トップへ

無断「切り抜き動画」著作権侵害の可能性も 未成年でも損害賠償請求のリスク

2023年03月01日 10:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

SNSで流行っている「切り抜き動画」。YouTubeの長い動画やアーティストのライブ動画などの一部を切り出して再編集したもので、アーティストやテレビ番組の公式アカウントが自ら更新しているケースもよく見られます。


【関連記事:カーテンない家を「全裸」でうろつく女性、外から見えてしまっても「のぞき」になる?】



有名人が自身のYouTubeの「切り抜き動画」を許可することもあります。お笑いコンビ「霜降り明星」の粗品さんは2月1日、一定のルールの元で「切り抜き動画」を許可すると発表しました。作成・投稿したいクリエイターは、必要事項を記入して応募する形となっています。



第三者が無断で切り抜き動画を作った場合は、法的にどう考えられるのでしょうか。弁護士ドットコムには、娘が作る「切り抜き動画」に違法性がないか心配する母親から相談が寄せられています。



「中学生の娘が勝手にTikTokのアカウントを作り、フォロワーは1000人を超えていました。そして、人気歌手のライブ映像などを他の動画アプリから切り抜き編集し、アップロードしています。著作権侵害等で罪に問われることはありますか」



ファンが「推しをもっと知ってほしい」と進んで切り抜き動画を作成するケースもありますが、佐藤孝丞弁護士は「こうした行為は著作権侵害に当たる可能性が高い」と話します。詳しく解説してもらいました。



●著作権侵害となる可能性が高い

——切り抜き動画は、どの法律に違反するのでしょうか。



著作権法違反が問題となります。いわゆる切り抜き動画を著作権者の許諾なくアップロードする行為は、著作権のうち、複製権、翻案権(元動画を編集して新たな創作性を加えた場合)、公衆送信権などを侵害する可能性が高いです。



切り抜き動画による著作権侵害があった場合には、著作権者から損害(広告収入等)の賠償請求をされることがあります。



——子どもが著作権侵害にあたる行為をしたら、親が責任を負いますか?



今回の相談ケースは中学生による行為ですが、近時の法改正で18歳未満となった未成年者であっても、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていなかったといえない限り、損害賠償責任を負います(民法712条)。



個人的には、中学生にもなれば未成年者個人も上記の責任を負うことが多いと感じます。民法712条によって未成年者が責任を負わない場合も、原則として、その親などが責任を負います(民法714条1項)。ただ、どちらの場合でも、実際は、法定代理人である親などを対応の窓口にすると思われます。



●元が有料でも無料でも違いはない

——元動画が有料コンテンツか無料で視聴できるものかで、違いはありますか?



著作権侵害があるかどうか判断するにあたって、有償コンテンツかどうかは無関係です。



したがって、有償ライブの切り抜き動画の場合はもちろん、著作権者の公式アカウントがYouTubeにアップしていて無料で視聴できる動画やテレビ番組の切り抜き動画の場合も、著作権者の許諾のないアップロードは違法となります。



また、転載アカウントが収益化しているかどうかも、著作権侵害の有無には影響しません。もっとも、損害額の算定(著作権法104条)の際に影響が生じることがあります。



著作権侵害には、法的なリスクのみならず、動画プラットフォーム上の制裁もありえます。



例えば、TikTokの利用規約では、「当社は、通知を行うか否かに関わらず当社単独の判断により、何らかの著作権その他の知的財産権を侵害しているか侵害の主張を受けているユーザアカウントのアクセスをいつでも遮断し、アカウントを終了する権利を有します」と記載されています。



●引用にはあたらない

——動画の切り取りは「引用」に当たり、著作権侵害にならないのではないでしょうか?



著作権法上の「引用」(著作権法32条)にあたれば、著作権侵害にならないという例外もあります。しかし、切り抜き動画に関しては、上記の引用と評価することは通常難しいです。



引用が著作権法上適法になるためには、切り抜き動画と引用元の動画とが主従の関係にある必要がありますが、多くの切り抜き動画は、引用元の動画を「主」としているからです。



●常に著作権者の許諾等を意識することが大事

——YouTuberの中には、申請すれば切り抜き動画チャンネルを運営しても良いとしている人もいますね。



切り抜き動画をアップロードしたいのであれば、基本的には著作権者の許諾が必要です。



無断でアップロードされているのを著作権者が黙認しているケースもありますが、動画プラットフォーム上で著作権者が侵害コンテンツを容易に発見できる仕組みが増えている現状からすれば、今後ますます損害賠償請求等のリスクが上がるのではないでしょうか。



著作権者がガイドラインやクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを公表している場合は、これらの定めに従うことで、逐一著作権者に許諾を得る手間を省くことも可能ですので、確認してみるとよいでしょう。




【取材協力弁護士】
佐藤 孝丞(さとう・こうすけ)弁護士
都内を中心に、企業法務一般、特に著作権・商標権・模倣品対応等の知的財産案件に注力。特許庁審判部にて勤務経験があり、弁理士としても活動中。一方で、相続等の様々な案件を取り扱う。弁護士知財ネット会員。

事務所名:井澤・黒井・阿部法律事務所 東京オフィス
事務所URL:https://sklaw.jp/