2023年03月03日 20:51 弁護士ドットコム
元「バイトAKB」のラーメン店経営者・梅澤愛優香さんが、食事会における無断撮影などのセクハラ行為や、フェイスブックに「バイトAKB」「ヤバい会社」などと書かれたとして、フードジャーナリスト・はんつ遠藤さんを訴えていた裁判を覚えているだろうか。
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今年3月3日、横浜地裁の法廷で2人が主張をぶつけあった。
梅澤さんが2021年10月に提訴した後、はんつさん側も、メディアやツイッターでの梅澤さんの発言によって、連載などの仕事を打ち切りにあったとして、反訴するなどの進展があった。
はんつさんは法廷で「今でもヤバい会社だと思っている」と持論を展開。さらに「おじさん構文」として話題になった釈明ブログは「梅澤さんのムーブメントに対抗するムーブメント」だったと説明した。(編集部・塚田賢慎)
法廷の様子を伝える前に、裁判の内容を振り返っておきたい。
梅澤さんが330万円の損害賠償をもとめた裁判の主張は、大きく分けて、(1)はんつさんから会食でセクハラと肖像権侵害をうけた(2)はんつさんのフェイスブック(FB)投稿が名誉毀損にあたり、業務妨害をうけた——というもの。
(1)2019年3月5日、梅澤さん、会社の従業員、はんつさん、共通の知人の計4人は、梅澤さんが経営するラーメン店の2階にあるモツ鍋店で食事会を開いた。酒に酔ったはんつさんは、次第に「梅澤さん」から「まゆかちゃん」と呼ぶようになり、「人妻シリーズ」という記事のため、写真を撮ることをもとめたという。
梅澤さんは撮影を承諾しなかったが、はんつさんは「顔は撮らないから身体だけ撮らせて」と述べて、顔から下を無断で撮影したと主張している。
(2)FBへの投稿とは、はんつさんが2020年4月13日、梅澤さんのラーメン店の工事やその支払いをめぐって、「バイトAKB!!これはヤバい―――」「地元の葛飾で超モメてたラーメン店。。」「ここ、ヤバい会社だけど地元の某企業にお金払わなくて、そこもヤバくて、さらにヤバい人が加わったりしてスゴイことになっちゃって、ボクは両者知り会いだったりして、さすがに仕事では絡めないラーメン店。。」と書き込んだものだ。
梅澤さん側は、施工業者と工事費用について交渉したことがあったが、支払いは完了していたとして、「虚偽」の事実で梅澤さんの名誉を傷つけ、業務を妨害するものだと主張している。
はんつさん側が逆に、梅澤さんを訴える裁判を起こしたこともわかった。
こちらは、2021年9月27日~28日にかけて梅澤さんがインタビューに応じたテレビ朝日「グッド!モーニング」の放送と、「キャリコネニュース」のネット記事の内容などを問題視するもので、はんつさんの名誉を傷つけ、仕事が打ち切りにあったとして、計約800万円や謝罪広告の掲載を求めるものだ。
「グッド!モーニング」で、梅澤さんは、あるラーメン評論家によるセクハラ・中傷・嫌がらせがあったことで、入店禁止に至ったという内容のほか、その評論家が工事費用の支払いをめぐって事実無根の情報を発信したなどの内容を答えている。
「キャリコネニュース」の記事では、「評論家H氏」からのセクハラや、FBで誹謗中傷された旨の発言があった。
はんつさんは、実名は出されていないものの、「ラーメン評論家」や「H氏」は自身のことだと容易に特定され、さらに、顔から下を撮影したことは事実だが、取材宣伝に使うためで、セクハラ行為などの違法性はなく、名誉毀損にあたると主張する。
また、このような梅澤さんの発信により、「破廉恥男」との虚偽の悪印象が流布された結果、フードジャーナリストとしての社会的信用を失い、日本航空や日清製粉グループの連載企画の打ち切り、出演が予定されていた「ラーメン・はんつ!」という新番組もなくなったことから、経済的損害も主張している。
なお、はんつさんは、梅澤さんのインタビューが出た28日に、自身のブログで「梅澤愛優香さんに対する、はんつ遠藤の意見」を公開。この内容が「おじさん構文」などとしてネット上で話題になった。
ブログ記事では、写真撮影について「ちょうど時期的に合うので、おそらくこの人妻シリーズの写真に使おうと思ったと思われます。人妻と飲んだみたいな。思われますっていうのは、テレビでも言ったけど、泥酔してるので覚えてないんですよね。写真撮った件すら覚えてない」などと書いてある。
長くなったが、ここからは法廷の様子を伝えたい。
食事会の開催経緯は、梅澤さん側から「ラーメン評論家」や「フードジャーナリスト」の紹介を頼まれた知人がセッティングしたものだ。
この知人も証人として「食事会は楽しく盛り上がった」と述べ、はんつさんのセクハラはなかったとの考えを示した。
一方、梅澤さんは、食事会は「取材」ではなく「顔合わせ」の認識だったとしている。
はんつさんが「顔も赤く、泥酔手前だった」としたうえ、そのような状態の相手から「取材」をうけた経験はないとし、また、「まゆかちゃん」と呼ばれることは、よほど仲の良い相手でなければないという。
「FBの人妻シリーズに使いたいから撮らせてほしいと言われたのですが、卑猥なことを想像させる内容で断りました。断っても引き下がらず、顔が映るのがダメなら、顔から下を撮らせてと言われてたけど、許可していません」
無断での撮影を改めて強調するが、その場で強く断れず、削除ももとめなかったのは、初対面であり、はんつさんのフードジャーナリストとしての影響力を考えたからだという。
はんつさんのFBの投稿は「うちが悪徳業者だと思われる内容で、名誉毀損じゃないかと思った。内容もバカにしているもの」と指摘し、釈明で書かれたブログにも「反省がまったく見えないし、茶化す内容だと思った。『それ、ぼくです!』と名乗り出るとは思ってませんでした」と話した。
一方のはんつさんは、酒は飲んだが、泥酔ではなかったと主張を始めた。
釈明のブログには「おそらくこの人妻シリーズの写真に使おうと思ったと思われます」「泥酔してるので覚えてないんですよね。写真撮った件すら覚えてない」などと書いてある。だが、これは実際とは異なるそうだ。
「酔っ払ってましたが、いろいろ覚えてます。泥酔じゃない。言いづらいですが、自転車で家に帰れました」と告白した。当時の意識はしっかりしており、取材活動にも支障はなかったとする主張のようだ。
そして、撮影は宣伝などの目的であり、人妻シリーズのためではないという。
「私から顔写真を撮らせてと申し上げたら、NGと言われたので、首から下の写真を撮らせてと言いました」
FBの投稿は注意喚起のためで「内容は事実です。これ以上、ヤバい会社の被害者になってほしくないので、FBの友だち限定で投稿しました」とし、「今でもヤバい会社だと思っています。逆に言えば、とても素晴らしいことをしたと思っています」と証言した。
また、「泥酔してるので覚えてない」「人妻シリーズの写真に使おうと思ったと思われます」というブログの内容と主張に大きく異なる点があることも独特の言い回しで説明した。
「その文章は、自分で言うのもなんですが、素晴らしい文章になっていまして。そもそも梅澤さんがラーメン好きの方を訴えたり、その補完材料として(※編注:メディアで発信するなどの)ムーブメントを形成しました。そこに対抗するには私もムーブメントを作ろうと思った。あえて、覚えてないということにして、泥酔していることにして書いています」
人妻シリーズに使おうという記載も「ムーブメント。一つの戦略として書きました。きれいに文章的には成り立っているし、『思われます』と書いてます。すべて計算された文章です。セクハラしたとも言ってません」
「この書き方をすれば、問題として広くムーブメントができると思った。いずれ、Xさん(法廷で証言した知人)が証言してくれると思いました。そういう書き方になっています」
裁判長は、ときおり天井を見つめて目をぱちぱちさせたり、「ブログの関わりがよくわからなかった」と質問したりした。
今年5月に弁論が終結する予定だ。
梅澤さんは「どうしても許される内容でないので、厳罰といいますか、適正な判断をしていただきたいと思います」と裁判所に求めた。