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『うる星やつら』OP作画監督・近岡直に聞くキャラデザの極意 「作家性とフェチは同じ、趣味嗜好を投影すると強みが生まれる」

2023年02月28日 07:11  リアルサウンド

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 宮城県仙台市を舞台にしたアニメ『Wake Up, Girls!』でキャラクターデザインと総作画監督を務めた近岡直。2022年から放送が始まった『うる星やつら』の第1~2期のオープニングアニメーションで作画監督を手掛けた、注目のアニメーターの一人である。今回はそんな近岡にインタビュー。これまで手掛けてきたアニメ関連の仕事や、強いこだわりを感じるキャラクターデザインの手法について話をうかがった。


『うる星やつら』のオープニングアニメの仕事

――近岡直先生には以前、個人的にお仕事をお願いしたこともありましたが、最近の活躍は本当に素晴らしいですね。話題作『うる星やつら』のOPに関わられましたが、率直な感想をいただければ。


近岡:緊張しましたよ。原作の漫画もいっぱい買って、ちゃんと高橋留美子先生の絵を頭になじませてから作業に入りました。歴史のある作品ですし、ファンの期待を裏切らないクオリティにしたいと作業中は常に考えていました。


――そもそも、アニメの作画監督とはどのような仕事なのでしょうか。


近岡:アニメーターごとに異なっている絵に手を入れて、統一する仕事です。アニメの本編は作画監督のほかに全体をまとめる総作画監督がいますが、今回のOPは総作画監督がいません。僕が作画監督で、総作画監督も兼ねているのが頑張ったポイントだと思っています(笑)。登場するキャラクターが多いので大変でしたが、できあがった映像を見て、自分でも結構、頑張ったなと思いました。


――結構どころか、物凄く頑張っておられると思いますが(笑)。ラムちゃんがとてもかわいいですね。


近岡:ありがとうございます。『うる星やつら』は子どもの頃から好きな作品なので、昔の自分が見て、「これなら許せるかな?」と思う絵にできたとは思います。あの頃に自分が好きだったかわいい絵の感じってどんなのだったかなと、思い出しながら描きました。


――周囲の皆さんからの反応はどうですか。


近岡:幸いにも反応が良かったので、一安心です。OPが素晴らしい出来になったのは、『チェンソーマン』のOPなどをやっておられる演出の山下清悟さんが映像を作るのが上手いおかげだと思います。僕もどうにか期待を裏切らない仕事ができて、よかったです。


中学生の頃に『セーラームーン』にドハマり

――近岡先生は、子どもの頃から高橋先生の作品がお好きだったのですね。


近岡:僕くらいの世代が、一番なじみ深いのが高橋先生の漫画だと思います。僕には兄と姉がいるのですが、高橋留美子先生、浦沢直樹先生、鳥山明先生が気づいたころには本棚にあって“神”みたいな存在でした。兄も姉も『うる星やつら』や『らんま1/2』のファンで、子どもの頃から気づいたら身近にあった作品という感じです。『うる星やつら』のアニメもよく見ていたので、まさか自分が関わることになるとは驚きでした。


――特に好きなキャラクターは誰でしたか。


近岡:女らんまやシャンプーが子どもながらにかわいいという感覚がありましたね。(響)良牙とか、男キャラも好きでしたね。高橋先生の絵って単純にかわいいんですよ。丸っぽい感じとか、本当にいいですよね(笑)。


――子どもの頃に高橋先生のキャラクターを描いた記憶はありますか。


近岡:高橋先生のキャラを描くことはなかった気がするのですが、小学生の頃には鳥山先生の『ドラゴンボール』や『ドラゴンクエスト』を描いています。中学の頃にはクラスで『セーラームーン』が流行りましたが、これが絵を描くことにハマるきっかけでした。姉が持っていたつけペンをもらって、本格的に描き始めたのは高校生の頃だと思います。


――中学時代に『セーラームーン』がクラスで人気って、面白いですね(笑)。当時は男子は『ドラゴンボール』、女子は『セーラームーン』みたいに、明確に棲み分けがなされていたように思いますが、男子も興味を持っていたのでしょうか。


近岡:『セーラームーン』の絵がめちゃくちゃ上手い男友達がいたんです。彼は「廊下を走るな」的なポスターを描いていたので、絵が上手いとかっこいいな、僕も絵を上手く描けたらいいなと思いました。いまだに覚えているので、刺激を受けたことは確かですね。あと、『セーラームーン』と同じ時期に『ストリートファイター2』が流行りました。ゲームではブランカとか、ガイルとか、ケンを使うんだけれど、キャラクターは春麗がいいなとコッソリ思っていました。


――当時、リアルタイムで『スト2』にハマったクリエイターは春麗が好きですよね。あるあるです(笑)。


近岡:春麗はかわいいというのもあるけれど、何よりかっこいいんですよ。セーラームーンもそうなのですが、かっこいい女の子が好きなんです。この感情は中学の頃から現在に至るまで変わっていなくて、僕にとっての“呪縛”だと思っています。


――近岡先生は女子高生を描くのも大変にお好きですが、それも多感な時期に育まれた呪縛なのでしょうか。


近岡:高校生ぐらいのときに女子高生の魅力に目覚めました。女子高生もかわいくて、かっこいいんですよね。遠くから見るとフォルムがいいじゃないですか。プリーツ、スカートなど、幾何学的なプリーツの感じとふとももの曲線の交わる部分は情報量が多く、色のコンラストもあり、特に好きなんです。僕が描く女子高生の絵では、そういった部分をしっかり表現するようにしています。



アイドルアニメの制作秘話

――近岡先生の代表作といえば、2014年に発表された山本寛監督の『Wake Up, Girls!』(以下『WUG』)です。総作画監督とキャラクターデザインを務めています。


近岡:A-1 Picturesに所属して『フラクタル』に関わっていたとき、席が近かったこともあって、山本監督と知り合いました。ちょうど僕がA-1の社風が合わないと思っていた時期に(笑)、「一緒にやりませんか?」と誘われました。最初にやったのはショートアニメの『blossom』で、次に来た大きな企画が『Wake Up, Girls!』です。東日本大震災のチャリティーのアニメをつくるという趣旨で、誘われたんだと思います。



――キャラクターデザイナーとして関わってみて、いかがでしたか?


近岡:割と自分に合っている仕事だなと(笑)。もともとオリジナルのアニメ作品に関わりたいと思っていましたし、何といっても女子中高生が描けるのが嬉しかったんですよ。当時は実力が伴っていなかったので、今になって見ると力不足感はありますが、一生懸命仕事をしました。


――私は、無類の女子高生や制服好きである近岡先生にぴったりな仕事だと思いました。仙台市内に実在する学校の制服をアレンジした制服が登場しますが、取材はされたのですか。


近岡:あれはどうだったかな。取材班が仙台に行って写真を撮らせてもらったような。でも、そこまで詳しい写真を貰ってなかった気もするので、自分で調べたのかな。一部の学校はパンフレットをもらって、参考にしながら絵を起こしたと思います。


近岡流のキャラクターデザイン術

――アイドルアニメのキャラクターを描き分けるうえで、もっとも重視していることはなんでしょうか。


近岡:『WUG』のキャラクターデザインは、オーディションで決まった声優さんのイメージをベースにしています(編集部注:例えば、林田藍里は声優の永野愛理のイメージを投影し、左頬に泣きぼくろがある。キャラの名前も声優の名前と同じ読みである)とはいえ、僕なりのフェチズムを、キャラごとにかぶらないように入れています。僕のキャラクターデザインは、フェチっぽくないとダメなんですよ(笑)。


――具体的にはどんな部分でしょうか。


近岡:よっぴー(七瀬佳乃)があの髪型なのは、僕が黒髪ロングぱっつんが好きだからです(笑)。ななみ(久海菜々美)はポニーテール、かやたん(菊間夏夜)はギャルっぽい感じが好きなので、その要素を入れました。もちろんプロットの段階で7人のキャラ設定は決まっていますが、設定から逸脱しない範囲内で上手く自分のフェチを割り振っています。



――結果、近岡先生の好みのキャラクターができあがっているわけですね。


近岡:繰り返すようですが、いいキャラを作るにはまずデザイナーがキャラを好きにならないとダメなんですよ。そのためにはフェチが入っていないといけない(笑)。僕は、作家性ってフェチとイコールなんじゃないかと思います。クリエイターがいいものを作るには、フェチで戦うと強い。創作ってそういうものじゃないですか。


――山本監督はデザインについて、どんな指示を出されていましたか。


近岡:山本監督はキャラのイメージを壊さない範囲なら、割と自由にやらせてくれました。だから、僕のフェチを盛り込めたのだと思います。最近思うことなのですが、アニメーターに自由にやらせると演出意図とずれてくるという人もいますが、僕は自由にさせた方がかえっていい結果が得られる気がしています。


――クリエイターが楽しみながら創作ができるのが理想というわけですね。そういう意味では、『WUG』は山本監督と近岡先生の趣味がうまく融合している作品だと思います。


近岡:『WUG』がなぜいいかというと、山本監督がめちゃくちゃアイドル好きでインプットがとにかく多いからだと思いますよ。インプットなくして、アウトプットはないですよね。山本監督が今までアイドル文化に触れてきて、感動したものを表現している。そういったにじみ出ている部分にファンが共感するからいいんだと思います。


――おっしゃる通りですね。


近岡:最近特に思っているのは、僕ももっとインプットを増やさないといけないということです。インプットを増やして、感動して、「ああもう、しゃべりたいなあ!」と思うことが作品になるんだと思いますよ。


自身の会社でこれからやっていきたいこと

――2019年に、近岡先生はアニメ制作の会社「すなまる」を立ち上げました。その理由や近況について教えてください。


近岡:いま会社は4期目なのですが、最近思っているのは、受け身の仕事だけでなく自分で発信する仕事を増やしていきたいということです。最初はショートアニメをつくる会社にしたいと思っていましたが、アニメにこだわらず、漫画やイラストなど、ジャンルを決めずに作品を作っていきたいですね。


――クリエイション全般の会社ということですね。


近岡:僕が読んでいる佐渡島庸平さんのNoteに、「最高のエンターテイメントは本気の遊びだ」と書いてあったのです。まさにそうだなと。例えば、僕がゲーム実況しても面白くないわけですよ。本気で面白いと思ってやっている人には勝てません。これからは、本気で遊んでいることが重要。たぶん、人気のクリエイターさんはそんな感じで作品を作っていると思うんですよ。


――近岡先生の濃密な趣味嗜好が投影された作品が生まれるのが、楽しみです。


近岡:これからの人生は、自分が楽しいと思うことを存分にやっていきたいです。僕はアニメの業界に関わってきて、企画をする側にいきたいという想いが強くあるんです。オリジナルの企画をやりたいですし、関わる作品の中にも、許しが得られるならもっと自分の好きな気持ちを盛り込んでいきたいと考えています。