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【連載】『機動戦士ガンダムZZ』は本当に“見なくていい”作品なのか? 第三話に見る規格外の主人公・ジュドーの痛快さ

2023年03月03日 12:51  リアルサウンド

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■第三話「エンドラの騎士」あらすじ


 満身創痍のアーガマを追うようにして、シャングリラに入港してきたネオ・ジオン軍の巡洋艦「エンドラ」。不利な状況での接触を避けるため、ブライトはアーガマをシャングリラの内部へと移動させる。


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 一方、エンドラには指揮官としてマシュマー・セロが乗艦していた。「シャングリラの住民をハマーン・カーンとネオ・ジオンに従わせる」という目的を持つマシュマーは、入港時に目撃したアーガマを追ってガルスJでシャングリラの中へと飛び立つ。


 一方、ジュドーら少年たちはいまだにZガンダム強奪を諦めておらず、プチ・モビルスーツを使ってアーガマへの侵入を試みる。ちょうどシャングリラ内部へと移動してきたアーガマにとりついたジュドーは、艦内でシンタとクムに匿われつつZガンダムを目指す。


 マシュマーはコロニー内を飛行するアーガマを発見。艦橋に取りついてクルーに脅しをかけるが、ジュドーの仕掛けた爆弾により落下。迎撃のためファもメタスで出撃するが、機体の不調に苦しめられる。ジュドーはファの援護のためZガンダムに乗り出撃。ビームサーベルの操作もおぼつかないジュドーに堂々と殴りかかるマシュマーだが、ジュドーはZガンダムを変形させてコロニー内を逃げ回る。


 ジャンクの山で対峙したZガンダムとガルスJ。ビームサーベルを使っての一騎打ちで、からくもジュドーはカルスJの頭部を破壊。敗北したマシュマーは撤退する。


 戦いを終え、メタスを抱えてZガンダムでアーガマに着艦するジュドー。ジュドーはブライトらに再度Zガンダムを盗みにくることを宣言しつつ、プチ・モビルスーツでアーガマを去るのだった。


■マシュマー・セロ登場


 『ガンダムZZ』のストーリーで初めて登場するネオ・ジオン側の将校が、マシュマー・セロである。第一話のラストに少しだけ登場し、金塊の入ったアタッシュケースを放出した彼は、ハマーンからも「まことの騎士」とまで呼ばれる人物だ。


 そんなマシュマーも、ジュドーに続きこれまでのガンダムシリーズとはノリの異なる描写がなされている。胸にはハマーンから賜った薔薇の花にコーティングを施したものをさし、ことあるごとにその香りを嗅ぐ(コーティングされているのに、匂いがわかるのだろうか?)。言動も常にナルシシスティックで気位も高く、おまけにハッチのついていないモビルスーツで出撃してしまうほど無鉄砲。エンドラのクルーが気の毒になるような、あんまり上司にしたくないタイプのキャラクターである。


 言動がエキセントリックなキャラクターはガンダムシリーズではそれほど珍しくないが、マシュマーが少し特異なのは「作り手側もこのキャラクターを明確にコメディリリーフとして演出している」という点だ。登場しただけで背景がパステルカラーになり、踵を返せばキラキラとした謎の粒子が飛び、「シャラララ~ン♪」と効果音まで鳴る。


 これらの演出はマシュマーの言動とは特に関係なく、この作品の作り手たちによって付けられたものだ。つまり登場当初のマシュマーは、作り手が「この人物はナルシシスティックなボケ担当のキャラクターですよ」という意図を込めたキャラクターなのである。キザな雰囲気がギャグとして扱われている様は、「もしもシャアをギャグっぽく演出するとしたら」というお題に対する回答のようだ。


 キャラクターがボケ担当であることを示すわかりやすくコミカルな演出は、宇宙世紀を舞台にしたガンダムシリーズでは少々珍しい。おどける役割は基本的に子供のキャラクターに割り振られており、大人のキャラは基本的に真面目に戦争をしているのがガンダムシリーズである。ところが『ZZ』は本編開始から二話目にしてすでにギャグテイストが濃く、これを受け入れられなかったマニアがいるのもわからなくはない。


 ただ、このギャグっぽさから80年代的なテイストを感じたのも事実である。年代が下りコンテンツの内容やテイストが整理されるに従って、こういった悪ふざけスレスレの演出がシリアスな作品に捩じ込まれることは少なくなっていく。コンテンツの内容に関する交通整理が未成熟で、スタッフに関してもアマチュアとプロの垣根が低かった時期特有の悪ふざけのような演出は、今見るとなんだかちょっと新鮮だ。


 そんな「ギャグっぽさの濃いキザな悪役」であるマシュマーが、ガンダムシリーズの主人公キャラクターとしては規格外の存在であるジュドーと対峙する。プチ・モビルスーツのワイヤーを介して生身で飛行中のアーガマへと乗り移るという今回のジュドーの行動も、現実的なアクションとは言いづらい。ジュドーもむしろ荒唐無稽なギャグアニメの主人公のような存在であることが、アクションシーンを通じて第三話でも繰り返し説明される。


 とはいえ、SF的な考証がジュドーのアクションと組み合わされているあたりはさすがである。今回アーガマはコロニーが回転する軸線に近い高度を飛んでおり、そこではコロニーの外殻を兼ねる地表よりも重力が弱い。ガルスJの装甲に爆弾を取り付けに行く際のジュドーの動きはこの重力の弱さを生かしたものとなっており、「ジュドーがこれまでのガンダムシリーズの主人公とはテイストの異なるキャラだから」という理由だけで成功した攻撃ではないことがわかる。


 面白いのは、ジュドーとマシュマーの対決においては、マシュマーの方が正々堂々としているという点である。マシュマーはビームサーベルをうまく扱えないZガンダムを見て自らも素手で戦うことを選び、さらにビームサーベルでの戦闘になった際もジュドーがビームサーベルを抜くのを待つ。どこまでも律儀であり、彼の戦闘に関する考えはこの時点ではむしろ「決闘」に近い。


 対するジュドーは、なんでもありの戦い方で生き延びようとする。相手の死角から生身でモビルスーツに貼り付いて爆弾を仕掛け、すぐZガンダムを変形させて逃げ回り、最後はほとんどまぐれ当たりのような形でガルスJの頭部を破壊して勝利する。前回も書いたようにジュドーはガンダムシリーズの主人公として初めて登場した不良少年であり、おそらくケンカにルールはないことを皮膚感覚で理解している。およそ主人公らしからぬ戦い方ではあるが、マシュマーに比べるとより実戦的でパワフル、なおかつシビアな戦闘方法だ。


 物語上の悪役の方がむしろ騎士道精神に則っており、主人公はノールールでどんな手段でも使う不良であるというのは、『ZZ』の特徴だろう。それまでに大人たちによって確立された規則やしきたりにとらわれず、自由に戦って勝利する主人公だとすれば、ジュドーというキャラクターはなかなか痛快である。


 ただ、ジュドーは自分のルールだけはしっかりと守るキャラクターであることは、第三話のラストで説明される。ジュドーはマシュマーの起こした騒動に乗じて火事場泥棒的にZガンダムを盗むことはせず、今回は一旦返却し後日しっかりと強奪すると宣言してブライトたちの元から去る。このラストシーンからは、屑鉄泥棒を生業とするジュドーのプライドが感じられる。ただなんでもありの不良ではなく、己のルールとプライドには忠実な快男児、それがジュドー・アーシタなのだ。


 物語はまだしばらくシャングリラ内でのドタバタが続きそうである。一旦は撤退したマシュマーがいかなる手を使って反撃するのか、気になるところだ。


(しげる)