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『ブルーロック』大切な人への“愛憎”で覚醒する選手たち 御影玲王&糸師凛の「自分だけを見てほしい」という“エゴ“を考察

2023年03月14日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『ブルーロック』8巻

※本稿は『ブルーロック』のネタバレを含みます。


 アニメ版が好評を博し、サッカーワールドカップでの日本代表の活躍も追い風になり、人気を拡大し続けている漫画『ブルーロック』。主人公の潔 世一をはじめとした個性的な選手たちが「自分がゴールを決める」というエゴを追求し、世界一のフォワードを目指す姿が描かれているが、成長のきっかけはさまざまだ。とりわけ、読者も感情移入しやすい人間関係と“愛憎”が覚醒の鍵になり、躍動するキャラクターもいる。今回は愛憎によって飛躍した選手について考えたい。


(参考:【写真】絵心甚八の再現度が高すぎ? 舞台『ブルーロック』の絶妙なキャスティング


■一人相撲の愛憎劇


 まずは「『玲王が必要だ』と凪に言わせてやる」「凪を蹴落として俺と同じ気持ちを味あわせてやるっていうのもアリかもな」など、タッグを組む凪誠士郎への愛憎たっぷりな言葉が尽きない、御影玲王。そもそも、怜王は同じ高校の凪を誘い、「2人でワールドカップを優勝しよう」という目標を掲げてサッカー部を創設した。そして、2人でブルーロックにやってきて、一次選考では圧倒的な能力の高さを見せるが、潔率いるチームZに足元をすくわれている。


 サッカー人生初の挫折を経験した凪は向上心が芽生え、怜王を捨てる形で潔とチームを組む。当然、この決断に怜王は激怒。恐らく“凪の一番の理解者”を自認しており、「かなりの面倒くさがり屋な凪を周囲が受け入れない」と高をくくっていたのかもしれない。だからなのか、凪の予想外の行動を潔が受け入れたことは青天の霹靂だったことだろう。怜王は取り乱すことなく「…好きにしろよ」と素っ気ない返事をしたが、愛情ゆえに「みっともない姿を見せたくない」というプライドがそうさせたのかもしれない。


 二次選考で潔たちに負けた後、凪は怜王の獲得を打診したり、怜王に称賛の言葉を送ったりと、怜王への気持ちが冷めていない様子を見せる。しかし一方の怜王はつっけんどんな態度をとってしまう。その言動に凪は「面倒臭いよ怜王」とぼそり。完全に興味を失われてしまい、怜王は顔面蒼白だ。失恋した時のような悲壮感しかないこの表情は、『ブルーロック』の名シーンの一つと言って良いだろう。


 その後、士道という天才に“拾われる”という運を味方につけ、なんとか二次選考を抜けて三次選考に望む玲王。その際には、「凪の隣にいる」のに相応しい選手を目指し、自身の器用さを最大限に生かしたプレイスタイルを体得するのだった。


 凪に捨てられ、見限られ、それでも凪と一緒にプレイしたいという思いから、覚醒を遂げた怜王。自身の重すぎる愛に勝手に振り回されている印象ではあるが、一人相撲しながらも成長する姿は他のキャラクターにない、面白い物語だ。


■歪んだ兄弟愛


 続いて、潔の最大のライバルといえる糸師凛。サッカー選手としてのパラメーターが全てハイクラスな凛は、日本サッカー界の希望である兄・冴を潰すために日々自己研鑽に努めている。


 というのも、幼少期から卓越したサッカーセンスを持つ冴を尊敬し、「兄ちゃんは世界一優しい」と慕うほど大好きな存在だった。「世界一のストライカー」を目指す兄の背中を負い、「世界二位のストライカーなって2人でワールドカップを優勝する」という夢を叶えるべく自身も成長するなか、冴はスペインリーグのトップクラブの下部組織でプレイすることに。しかし、4年後に冴が帰国した時、世界のレベルの高さを痛感して、世界一のストライカーではなく世界一のミッドフィルダーを目指すことにしたと告げられる。世界一のストライカーの弟になりたかった凛は、その決断を許せず激怒。「サッカーする理由が…俺には無いよ…」とまで口にするが、冴は「クッソ反吐が出るぜ」「もう二度と俺を理由にサッカーなんかすんじゃねぇよ」と吐き捨てた。


 言葉は強烈だが、凛の自立を促す言葉にも感じる。しかし凛は、自身について「兄ちゃんにとって俺は世界一になるために必要だっただけの練習相手」と考え、楽しかった兄の思い出をなかったことにされたような感覚に陥ってしまう。終いには自分の人生を狂わせた(と思い込んでいる)冴をぐちゃぐちゃにするためにサッカーをしている。


 冴からすれば、たまったものではないが、この“ぐちゃぐちゃにしたい欲”が爆発。U-20日本代表戦ではその矛先を自分自身に向け、敵を“醜く壊すサッカー”を披露する。冴と対峙した時には「まだその表情できんじゃねぇえか」と評価されていた。


 凛の覚醒もあってブルーロックチームは勝利をおさめ、試合終了後には冴から「日本にはロクなストライカーなんて生まれないと思ってた」と声をかけられる。これに凛は目をキラキラさせながら「兄ちゃ…」とかつての呼び方を仕様とするが、「お前の本能を呼び起こし日本のサッカーを変えるのは潔世一」「あのエゴイストなのかもしれない」とぼそり。自分の名前が呼ばれると思ってドキドキしていたものの、まさかのライバル視していた潔への言及だったこともあり、頬に血管が浮き出るほどの絶望を浮かべる凛。潔に話しかけられると、「死ねよ潔…」「もうお前だけは許さねぇから…」と言い放つ。冴への想いだけでブルーロック内ナンバー1のプレイヤーだったことを鑑みると、潔という敵役ができたことで、さらに飛躍しそうだ。


 特定の人物に「認めさせたい」「自分だけを見てほしい」と願うのも、「自分が点を取る」というエゴに通じるものだろう。ある意味で身勝手ゆえのパワーが彼らをどう成長させるのか、期待して見守りたい。


(望月悠木)