WEC世界耐久選手権の第1戦は3月16日、予選日を終えた。フリープラクティスまで首位を譲らなかったトヨタGR010ハイブリッドの牙城を崩したのは、今季新登場のフェラーリ499P。新時代の始まりの予想外の逆転劇に、耐久レース界に衝撃が走った。
そんなセブリングの予選日のパドックから、各種トピックスをお届けしよう。
■「フェラーリが何かを持っていることは知っていた」
50号車フェラーリ499Pをドライブしたアントニオ・フォコが最速となったことで、AFコルセはWECのトップ・プロトタイプカテゴリー、LMP2、LMGTEプロ、LMGTEアマのすべてのクラスでポールポジションを獲得した、初めてのチームとなった。
フォコは1分45秒067という、セブリングでのハイパーカーのコースレコードを樹立。すでに昨年のタイムはフリープラクティス2でトヨタの小林可夢偉が破っていたが、フェラーリは予選で今週のペストラップを1.7秒更新した。
フェラーリのポールポジション獲得にトヨタは驚いたか、という質問に対し、トヨタGAZOO RacingのWECチームでテクニカル・ディレクターを務めるパスカル・バセロンは「イエスでもあり、ノーでもある。フェラーリの仲間たちが、何かを持っていることは知っていた」と答えている。
■FP3でスピンのロペス「バンプにぶつかった」
トヨタのホセ・マリア・ロペスはフリープラクティス3の終盤、ターン17でクラッシュする前に「何の予兆もなかった」と語っている。
ロペスはドライバー交代後、2周目にスピンを喫したが、タイヤが冷えていたことが根本原因であることを否定している。
「(タイヤの温度が)少し低かったのかもしれないが、それが100パーセントの原因だとは思っていない。責任は僕にあり、走っていたラインと、ブレーキング時にぶつかった路面のバンプのせいだ」
■2023年は予選が“激化”する?
2022年の多くのレースと同様に、LMGTEアマクラスのポールポジション争いはサラ・ボビーとベン・キーティングの間で繰り広げられた。
最終的にこの争いを制してポールを獲得したボビーは、今後のラウンドでは他のライバルたちもこの予選での争いに加わってくるものと見ている。
「今年最初の予選であり、コールドタイヤでの(タイヤウォーマーが禁止となったことで、冷えたタイヤでピットアウトする)最初の予選だった。あの接戦に、他のドライバーが参戦してくる可能性は充分にあると思う」
彼女は、2021年のル・マン24時間レースでのジュリアン・アンドラウアー以来となるGTEアマのポールをポルシェにもたらし、ポールから遠ざかっていた8回の予選セッションに終止符を打った。
LMP2のポールシッターであるオリバー・ジャービスは、2017年のニュルブルクリンクでのラウンド以来、WECのクラスポールを獲得した。またこれは、ユナイテッド・オートスポーツにとって8回目のWECのポールとなった。
ジャービスは、1分50秒の壁を破った唯一のLMP2ドライバーとなったことに驚いたという。
「信じられないようなラップだったとは言えない。でも、これがセブリングなんだ。完璧なラップを取るのはとても難しいんだ」
■ヴァンウォールに電子制御のトラブル
ハイパーカークラスの4号車ヴァンウォール・バンダーベル680は、FP3で電子制御ユニットのトラブルに見舞われ、ピットを出た直後に停止した。
予選ではトム・ディルマンがアタックし、ポールから4.2秒差の11番手となった。ディルマンは「予選はフリープラクティスのようなものだった」と語っている。
「セッションごとにセットアップを追いかけていたんだ。(レースで)フィニッシュすることは、良いリザルトとなるだろう。僕らはこれまで、2時間以上の(連続した)テストはしていないんだ」
■予選でピットインした理由
チップ・ガナッシ・レーシング(エントリー名はキャデラック・レーシング)のチームマネージャーであるスティーブン・ミタスは、今週は2号車キャデラックVシリーズ.Rの戦略担当を兼ねている。ミタスは、リードエンジニアのカルロ・フェルミューレン、パフォーマンスエンジニアのカルロ・ミアノ、クルーチーフのデイン・ビームスレーと協力しているという。
CGRは、セブリングのダブルヘッダーイベントのために、WECハイパーカーとIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTPのクルーは別々にしている。
その2号車をドライブするアレックス・リンは、珍しく予選開始時にピットインし、その後5番手のラップタイムを記録した。ミタスは、「彼に少し感触をつかんでもらい、予選アタックに向けてタイヤを交換し、(削るべきタイム)ギャップを見つけ、ベストを尽くしたかったんだ」と語り、CGRチームはそのパフォーマンスに「満足」していると述べた。
■ポルシェ(JOTA)はHertzですが……シリーズ“公式”はAVIS
WECは木曜日、レンタカー会社のエイビス(AVIS)と合意し、選手権の公式車両レンタルサービス・プレミアムパートナーとなったことを発表した。
エイビスの電気自動車レンタルは、WECやチーム関係者だけでなく、「ファンが各イベントに持続的に移動するためのオプション」としてプロモートされる予定だ。
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今年のWECには、新たに3つの国籍の選手が参戦している。リヒテンシュタインのマティアス・カイザー(ベクター・スポーツ10号車)、オマーンのアーマド・アル・ハーティ(ORT・バイ・TF25号車)、ルーマニアのフィリップ・ウグラン(プレマ・レーシング9号車)は、いずれもフルシーズン・デビューを迎えた。
セブリングのWECのパドックにある仮設チームオフィスの上には、グリッドに名を連ねる各国の国旗が掲げられている。
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オリビエ・プラとクリスチャン・リードのふたりだけが、2012年、2019年、2022年、2023年のWECセブリング4戦すべてに参加している。
ケビン・エストーレもすべてに参加しているが、2012年のレースへの参加は、アメリカン・ル・マン・シリーズのフィールドのメンバーとしてだった。