡が確認されるケースもあります。



令和3年中、警察において死亡が確認された行方不明者は3613人でした。年間の行方不明者数と照らすと決して少なくはない人が亡くなっているので、早期発見は「生命を守る」ことにつながるといえます。



●半数は受理当日に発見されている

Q4.子どもが長期にわたって連絡もなく帰宅しないとなると大変心配になります。警察に届出をすると、どのくらいで発見されるものなのでしょうか?



令和3年中の行方不明者の所在確認にかかった日数は、受理当日(3万3650人、51.2%)、2~7日(2万1097人、32.1%)、8~14日(1966人、2.9%)15日~1カ月(1577人、2.4%)でした。(「令和3年における行方不明者の状況|警察庁」より)



意外に感じるかもしれませんが、なんと51.2%の人が行方不明者届が提出された当日のうちに発見されています。2~7日以内に発見された人は32.1%なので、80%以上が1週間以内に所在が確認されたことになります。



1週間を過ぎてしまうと発見率は大幅に下がるので、早期発見のためには素早い初動が肝心です。



警察の組織力やネットワークがあれば人探しなんて簡単なことのように思えるかもしれませんが、本気で社会生活との関係を絶つ覚悟をもって家出した人を発見するのは簡単ではありません。



信じられない話ですが「家出した未成年でもアパートを契約できる」とうたって集客している不動産会社も存在しているので、生活の拠点・仕事・お金などの問題が解決してしまう前に発見しなければ手遅れになってしまいます。



●一般的な家出と「特異行方不明者」の違いとは

Q5.実際に子どもが家出をしてしまい警察に届出をした人のなかには、警察の対応に不満をもつ方も多いようです。警察は本気で探してくれるのでしょうか?



警察による行方不明者の捜索活動は、多くの方がイメージするようなものとは少し違います。



大量の警察官が街中に出てくまなく探すのではなく、街頭での職務質問や交通取り締まり、一般からの情報提供など、日ごろからの警察活動を通じて発見に努めるのが基本です。こういった事情から「警察は届出を受理するだけで何もしてくれない」といった不満を感じる方が多いのでしょう。



ただし「特異行方不明者」と判断された場合は、扱いが異なります。特異行方不明者とは、事件や事故に巻き込まれている可能性が高い、生命・身体に危険が生じているかもしれないといった状況が予想される行方不明者のことです。



たとえば、自力では帰宅できない幼い子ども、わいせつ犯罪や福祉犯罪などの被害が考えられる中高生などが家出をした場合は、特異行方不明者として扱われる可能性が高いでしょう。



特異行方不明者の捜索では、休暇中の署員も呼び出しての全署員体制などで捜索活動を実施します。通信会社の協力が得られるケースでは、スマホが生きていれば現在地や最終的に電波を受信した位置が特定できることも多いので、早期発見の可能性が高まるでしょう。



とはいえ、特異行方不明者として扱われるかどうかは、警察の判断任せです。届出人の判断で「特異行方不明者として受理してほしい」というわけにはいきません。家族としては「ウチの子を一生懸命さがしてほしい」と求める気持ちは当然ですが、残念ながら警察がかならず積極的に捜索するのかといえば期待外れになるケースも多いでしょう。



では、特異行方不明者として受理されなかった場合は捜索しないのかといえば、それも間違いです。生活安全課の少年担当者は、発見につながる情報を得るためにさまざまな関係機関に照会したり、地域の少年グループなどを通じて情報を集めたりもしています。



実際に、少年担当者が懇意にしている不良少年から「実は、アイツの居場所を知ってるんだ」と情報提供を受けて発見に至ったというケースもありました。大々的に捜索活動をしていなくても、目に見えにくい活動を通じて捜索を続けていることは知っておいてください。



●家出した少年少女は処分される?

Q6.警察が家出した子どもを発見した場合、ちゃんと家に帰してくれるんですよね?



自給能力がない、つまり自分で生活する能力がない未成年者であれば、警察署へと連れていき家族に引き渡すのが基本です。



さまざまな想いから家出に至った子どもだと、本人は「就職先をみつけて自立する」と言い張るかもしれませんが、中高生などの年代では親権者の同意がなければ住む場所さえも確保できないのだから本人の意思とは関係なく帰宅させる流れになるでしょう。



ただし、成人の場合は本人の意思を尊重して帰さないこともあります。もちろん、本人には「家族が心配しているし、せめて居場所や連絡先には教えてあげて」と水を向けますが、強制力はありません。



この場合、家族には「警察側で所在は確認できたが、本人が帰宅を拒んだ」と無事だけを伝えて行方不明者としての捜索や手配は打ち切られます。



冷たい対応のように感じられるかもしれませんが、家出をした成人のなかには、家庭内暴力などに苦しんで自宅を飛び出したといった方も存在するので、届出人だけを優先するわけにはいかないという事情もあることを理解しておいてください。



●警察への届出を急いだ方がいい理由

Q7.とくに事件や事故に巻き込まれたわけではなく、自分の意思で長期にわたる家出をした場合、少年自身になにかペナルティはあるのでしょうか?



少年・成人を問わず、行方不明になったことへのペナルティはありません。



行方不明の届出を受けると全国から照会できる警察のデータベースに登録されますが、所在確認によって解除されます。まれに解除漏れもありますが、事情を説明して現在は行方不明ではないことの説明がつけば問題にはなりません。



当然、前科や前歴にもならないので進学や就職への影響はありませんが、一番の問題は「ネット上に情報が残ってしまうこと」でしょう。



大々的に報道された場合はネット上に名前が残ってしまうし、家族や友人などが心配してSNSで情報提供を呼びかけていると後で収拾できないほどに拡散してしまうこともあります。



個人の経歴や素行を調べるうえでネットの情報を活用している企業も多いので、将来に影響を与えるリスクが存在することは否定できません。



このように説明すると「子どもの将来を守るために大規模な手配は控えたい」と考える人がでてくるかもしれませんが、早期発見に至らなければ発見率が大きく下がるのは事実です。 初動が遅れると生命に危険が及んだり、犯罪や事故に巻き込まれたりするリスクが高まります。



警察庁の発表によると、2021年中にSNSを通じて犯罪被害に遭った18歳未満の子どもは1732人に上ったそうです。うち、家出した少女を自宅に住まわせたなど略取誘拐の被害に遭ったのが80人、強制性交等や強制わいせつの被害に遭ったのは75人でした。



2023年2月には、SNSで知り合った小学生女児を「家で遊ぼう」と誘い出し、自宅マンションに連れ込んだ男が未成年者誘拐の容疑で逮捕されています。同年3月にも、SNSを通じて知り合った当時10代の未成年者に「食費や光熱費は払わなくていい」ともちかけて3年にわたり自宅に住まわせた男が、同じく未成年者誘拐の容疑で逮捕されました。



早期に発見しなければ、親切な人を装った大人によって社会生活から隔離されてしまい、何年も行方がわからなくなってしまうかもしれません。「大きく構えて小さくまとまる」のがベストなので、子どもの無事が最優先だと認識して警察への届け出を急ぎましょう。



【プロフィール】 鷹橋公宣(ライター):元警察官。1978年、広島県生まれ。2006年、大分県警察官を拝命し、在職中は刑事として主に詐欺・横領・選挙・贈収賄などの知能犯事件の捜査に従事。退職後はWebライターとして法律事務所のコンテンツ執筆のほか、詐欺被害者を救済するサイトのアドバイザーなども務めている。