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ゼロからわかる「新NISA」 来年からスタート、何がお得?

2023年03月13日 09:51  弁護士ドットコム

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令和5年度税制改正大綱でNISAが恒久化されることが決まりました。それと同時に「一般NISA」と「つみたてNISA」の併用が可能になり、投資枠の拡大なども行われることになりました。


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NISAは元々、投資促進のためのもので、時限的なものとして導入されましたが、更新されて、ずっと今まで継続してきたという経緯があります。それがようやく今回の改正で恒久化したわけです。税制改正大綱発表前は、「つみたてNISAだけが残るのではないか」との見方が多かったのですが、蓋を開けてみると「一般NISA」も残る形となりました。



来年から新しくなるNISAですが、「興味はあるけど複雑でよくわからない」という声もよく聞きます。そこで、今回は、NISAの概要を説明しつつ、改正の内容やNISAのメリットやデメリットについて解説します。(ライター・岩下爽)



●NISAとは?

NISAは、イギリスの個人貯蓄口座である「ISA」を参考に作られました。ISAとは、「Individual Savings Account」の頭文字をとったもので、日本版ISAということで、「Nippon Individual Savings Account」の頭文字をとり「NISA」と呼ばれています。



NISAがはじめて導入されたのは2014年1月で、2016年4月から「ジュニアNISA」、2018年1月から「つみたてNISA」がはじまりました。当初のNISAは、「ジュニアNISA」と「つみたてNISA」ができたことで、区別しやすいよう「一般NISA」と呼ばれるようになりました。



NISA取引を行うためには、証券会社などでNISA口座を開設し、その口座で取引を行う必要があります。NISA口座を開設していても一般口座で取引をした場合には課税されますので注意が必要です。各NISAの概要は次のとおりです。



(1)一般NISA



一般NISAは、上場株式、ETF、公募株式投信、REITなどの取引をした場合、年間120万円までの取引で得た利益について非課税とするものです。たとえば、株式を50万円で買って、60万円になった段階売却した場合、通常であれば、差額の10万円に対し20%(復興特別税を除く)の税金が取られ、手取りは8万円になりますが、NISA口座での取引であれば課税されず10万円全額を受け取ることができます。なお、非課税期間は5年間なので、非課税のメリットを受けるためには5年以内に取引を終わらせる必要があります。



(2)つみたてNISA



つみたてNISAは、少額での長期投資を促すために導入されたものです。公募株式投資信託やETFに限定されており、比較的リスクが少ない投資商品で運用されます。非課税投資枠は40万円と一般NISAに比べると少ないですが、非課税期間が20年と長いので、長期保有をすることができます。



(3)ジュニアNISA



ジュニアNISAは、日本に住んでいる未成年者(口座を開設する年の1月1日現在で0歳~17歳の者)が利用できるものです。非課税投資枠は80万円ですが、しくみは一般NISAとほぼ同じです。子どもの教育資金などを投資で準備するためにできたものですが、実質的には親が運用することになるので、非課税投資枠を拡大する以外にメリットはなく、2023年で廃止されることが決まっています。



●2024年からスタートする新NISAの内容

新NISAでは、「ジュニアNISA」が廃止され、「一般NISA」と「つみたてNISA」の非課税期間が無期限になります。また、これまでは、「一般NISA」と「つみたてNISA」の併用はできず、どちらかを選ぶ必要がありましたが、新NISAでは、併用することができます



年間投資額は、一般NISAが「120万円」から「240万円」に増額され、つみたてNISAも「40万円」から「120万円」に増額されます。非課税投資期間は無期限ですが、トータルで1,800万円(「一般NISA」の部分については、その内数として1,200万円)の最大非課税投資枠が設定されています。ただ、この1800万円は、投資枠にすぎないので、たとえば、1800万円投資しても、200万円分を売却すれば、200万円について再投資することは可能です。



●政府はなぜNISAを推奨しているのか?

日本銀行の「資金循環の日米欧比較(2022年8月31日)」によれば、家計における金融資産の構成で現金・預金の割合は、日本が54.3%、米国が13.7%、ユーロエリアが34.5%となっています。



一方、株式を見てみると、日本が10.2%、米国が39.8%、ユーロエリアが19.5%となっています。つまり、日本のお金は投資に回っていないことがわかります。資本にお金が回らなければ、企業は積極的な活動ができないため、成長が止まってしまいます。そのため、積極的な投資を促すためNISAを導入したわけです。つまり、政府の狙いは、滞留しているお金を市場に供給したいということにあります。



また、家計の面から考えても、高金利の時代なら預貯金で保有することも有効ですが、低金利の世の中でしかもインフレが起こりつつある状況においては、金融資産の多くを現預金で持つことは非常にリスクが高いと言えます。インフレになれば、現預金の価値が下がってしまい、実質的に資産の一部を失うのと同じことになるからです。



さらに、物価高騰により購買力が低下するので、生活は厳しくなります。生活ができなくなる人が増えれば、生活保護の支給も増えることになります。そのような状況に陥ることがないよう、インフレにも耐えられるような分散投資が望まれます



ただ、日本人は投資に慣れていないことから、はじめのうちは比較的リスクを抑えた投資信託やETFで長期間運用してもらいたいと政府は考えています。投資信託やETFで運用しながら投資を学び、将来的には株式などに積極的に投資してもらえる人を増やしたいということです。そのため、金融庁は「一般NISA」よりも「つみたてNISA」の方を推していました。



しかし、既に投資を行っている人からすると、投資商品が限定される「つみたてNISA」に魅力を感じる人は少なく、「一般NISA」の方が、人気がありました。証券業協会の資料によれば、2022年9月末現在で、「つみたてNISA」が466万口座、「一般NISA」が678万口座となっています。



このような実状があることから、今回の改正では、「一般NISA」も残して、「つみたてNISA」との併用ができるようにしたのではないかと思われます。なお、名称は、「一般NISA」が「成長投資枠」、「つみたてNISA」が「つみたて投資枠」に変更になります。



●新NISAを使うメリットとデメリット

(1)メリット



ア 運用益が非課税



NISAのメリットは、金融(投資)商品で得た収益が非課税になるということです。金融所得の税率は20%なので、それが非課税になることは大きなメリットと言えます



イ 運用期間の無期限化と投資枠の拡大



課税保有期間が無期限になったので、長期間非課税で運用できるようになります。また、投資枠もトータルで1800万円と大幅に拡大されたので、これまでよりも自由に積極的に売買ができるようになります。



ウ 運用方法が多様



さらに、「一般NISA(成長投資枠)」と「つみたてNISA(つみたて投資枠)」の併用が可能になるので、毎月「つみたてNISA(つみたて投資枠)」で運用しつつ、相場が大きく動いた時には「一般NISA(成長投資枠)」で大きな取引を行うということも出来るようになります。



(2)デメリット



ア 損益通算ができない



NISAのデメリットとしては、損益通算ができないことです。投資は利益が確実にでるわけではなく、損失が発生することもあります。そのため、一般口座や特定口座での取引では利益と損失を相殺することができます。たとえば、A株の売却で3万円の利益が出て、B株の売却で▲1万円の損失が発生した場合、損益通算することで「3万円-1万円=2万円」に対して課税されます。一方NISAで▲1万円の損失が発生し、一般口座で3万円利益が出ても、損金通算ができないため、3万円に対して課税されることになります。



イ 3年間の繰越控除が使えない



一般口座や特定口座では、損益通算をしても損失が残っている場合、3年間は繰り越すことができます。たとえば、2023年に損益通算しても20万円の損失が残っていた場合、2024年に50万円の利益が出たら、2023年の損失である20万円を控除することができます。ところが、NISAの場合、損失が発生してもそれはないものと扱われるため、損失を翌年以降に繰り越すことはできません