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小学館漫画賞の贈呈式につるまいかだら、審査員代表の島本和彦による熱い講評も

2023年03月06日 12:18  コミックナタリー

コミックナタリー

島本和彦による講評。
第68回小学館漫画賞の贈呈式が、去る3月3日に都内にて行われた。式には「メダリスト」のつるまいかだ、「初×婚」の黒崎みのり、「よふかしのうた」のコトヤマ、「青のオーケストラ」の阿久井真、「明日、私は誰かのカノジョ」のをのひなおが出席した。

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児童向け部門に選ばれた「初×婚」。黒崎は「『初×婚』の構想を練っていたとき、体調の面で先の見えない不安な日々の中にいました。そんなときこそ、ハチャメチャに前向きで、これでもかというくらいわくわくして“キュン”を詰め込んだものを描いてやろうと思い『初×婚』が生まれました」と語る。「このような輝かしい賞をいただけたのが、もし作品に込めた恋愛・家族愛というテーマに加えて、どんなときも手放さなかったマンガ愛が読者の方に伝わったからだとしたら、本当に描いてきてよかったなと思います」と声を震わせながら喜びを明かした。

少年向け部門を受賞したのは「よふかしのうた」と「青のオーケストラ」の2作品。「よふかしのうた」のコトヤマは「賞が獲れたと聞いたときはネームが終わった直後、まだ担当編集が同じ部屋にいた状況で。『どうしよう、今日?』という話になって、担当編集は『飲みに行こう』という顔をしていたんですが、僕は『今日は帰ります』と言うしかなくて」と、実感が湧かなかったという当時を思い返す。「今もすごく緊張しているんですが、このくらいの緊張を感じることって人生であと何回あるかわからないので、この気持ちを大切にしようと思いました」と続けた。

「青のオーケストラ」の阿久井は「この作品は本当に産みの苦しみが強く、何度も辞めたいと正直思っておりました」と吐露。「それでも続けられたのは、取材先で高校生のオーケストラの皆さんたちに、何かに夢中になることの楽しさを教えていただいたから。それを原動力にして、今作品を描いております」と語る。「努力する人が報われる世界であってほしいと思いながら日々マンガを描いております。これからもそのような作品を描き続けられるようにがんばりたいと思います」と締めくくった。

少女向け部門を受賞したのは「明日、私は誰かのカノジョ」。をのは「すごく緊張していて、未だに実感が湧かないと言うか。これもひとえに編集部の方々、私を見つけてくださった担当の方、読者の皆様のおかげだと思っています」と感謝を口にし、「この賞の名に恥じないようにこれからも精進してまいります」と意気込んだ。

「メダリスト」で一般向け部門を受賞したつるま。「『メダリスト』の題材であるフィギュアスケートの選手の方々は、メダルを得ることで大きな大会や海外派遣などの次のステージに進めるという世界で戦っています。いつしか私はその世界とこの作品の未来をつないで、賞をいただくことは新たなステージの扉が開くということだと思うようになりました」と話す。「フィギュアスケートに限らず、私たちの前には絶対通過しなければいけない扉や、ぶつからなければ存在にすら気付けない扉など、大小さまざまな扉があります。今回いただけたこの大きな賞はとても重い扉の先へ進む、特別な鍵のように感じています」と語り、受賞の感謝を言葉にした。

また審査員を代表して、島本和彦による講評も。島本はまず「受賞するって大変なことですから! 才能と努力と運の3つがないと獲れないんですよ。私はハタチでデビューして50代まで来れなかったですから! 大変なことなんですよ!!」と切り出し、「ずっと(賞を)獲れないで、苦虫を噛み潰した顔で悔し涙に暮れながら今でも机に向かっているマンガ家はいるんですよ! それがここに、スポットライトを浴びてここに座れるということはどれだけすごいことか!!」と熱く述べた。

「初×婚」について「いやあこれは素晴らしく……面白い!!」と絶賛する島本。「このぶっ飛んだ設定をなかなかマンガ家は描けない。その設定に負けずにキャラクターが立っている。これが力量だと思います」と語り、ほぼ全員一致で受賞に至ったことを説明した。「よふかしのうた」については「前作の『だがしかし』の頃から繊細な絵を描かれていて。キャラクターをちょっと触ると痛みを感じるんじゃないかという実在感がある。その実在感を中心として吸血鬼ネタに振っていくというのは、痛みを伴う……絵空事ではないような感覚で読める。これは素晴らしいキャラクター設定」と称賛した。

「真正面からマンガに取り組むのは本当に大変なこと」と口にした島本は「『青のオーケストラ』は『大丈夫か!?』と。こんなに、絵に、キャラクターに、楽器に、楽器の音に、力を込めて描いていて、倒れるんじゃないかって思うんですが……大丈夫ですか!?」と阿久井に問い詰める。そして「これからどんどん高度な演奏が来たときに、これ以上の演出でいけるんだろうかっていうのを楽しみにしながら、阿久井さんが倒れないようにがんばっていただきたい」と激励した。

「明日、私は誰かのカノジョ」のをのを「驚愕の才能」と評する島本。審査を行う際、単行本の表紙で惹かれるものから読み始めるという島本は、同作について「引っ張られるタイトルと絵柄。すごいなと思いました」と語る。また「女性の辛さを描いて、男のくだらなさを描いてる。中年男って本当に醜い!! もう……読んでいて痛い!!」「奥さんを大切にしよう!!」と声を大にし、会場の笑いを誘いながらも「女性の地獄ツアーにならず、清々しさと品がある作品に描いているところが素晴らしい」と説明した。

また「メダリスト」については「それぞれのキャラクターに合った動きをちゃんと画面で表現している。『この子ならこういう演技をするよね』というのを、ちゃんと私たちに伝わるように描いている。取材の才能もある。説得力のあるマンガをありがとうございます」、「セリフの選び方も、スポーツものだと、努力する方々への尊敬の念もあるので堅くなりがちになって、面白くなくなりがちになる。そこを「実際にプレイヤーはこう考えている」というのが作品に厚みを持たせていて素晴らしい」と講評した。また「今回選ばれなかった作品も含めて、審査員は『どれも面白かった』と感じている。選ばれなかった担当編集の方々は、ぜひ来年あるな!とがんばっていただけたら」とエールを贈った。

最後に小学館の代表取締役社長・相賀信宏氏からの挨拶で会は幕を閉じる。「今回議論の1つのテーマになったのは、性別や年代のボーダーに関すること。つまり部門分けに関してでございました。今までもジャンルによる判断というのは我々の悩みでもあったわけですが、議論を進め、現状を冷静に見ると、このジャンル分けというのは“悩み”ではなく“課題”として捉え、解決に向けて歩みを進めていきたいと思います」と声にした。