Text by 坂口愛弥(玉村敬太写真事務所)
Text by 生田綾
Text by 清藤千秋
「失われた20年」という言葉は、いつの間にか「失われた30年」になった。いまを生きる若者にとっては、社会はいまよりもより良く、豊かになるという希望が見えない状態は当たり前。
昨年11月に20歳という節目を迎えたYouTuberとうあはこう語る。
「YouTubeで寄せられるみんなの悩みを見ると、すごく漠然としている。何に悩んでいるのかわかんないけど、すごく不安という人が多い。私もその感覚はわかるんですよ」
2023年、成人を迎える18~20歳の若者のうち、「自分の未来について、不安に感じている」と答えたのは82.8%にものぼることが、「coeプロジェクト」(※)の調査で明らかになった。
この不安を未来への希望に変えるにはどうしたらいいのか? 10代から絶大な支持を得るとうあ、高校生のアクティビスト・コモモがゲストとして出演し、SIGNINGのプランナー・伊藤幹とCINRA編集長の生田綾がモデレーターを務めたトークイベントが開催された。
「coeプロジェクト」が今年1月に発表した『Silent Minority Report #2~不安と期待が入り交じる、新成人のフューチャーコンプレックスな未来観~』からは、大人以上にさまざまな不安を抱えて悩む10代の姿が浮き彫りになった。
2002年4月2日~2005年4月1日生まれの新成人600人を対象にした調査レポート『Silent Minority Report #2 ~不安と期待が入り交じる、新成人のフューチャーコンプレックスな未来観~』より
若者の悩みで最も多かったのが、「お金」にまつわること。「仕事につけるかどうか」「日本ではあまり稼げなくなるのではないか」という言葉が並ぶ。そして次に多い「仕事」の悩みに関しては、「仕事がほとんど AI に置き換わっていて就職することができるか不安」と、やや誇張された表現ながらも等身大の悩みが伝わってくる。
レポートを見たとうあは、日々触れるYouTubeのコメントなども参考にしながら補足した。
「このレポートのAIのところもそうですが、いま、日本が良い方向にも悪い方向にも大きく変わっているような気がしていて、その変化に自分がついていけるのか、といった悩みは多いように思います。いろんな知識や経験談がネットにはあふれているけど、何を、誰を信じればいいのか、逆に何を信じちゃいけないのかがわからない、という状況」
また、コモモは上の世代とのギャップも指摘した。
「Z世代の世界観や空気感と、政治の場などで権力を持っている人たちの空気感のギャップはすごく感じます。とうあさんのように、自分のやりたいことを突き詰め、表現しているインフルエンサーがたくさんいる一方で、首相が同性婚で『社会が変わってしまう』と発言するなど、政治家が変化を恐れているように見えるのが残念です」
とうあは、自身のエッセイ『生まれ変わっても自分でいたいって思うために生きてる』(KADOKAWA)で、「社会に対して理想や期待はない。むしろ私が社会を変えてやる!」という力強い言葉を記している。
「大人に対して期待しすぎない、社会には何も期待していない、という若者がこれからどんどん増えていくと思うんです。いま、若者は若者、大人は大人、っていう感じですごく壁があるように感じるので、そこをなくして、互いにコミュニケーションを取って一緒に未来をつくっていくのが理想のはず。若い世代が、大人に話を聞いてもらえたら、不安は少しは小さくなると思うんですよ」
メイク、音楽など幅広い領域で積極的に発信しているとうあは、自信満々に見えるが、意外にも他者の存在の大切さも強調する。
「高校2年生くらいの時、やりたいことはたくさんあるんだけど、考えすぎてすごく悩んでしまった時期があったんです。それで自分のことをすごく嫌いになってしまって、一週間くらい学校に通えなくなったことがありました。
そのとき、学校にアート写真を撮ったりミュージックビデオをつくったり、クリエイティブなことに挑戦している先輩がいたのですが、その人に相談してみようと思ったんです。なんの面識もなかったけど、話を聞きたい、と直感的に思って」
人に喋るだけでも心がスッキリして、自分の考えが整理されたのを実感したそう。いまもとうあは、ファンが寄せる本や曲の感想にも目を通し、発見があった部分は積極的に取り入れる。
「第三者が自分を見てどう思うのか、ということは、意識しすぎずに意識しながら自分を貫く、という感じ。自分は曲げないし、曲げたくないんだけど、正反対の方向にはいかないようにするというか。難しいけど、そのバランスを大事にしていますね」
自分一人で悩まず、人に聞く、というアクションを起こした当時高校2年生のとうあの姿から、学ぶことは多い。
SIGNINGの伊藤もレポートを紹介するなかで、不安な状態ではあるものの、行動に起こしたことでポジティブな感情が生まれた、というデータに注目した。
『Silent Minority Report #2 ~不安と期待が入り交じる、新成人のフューチャーコンプレックスな未来観~』より
「不安はマイナスな感情だけでなく、未来への興味・関心とも言えるのではないか」と伊藤は指摘する。
不安をポジティブな感情に転化していくために、とうあはどんなことに気をつけているのだろうか?
「いまの子って、『あの人可愛い』とか、『あの人すごい細い』とか、人と比べて悩んでいる子がすごく多いんですよね。そうじゃなくて、過去の自分と比べて、例えば、1年前の自分よりも肌が綺麗になったな、とか、こういうことが変わったな、という小さな発見を積み重ねていくことが大事なんじゃないかと思う」
コモモは、10代向けに整形をすすめる電車広告を例に挙げながら、「理想の可愛さ、みたいなものが社会でどんどんつくられて、企業がそれに乗っかってマーケティングして発信してくる。本来自分が持っている素敵な部分が、どんどん潰されちゃっているような感覚がすごくある」と溢した。
社会から押し付けられるイメージと自分を照らし合わせてしまい、どうしても不安を掻き立てられる、という人は多いのではないか。大人ですらそうなのだから、まだ自らの価値観を育てている途中の若い世代なら尚更のこと。とうあは、「自分を知ることがすごく大事」と強調する。
「私は朝起きてメイクして、遊びに行って、夜帰ってきたらメイクを落として、もう1回別のメイクをして研究するんです。そうやって磨いてきたことが自信につながります。人の真似をするのは大切だし、周囲を観察して、映画を見たり、音楽を聴いたり、いいものをインプットしにいく姿勢ももちろん大事ですが、それをいかに自分のものにできるかというのが大事だと思う」
悩みの尽きない世界のなかで、自分らしさを損なわれずにどう生きていけばいいか。多くの若者が直面している不安に対して、とうあの姿は一つの道筋を提示している。最後、自分の同年代の若者に向けたメッセージが印象的だった。
「不安なことはたくさんあると思うんですけど、考えすぎず、考える、ということを私は大切にしています。考えすぎるのはダメだけど、考えないのもダメっていうマインド。それくらいの気楽な感じで、いまを楽しんで生きていこうよ、って」