2023年03月14日 12:31 弁護士ドットコム
殺人もいとわない強盗・詐欺集団が高齢者を狙っているー。そんな現実を突きつけられた東京・狛江市の事件の指示役「ルフィ」逮捕の記憶も新しいなか、特殊詐欺の前兆とみられる電話(アポ電)は変わらず続いている。
【関連記事:マイホーム購入も「道路族」に悩まされ…「自宅前で遊ぶことのなにが悪いの?」】
2023年3月3日、埼玉県北西部・東松山市の高齢夫婦・Aさんの自宅に「東松山署生活安全課のキノシタ」を名乗る男から電話があった。妻は朝から市内のデイサービスへ、80代後半の夫が一人で在宅していた。
「逮捕した銀行員の持ち物から、Aさんの銀行キャッシュカードが出てきました。止める必要があるので、暗証番号の確認をさせてください」
大変だ!焦った夫は、妻に番号を聞こうとデイサービスに電話した。「妻を出してくれ。大事な話がある」
電話口で応対した栗林清稲さん(44歳)は施設長歴13年。高齢者の特性を知り尽くしたからこそ機転を回して、彼らを救った。
3日午前10時半ごろ、夫から電話を受けた栗林さんはすぐに詐欺だと気づいたものの、はっきり伝えずにいったん「じゃあ、奥さんに聞いてきますね」と引き取った。
「お年寄りに対して否定しちゃダメなんです。警察なんて嘘ですよとすぐ打ち消してしまうと反動で意固地になるか、何も話してくれなくなる。敬意を持って接することが必要です」
いったん電話を切った後の初動は早かった。東松山警察署に連絡、自身はAさん宅に急行し、警察が到着するまでの十数分間、呆然としているAさんの話を静かに聞いた。カードを取りに来る犯罪集団の「受け子」と鉢合わせる可能性もよぎった。しかし怖くはなかった。
「会ったら取っ捕まえるつもりでした」
栗林さんは元競泳の選手で、バタフライ200メートルで国体2連覇している。肩幅が広く、がっちりしていて、五輪代表まであと一歩の猛者だったのだ。ほどなく、警察が到着し、詐欺被害は未然に防がれた。
平日の昼間という高齢者にとって無防備な一瞬のすきを、詐欺集団は見逃さない。Aさん夫婦は2人暮らし。離れて住む息子は仕事中で、すぐには連絡はつかなかった。
栗林さんは3月13日、デイサービスを運営する社会福祉法人ルロワ(片石有一理事長)の事務所で、東松山警察署長から感謝状を受け取った。
「家族が緊急対応できない少しの間に、大きな事態になるかもしれない。片石理事長の方針で、介護する家族の手助けも私たちの仕事の一つと考えています。第三者だからこそ、できることがあるはずです」
いまも全国で、特殊詐欺集団はうごめいている。警察は▽留守電にすること▽知らない番号や非通知からの電話に出ないこと▽施錠の徹底ーを呼びかける。