2023年03月12日 10:11 弁護士ドットコム
隣家からはみ出してきた木の枝を切り取ることができる——。4月1日施行の改正民法により、枝の切除に関するルールが大きく変わることになった。
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これまでの民法のルールでは、土地の境界線を越えた木の根っこは切り取ることができるものの、枝の場合は木の所有者に切ってもらわなければならなかった。
隣家の枝に悩む人は多く、弁護士ドットコムにも複数の相談が寄せられている。ある女性は隣家に桜の木があるのを承知で引っ越してきたものの、枝から落ちてくるものが予想以上に多く憂鬱になっている。
「桜が開花してからは、敷地上にはみ出している枝からすさまじい数の花びら、毛虫、落ち葉、ガクが落ちてきました。苦情を言いたいのですが、桜の木が植えてあるのを承知で引っ越してきたためなかなか言い出せません」
隣家から伸びている金木犀の枝が気になるものの、ご近所トラブルになることを懸念しており、なかなか言い出せない人も。
「隣家の金木犀の枝が私の家の玄関の屋根にかかり、落葉や花が屋根に落ち、実害が出ています。隣家に散々その旨を伝えていますが、1年経過してもいまだに伐採してくれません」
今回のルール改正により、どんなことができるようになるのだろうか。田中伸顕弁護士に聞いた。
——越境した枝のルールは、法改正によりどのように変わりましたか。
改正される前は、竹木の所有者に請求して切ってもらうか(改正前民法233条1項)、自分で切るにしても竹木の所有者の同意を得なければならない、というルールになっていました。
そのため、竹木の所有者を見つけることができない場合や、見つかっても切除しようとしない場合は、枝の切除請求訴訟を起こさなければなりませんでした。
そして、裁判で勝った上で、強制執行の申立をし、竹木の所有者の費用負担で第三者に切除させるという代替執行という手続きをしなければなりませんでした。
しかし、民法が改正されたことで、一定の条件が揃えば、竹木の所有者の同意を得ることなく、越境した枝を切除することができるようになりました。
——どのような条件が揃えば、竹木の所有者の同意なく枝を切ることができるのでしょうか。
2023年4月1日から施行される改正法でも、まずは竹木の所有者に対して枝を切除するように求めるのが原則となっています(改正民法233条1項)。
ですが、切除が期待することができない次の3つのいずれかの場合に該当すれば、土地の所有者は、隣地から越境してきた枝を、自分で切除することができるとされています(改正民法233条3項)。
(1)土地の所有者が竹木の所有者に催告したにもかかわらず相当の期間内に枝の切除を行わない場合
(2)竹木の所有者を知ることができず、または所有者の所在を知ることができない場合
(3)急迫の事情がある場合
——(1)の「相当の期間」とはどの程度の期間ですか?
枝を切除するために必要とされる期間であり、基本的に2週間程度と言われています。
——(3)の「急迫の事情」とはどのような場合ですか?
例えば、台風などの災害により枝が折れて隣地に落下する危険が生じている場合や、地震により破損した建物の修繕工事で足場を組むために隣地から越境した枝を切り払う場合などが想定されます。
——法律の改正が施行される4月1日より前からあった枝にも新しい法律は適用されますか?
はい。改正法が施行される前、つまり2023年3月31日以前から存在していた枝にも適用されます。
——枝の切除を請求できるのは、土地を所有している人に限られるのでしょうか。
いいえ。借りている土地に枝が越境してきた場合も、枝の切除を請求したり、場合によっては自分で切除したりできます。
地上権者(工作物を所有するために土地を使用する権利をもつ人、改正民法267条本文)や永小作人(小作料を払って他人の土地で耕作する人)も同じです。
——枝を切るために、隣地の所有者の承諾を得ることなく、隣地に立ち入ることはできますか?
できます。ただし、あらゆる場合に立入りができるのではなく、枝を切るために必要な範囲内で、かつ、隣地の所有者や現に隣地を使用している人にとって損害が最も少ない日時、場所及び方法を選ばなければなりません(改正民法209条1項・2項)。
したがって、わざわざ隣地に立ち入らなくても枝の切除が可能であれば、隣地を使用することはできないと考えられます。逆に、隣地に立ち入らないと、安全に切除できないといった事情があれば、隣地の使用が認められる方向になると考えられます。
また、隣地に現に住んでいる人がいた場合、現に住んでいる人の承諾を得る必要があります(改正民法209条1項ただし書)。
——他にやらなければならないことは?
隣地を使用する場合は、原則として、事前に、隣地の所有者及び現に隣地を使用している人に対し、隣地を使用する目的、日時、場所及び方法を通知しなければならないとされています(改正民法209条3項)。
例えば、枝を切るために隣地のどこに立ち入る予定かを通知する必要があります。一方で、枝切りばさみで切るか、脚立を使うか、などの作業の詳細を全て通知する必要まではないと考えられます。
事前に通知することができないやむを得ない事情があるときは、使用を開始した後、遅滞なく通知しなければなりません(改正民法209条3項ただし書)。
この「やむを得ない事情」とは、例えば、早急に枝を切除しなければ自分の建物が損傷するおそれがあったり、調査をしても隣地の所有者が見つからなかったりする場合があてはまるとされています。
——枝を切るためにかかった費用は誰が負担しますか?
土地所有者は、不法行為(他人に損害を与えたこと)や不当利得(他人に損失を与えたこと)を理由に、竹木の所有者に対し請求することができます。
ただし、竹木の所有者が任意に支払わない場合は、裁判を起こす必要があると考えられます。
——切った枝は誰が処分しますか?
切った枝は、改正民法233条3項に基づき、切除した人が所有権を取得することになります。取得する以上は、自分で処分しなければいけないということですね。
【取材協力弁護士】
田中 伸顕(たなか・のぶあき)弁護士
秋田弁護士会所属。交通事故、離婚、債務整理から、インターネット上の誹謗中傷まで扱う。「住む地域にかかわらず、悩みを解決できるようにしたいです。事件には、大きいも小さいもないと考えています。そのため、どのようなご相談・事件についても一所懸命、全力で取り組みたいと思いますので、お気軽にご相談ください」
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