かつては、「見ない日がない」とまで言われるほど、毎日、手を替え品を替え放送されていた音楽番組。
令和の時代、少なくなった音楽番組
しかし、現在は『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)、『うたコン』(NHK総合)などは残っているものの、代表的な音楽番組は以前より少なくなった。
もちろん、細かいものまで含めれば、その数はもっとあるだろう。だが、「パッと思いつく、今放送している音楽番組を挙げてください」と問われたらどうだろう?
むしろ、「好きだった音楽番組を教えてください!」と聞かれたほうが、たくさん番組名が思い浮かべられるはずだ。
そこで週刊女性PRIMEでは、「もう一度見たい音楽番組」と題して30代~60代の女性1000人にアンケートを取り、独自に調査。どんな音楽番組に票が集まったのか……はたして、その第1位に輝いたのは!?
華やかだった昭和の音楽番組が上位に
「新幹線のホームからなど、今では考えられない中継をしていた。オリジナルのランキング方式も楽しかった」(青森県・50歳)
栄えあるナンバーワンに輝いたのは、『ザ・ベストテン』(TBS系)。「司会の黒柳徹子さんと久米宏さんとアーティストのコミカルなやりとりが最高」などなど、“忘れられない”という意見が多数を占めた。
それもそのはず、600回を数える『ザ・ベストテン』の平均視聴率はなんと20%超え。最高視聴率にいたっては、驚愕の41.9%(!!)。記憶にも記録にも残る大きな要因は、他の音楽番組とは一線を画す独自のオリジナルランキングだろう。
レコード売り上げ、有線放送リクエスト、ラジオ放送のリクエストチャート、番組に寄せられたはがきのリクエストの合計ポイントによって、毎週独自のトップ10(=ベスト10)を選定。視聴者が求めるリアルなランキングを届ける情報性こそ『ザ・ベストテン』の魅力だった。
また、「この番組にしかできない演出も人気の一因」と話すのは、テレビウォッチャーで漫画家のカトリーヌあやこさん。
「チェッカーズのときはゴジラが、小柳ルミ子さんのときはターザンが登場するなど、奇想天外な演出も面白かった。私が忘れられないのは、徳永英明さんが『輝きながら…』という曲を披露したとき。
徳永さんの後ろに野球帽をかぶったおじいちゃんたちが並んでいて、サビになると突然帽子を取って、つるつる頭を見せる……“輝きながら違い”なんだけど、そういった遊び心も視聴者の心をつかんでいた」(カトリーヌさん)
こうした特別感を支持する声は多く、同じく華やかなりし昭和の音楽番組である『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)が4位に、『歌のトップテン』(日本テレビ系)が5位にランクイン。その意見を見てみると、
「『夜のヒットスタジオ』は、新曲の初披露やフルコーラスが定着していた。この番組でしか見られないコラボもあり見ていて楽しかった」(神奈川県・52歳)。「『トップテン』はいまではありえないくらいセットが豪華。いくらかかってたんだろうと思う」(山口県・43歳)
というように、贅沢な生演奏や豪華なステージに魅了された人が多いことがわかる。
“音楽バラエティー”がテレビを席巻
「『歌のトップテン』は有観客の渋谷公会堂から公開生放送をしていました。当時のアイドルにはそれぞれに親衛隊がいて、アイドルと彼らのコールアンドレスポンスも見どころになっていた。
今で言う“ヲタ芸”的なものを含めた参加型の歌番組でした。昭和の音楽番組はそれぞれに個性があって、差別化が図られていたため思い出に残っている人が多いのでしょう」(カトリーヌさん)
夜ヒットの最高視聴率は36.0%、トップテンの最高視聴率は28.8%という数字が示すように、単に音楽番組が多いだけではなく、かつては人気の音楽番組も多かったという点も忘れてはいけない。
「'80年代から'90年代にかけて、アイドルブームとシンクロする形で昭和の音楽番組は盛り上がった面があります。実際、上記3番組は、そのブームが沈静化する'89年~'90年に終了しています。
では、アイドルの次に盛り上がったものは何か? それがとんねるず、ダウンタウンをはじめとしたお笑いですよね。『とんねるずのみなさんのおかげです。』は'88年にスタートし、以後、お笑い番組が人気コンテンツになっていきました」(カトリーヌさん)
その言葉を裏付けるように、2位と3位にランクインしたのが、『うたばん』(TBS系)と『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)。前者はとんねるず・石橋貴明が、後者はダウンタウンがMCを務める、お笑いの流れをくんだ“音楽バラエティー”だ。
「歌手のキャラクターの引き出し方が上手だった。普通の歌番組では見られないようなゲストの一面が見られて面白かった」(兵庫県・39歳)
『うたばん』は、嵐やモーニング娘。といったアイドルの個性を引き出し、『HEY!HEY!HEY!』は、シャ乱QやT.M.Revolutionなどのアーティストの意外な一面を引き出した。'80年代のアイドルブーム、'90年代のお笑いブーム、双方の良い部分をミックスしているのだから、この2番組がトップ3に食い込むのも納得かもしれない。
「'90年代半ばから歌謡曲はJ-POPへと変わっていきます。小室哲哉さん、小林武史さん、つんく♂さんといったプロデュースの時代であり、安室奈美恵さん、浜崎あゆみさんら歌姫の時代が到来する。アーティストに神秘性が増していったところがある」(カトリーヌさん)
だからこそ、「アーティストの素の部分を知りたいという視聴者の好奇心は高まり、トークが求められたのではないか」とカトリーヌさんは分析する。
ネット、SNS時代の音楽番組のあり方とは?
そして、6位に選ばれたのが、
「『堂本兄弟』も良いけど、やっぱり番組全体の作りが『LOVE~』のほうが面白かった。好きな歌を歌ったり、楽屋訪問したり、ギターレッスンだったり。内容が凝縮されていて良かった」(石川県・42歳)。「豪華アーティストのバックバンド&コーラスが魅力的だった」(千葉県・40歳)
といった声を集めた『LOVE LOVEあいしてる』(フジテレビ系)だ。同番組は、『HEY!HEY!HEY!』のプロデューサーを務めていたきくち伸氏が担当。当時はよく番組でもイジられていたが、これだけ票を集めたのだから、彼が残した功績の大きさを再認識する人も多いのでは!?
出演者がカラオケをするだけの異色番組がなぜ人気に?
続く7位にランクインしたのは、『THE夜もヒッパレ』(日本テレビ系)。
「皆でカラオケしてるような雰囲気が好きだった。司会の三宅裕司さんたちの掛け合いも面白かった」(長野県・46歳)。「いろいろな歌手が持ち歌以外の曲を歌うのが新鮮だった。わちゃわちゃして楽しかった印象がある」(宮城県・47歳)
という声からもわかるように、基本的には出演者がカラオケをするだけの異色音楽番組だが、カトリーヌさんは「時代の流れをつかんだ好番組」と評す。
「『夜もヒッパレ』は、'94年に放送スタート。その2年前の'92年には、通信カラオケが誕生しました。それまでは、レーザーディスクでしかできなかったカラオケが、全国津々浦々に楽曲配信ができるようになり、誰でも好きな歌を歌えるようになりました。そうした背景を上手にくみ取ったからこそ人気を博した」
懐かしのアーティストが、持ち歌ではない他者の曲を歌う姿が新鮮で、橋幸夫がSMAPを歌ったりするなど、「やっぱりこの人って歌がうまいんだな」なんて思った人は少なくないはず。
そして、8位は『ポップジャム』(NHK総合)。「好きだったビジュアル系のバンドがよく出たから」(東京都・36歳)
この意見にカトリーヌさんも膝を打つ。
「『ポップジャム』の司会をしていた爆笑問題のおふたりが冗談半分でおっしゃっていたんですけど、『ポップジャムはGRAYとラルクとLUNA SEAでもった』と(笑)。
よくよく考えると超人気アーティストをNHKホールのサイズ感で見ることができるって贅沢ですよね。『ポップジャム』でしか味わえないライブ感がありました」
令和の時代にふさわしい音楽番組が登場する日も近い!?
9位は、同じ時代に放送されていた『速報!歌の大辞テン!!』(日本テレビ系)で、今週のトップ10と過去のトップ10を比較し、時代性や情報性を加味した見せ方に「ためになる」と答えた読者が多かった。
「'90年代後半になると、以前よりもなかなかアーティストが登場してくれないといった事情もあったはず。過去の映像を使いながら、『音楽情報番組』に昇華させたのは、さすが日テレだなと思います」(カトリーヌさん)
10位は「少年隊のドラマコーナー『野良犬伝説』がどうしてももう一度見たい! アイドルがコントと歌と両方披露するのが良かった」(大阪府・50歳)といったコメントが寄せられた『ヤンヤン歌うスタジオ』(テレビ東京系)。
なんともクセの強い意見に聞こえるかもしれないが、「こうした特異性こそ音楽番組には大事ではないか」とカトリーヌさんは語る。
「音楽番組が減少したのは、かつてのように一家団らんで楽しむようなテレビの時代ではなくなったのもあると思います。また、芸能事務所とレコード会社によって流行歌が作られていた時代から、今はYouTubeやTikTokといったネット・SNSから発信されていく時代に変わりました。しかも、その速度が速く、流行のはやり廃りも速い」
だからこそ、テレビで音楽番組を作るなら、「テレビでしか見ることができない特別感が求められる」とカトリーヌさんは提案する。
「例えば、昨年末の紅白歌合戦に登場した、桑田佳祐さんをはじめとした同級生5人が集ったスペシャル・バンドは好例。
あるいは、ネットでバズった歌やバンドを、かつての『三宅裕司のいかすバンド天国』のように先取りして紹介していく、“TikTok天国”みたいな番組も面白いかもしれない。テレビでしかできない音楽番組が、まだまだあるはず」
“歌は世につれ世は歌につれ”とはよく言ったもの。今回のトップ10を見ると、音楽番組も世相を反映していることがわかるはず。だったら、令和の時代にふさわしい音楽番組が登場する日も近いかもしれない!?
もう一度見たい音楽番組TOP10
【第1位】ザ・ベストテン 142票
TBS系 '78~'89年
【第2位】うたばん 134票
TBS系 '96~'10年
【第3位】HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP 121票
フジテレビ系 '94~'12年
【第4位】夜のヒットスタジオ 99票
フジテレビ系 '68~'90年
【第5位】歌のトップテン 96票
日本テレビ系 '86~'90年
【第6位】LOVE LOVEあいしてる 83票
フジテレビ系 '96~'01年
【第7位】THE夜もヒッパレ 77票
日本テレビ系 '94~'02年
【第8位】ポップジャム 50票
NHK総合 '93~'07年
【第9位】速報!歌の大辞テン!! 33票
日本テレビ系 '96~'05年
【第10位】ヤンヤン歌うスタジオ 22票
テレビ東京系 '77~'87年
お話を伺ったのは……
カトリーヌあやこ○漫画家&テレビウォッチャー。『週刊ザテレビジョン』でイラストコラム『すちゃらかTV!』を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など
取材・文/我妻弘崇