2023年03月08日 10:01 弁護士ドットコム
多くの人が花粉症の症状に悩まされている。今年は特に飛散量が多いそうで、過去10年で最多とも予測される。
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顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ、仕事にも身が入らない。日本に大量に植えられたスギが恨めしいと思う人も少なくないだろう。
実は30年前、花粉症患者らがスギ花粉症の責任を問うため、国を相手に裁判を起こしたことがあった。
1993年3月3日、静岡地裁に提訴したのは、弁護士の杉山繁二郎さんらスギ花粉症患者ら11人だった。
罹患の責任は、1950年からの誤った植林政策を進め、適切な管理をしなかった国にあるとして、総額6000万円の慰謝料を求めたのだ。このような国賠訴訟は全国でも初めてだったとのこと。
「訴状では、すべての国民は健康的な生活を営む権利を有し、国は公衆衛生の向上、増進に努めなければならないなど、国の憲法上の義務や、花粉症患者が薬を使うことで胃の不快感などの副作用の被害もあると指摘している」(1993年3月4日の読売新聞から引用)
原告代理人もつとめた杉山さんは提訴にあたって「私は昨年から発症したが、朝晩、涙目やかゆみがつらく、患者の苦しみを実感している。周囲にも悩む人が多く、スギ花粉とスギ花粉症の因果関係がはっきりしている限り、国の責任を問いたいと原告が集まった。国が犯した重大な罪に国民全体が気付く機会にしたい」と話したという(同日の静岡新聞から引用)。
訴えられた国側は、植林政策に違法性はなく、植林と花粉症の因果関係の立証は難しいとして、争う構えを示した。
その後、第1回口頭弁論がおこなわれた同年5月にも「これだけ苦しむ国民がいるのだから、国がきちんと事実を認定し、適切な対応をとるような動きへつなげることが重要。全力を注ぎたい」と述べるなど、並々ならぬ意欲をみせた杉山さんだったが、裁判は意外な形で終わることになる。
1995年10月、原告側が裁判を取り下げたのだ。この理由について、杉山さんは「原告側の単独での弁護体制に無理が出た」とし、国賠訴訟を争い続けられなくなったとした。「花粉飛散期には自己対策を講じていこうと思う」と話したという(同月28日の静岡新聞から引用)。
仮に請求棄却だったとしても、判決が得られていれば、花粉症を取り巻く環境に何か影響はあったのだろうか。
花粉症の正しい患者数はわかっていないが、環境省が紹介するデータ(日本耳鼻咽喉科学会会報)によると、2019年の全国調査ではほぼ3人に1人(有病率38.8%)がスギ花粉症と推定されている。