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兄弟だけどかなり違う! 「ベルランゴ」と「リフター」のロングボディを比較

2023年03月14日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
シトロエンの「ベルランゴ」とプジョーの「リフター」は同じステランティスグループに属するMPV(マルチパーパスビークル)であり、「兄弟車」とひとまとめにされることも多いのだが、実際のところどのくらい違うのだろうか。双方のロングボディバージョンを乗り比べてみた。


○外見は個性派と正統派



ルノー「カングー」の新型モデルが上陸したこともあり、にわかに活気づくフレンチMPVの世界。春の行楽シーズンを前に、新車の購入を検討されている方も多いと思われるが、「ベルランゴ ロング」と「リフター ロング」は多人数で乗れて荷物もたくさん積める使い勝手のいいクルマだ。いってしまえば同じクルマをシトロエンとプジョーが仕立て分けた感じの2台なのだが、違いはどのあたりなのか。



比べたのは、ベルランゴがディープブルーの「シャイン」グレードで、リフターはこちらもディープブルーの「GT」グレード。ボディサイズ(全長×全幅×全高、ホイールベース)は前者が4,770mm×1,850mm×1,870mm、2,975mm、後者が4,760mm×1,850mm×1,900mm、2,975mm。全長や車高がわずかに異なるのは、バンパー形状の違いや採用しているタイヤサイズなどによるものだ。


エクステリアでいえば、まず顔つきが大きく異なる。



ベルランゴは70年前にデビューしたシトロエンのキャブオーバー型商用車「H(アッシュ)バン」をモチーフにしたような愛嬌のある表情が特徴。大きなダブルシェブロン(シトロエンのエンブレム)型グリルの下側左右に楕円に近い形状のヘッドライトを配し、その形を反復するような白い枠内に小型のフォグランプを備えている。国産ミニバンによくあるオラオラ系とは完全に別路線のおしゃれな顔で、見ていると思わず笑顔になってしまう個性的な表情だ。


一方、「ブルーライオン」をグリルセンターに掲げるリフターはベルランゴに比べるとおとなし目で、いわゆる自動車らしい正統派の顔つきともいえる。最近のプジョーといえばヘッドライト外側から下に向かって大きく伸びる「セイバー」と呼ばれるデイタイムランニングライトがアイコンになっているけれども、リフターのそれはヘッドライト内の中央に短めに配置されているだけ。個性爆発の兄弟に対して、まるで真逆の魅力で対抗しようとしているようだ。


Aピラーをブラックアウトしているのはベルランゴだけで、逆にフェンダーアーチモールを樹脂ブラックで覆っているのはリフターだけ。サイドのモール形状やリアライト内のデザインにも違いがある。2台ともルーフレールを備えているが、ベルランゴは先端が前方に飛び出た形状であるのに対し、リフターは根本から滑らかに伸びるタイプだ。車名のエンブレムはベルランゴがリアドアの右側、リフターが左側に装着。リフターの右側には「GT」のバッヂが取り付けられている。


○内装はどう違う?



インテリアで個性を発揮しているのはリフターの方だ。こちらはプジョーお得意の「i-Cockpit」を採用していて、上下が平らな小径ステアリングの上側からコックピットメーターを見るスタイル。「208」などの背の低いモデルに乗ったときにはなんとなく違和感が拭えなかったけれども、リフターのように背が高くて見下ろすような形のコックピットに座ると、これはこれで自然な感じでなかなかいいのだ。こうしたスタイルは最近だとトヨタ自動車の「bZ4X」や「プリウス」にも採用されている。今後はポピュラーになるかもしれない。


ベルランゴは2眼メーターが丸型ステアリングの奥に収まる通常のレイアウト。左から針式のタコメーター、燃料計、水温計、スピードメーター、中央に液晶モニターというメーター内の配置は同じで、字体のおしゃれ度はベルランゴ、数値の読み取りやすさはリフターという印象だ。ベルランゴのメーター裏側には、スマホなどちょっとした物を放り込める収納ボックスがある。

ダッシュボード左右のカップホルダーは2台とも同じで、直径が細くて使いづらそう。ドライバーズシートの天井にある収納部も同じ形状になっている。


シートの仕立ては、ブラックとグレーに明るい差し色を入れてカジュアルな雰囲気のベルランゴに対して、ブラウン2トーンのファブリックでシックなのがリフター。2-3-2の3列シートの配置や折りたたみのやり方は同じだ。


3列目を取り外して2列目シートを折りたたんだ時の最大荷室容量は2,693リッターで変わらず。開ければ屋根代わりになるほどの大きなバックドアに、小さな荷物の取り出しに便利なガラスハッチを備えているところも同じ構造だ。ドアといえば、電動ではなく手動式しかないスライドドアの重さだったり、ロングになったことで車内の空気の体積が増え、フロントドアを閉める際に半ドアになりやすくなったりしているところも両車共通の特徴である。


○走ってみると足が違った!



最高出力130PS/3,750rpm、最大トルク300Nm/1,750rpmを発生するコモンレール式1.5L直列4気筒ディーゼルターボエンジンに8速ATを組み合わせて前輪を駆動するパワートレインは共通。車重はベルランゴの1,660kg(上位モデルは1,680kg)に対してリフターは1,700kgとわずかに重い。



センターコンソールにある丸いダイヤル式シフトセレクターは同じ形で、その下にあるボタンで「M」モードを選び、ステアリングの大型パドルシフト(形状はわずかに異なる)でシフトしてやれば、大きなボディにも関わらず2台ともけっこう活発に走ってくれる。違うのは、リフターにはドライブセレクターの左上に「アドバンスドグリップコントロール」と呼ばれる走行モードダイヤルが備わっていて、「ノーマル」のほか「スノー」「マッド」「サンド」など異なる路面状況に対応する5つのモード選択が行える点だ。


タイヤサイズは205/60R16(上級モデルは205/55R17)で柔らかな乗り味を示すベルランゴに対して、リフターは一回り大きな215/60R17で骨太な印象を伝えてくる。車高が30mm高いのはこのタイヤのせいだが、それに応じてサスペンションのセッティングを変えている感じで、ステランティスジャパン広報によれば「品番が違っています」とのこと。リフターはSUV的要素を取り込むことで、よりハードな走行シーンにもしっかりと対応できる能力を身につけたようだ。


丸型ステアリングでいつもと同じようにのんびりとドライブできるベルランゴに対して、小径ステアリングによるクイックな走りが楽しめるのがリフター。高速に乗って制限速度で巡航を始めれば、8速1,700回転ほどで粛々と、かつ矢のように直進してくれるのはどちらも同じで、フランス車らしい美点だ。信号待ちなどで停車する場面で顔をだす、ちょっとギクシャクするアイシン製8速ATのクセはどちらにもある。まあ気にするほど大袈裟なモノでもないけれど。



ベルランゴロングが443.3万円(シャイン)と455.4万円(シャインXTRパック)、リフターロングが455万円で、価格面での差はほとんどない。でも、乗り比べてみると違うところはけっこうあった。さあ、悩もう!



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)