トップへ

40代無職の息子に暴行され、翌日「熱中症」で死亡した母 息子が語った呆れた動機

2023年03月10日 10:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

ニュースを見ていると、「どうして周りにSOSを出せなかったのか」と思う事件に触れることがある。しかしながら、相談が出来ない人、気が付くことができない人、気が付いていたがどうにも対処できない場合、など様々な要因がそこには隠されている。


【関連記事:カーテンない家を「全裸」でうろつく女性、外から見えてしまっても「のぞき」になる?】



2023年1月、大阪地裁で行われた死体遺棄罪と傷害罪で問われた裁判は、そんなSOSがいくつも絡み合った末に起きた事件だった。(裁判ライター:普通)



●タバコ代をめぐり71歳の母親に暴行

事件が起きたのは、2022年9月。被告人は同居していた71歳の母親に対して、げんこつなどで数回殴る蹴るの暴行を加え、肩や腰部への打撲など全治2週間となるケガをさせた。その翌日、母親は自室にて亡くなった。



司法解剖により、死因は熱中症であるとされ、傷害との因果関係は認められなかったが、被告人は役所への届けや、葬儀を行うことなく8日間自宅にて放置した。



法廷に立った40代無職の被告人男性は、髪は乱雑で、やや放心状態に見えた。被告人は5年前から無職となり、母親と二人暮らしで小遣いをもらい、「寝たいときに寝て、起きたいときに起きる生活」と供述した。



母親の死亡を確認したときは「これからどうすればいいかと、愕然とした」と当時の思いを語るが、各所への連絡は頭に浮かばなかったという。



暴行行為のきっかけはタバコ代の無心を断られたことからだった。小遣いの使い道は、タバコや缶チューハイ、たまの外出となる漫画喫茶であった。母親の死亡を確認したのは、暴行の翌日、母親に「タバコ代ぐらいあるんちゃう?」と肩をゆすっても反応がないことがきっかけだった。



●同僚に無心し、週6日もパートで働く母

亡くなった被告人の母親は清掃員のパートを週に6日も行うことで生計を立てていた。夫は10年以上前にすでに亡くなっている。高齢で息子を養うことは、経済的にも心身にかかる負担も大きかったはずだ。



母親は職場の同僚に金銭の無心をしたり、無断で定刻より2時間半も前から勤務を開始したりすることもあった。



さらに被告人によると、事件の前月から「洗濯物を干したまま片づけない」、「風呂に入らない」、「自分の布団の中で食事をして、食べかけの容器を布団の中に放置する」といった行動をするようになったという。



被告人は公判での供述でそれらの状態を「老いていった」と表現したが、老いた母の異変に気づきながらも、依存を止めることはなかった。



暴行があったとされる当日、実は隣人がその異変に気が付いていた。「暴力を振るっているような音が聞こえる」と110番通報がなされた。しかし、警察官が到着した際には暴行と思われる音が聞こえず、インターフォンを鳴らしても反応がなかったため、再度の通報待ちということで引き返してしまったのだ。



●判決で認定された犯行の悪質性と被告人なりの思い

被告人は人間関係が原因で、高校を中退している。それ以降は宅急便の仕分け、スーパーのバイト、チラシ配りなどに挑戦はするものの3カ月も続けば長い方であったという。2年前に自立しようと、生活保護を受給しながらできる仕事を探そうと、一人暮らしをするためマンションの契約はしたが、結局生活保護の申請もせず、数カ月で家に帰ってしまった。



また、統合失調症の疑いで3度の入院もした。町で「僕は天使だ」などと大声で無自覚に叫び、警察に連行されたこともあった。コロナ禍になり、病院への足が一度遠のいたことから、薬の服用もできていない。



しかし、被告人にも言い分はある。被告人の部屋には、多数の「黙る」と書いた紙が貼ってある。これは、外で大声を出さないよう自分なりに心を律するための行動だという。



また、母親の死に直面した後、部屋にエアコンをつけ、寝室よりもきれいという理由で台所に移動し、頭を枕に乗せ布団をかけた。周りには母親が生前好きだった菓子や本などを置き、被告人なりに弔う姿勢を見せた。



社会復帰後は、生活保護を受給しながら、福祉サービスを利用しつつ治療を受ける計画を立てた被告人。被告人質問の最後には、「今まで母親に頼り過ぎていたので、これからは自分が頑張るしかない」と供述した。



判決は懲役2年(求刑同)、未決勾留日数60日算入、執行猶予4年であった。事件を起こした非難は免れないものの、背景に精神疾患があり、被告人なりに母親を悼む気持ちも判決文において認定されていた。



【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。